第31話 閑話~メデリア・ドラマティカ視点2
ゲーム内で彼女は聖女の称号を得る。
悪役令嬢の妨害を乗り越えて、運命の恋人と結ばれるのだ。
そうしたら、三人が口々に言った。
「メデリアを脅かす者が聖女であるわけがない。化けの皮をはいでやるから、メデリアは安心しろ」
――そうして、殿下たちは彼女を排除しようと動き出した。
検査では、殿下自らが装置の故障させた疑いと正しい結果の提示を要求した。
それは、ほぼ命令だ。
彼女の属性と魔力値を変えろ、という。
だけど、変わらなかった。
装置を検査し、正しい結果を表すことが証明されたと、教師が殿下に告げただけだった。
殿下もまさか、暗に命じたことを無視されるとは思ってもいなかったのだろう。
「そうではない! 私は――」
「アドリアン殿下。……まさか、正しい検査結果を改ざんしろなどと命令しているわけではないですよね?」
教師に言われて殿下が鼻白む。
「……そう……ではないが」
「安心いたしました。そのようなことを申されているならば、王宮に報告をあげるところでした」
殿下がぐっと詰まる。
私は不安になり、殿下の腕をつかんでしまった。
「アドリアン様……」
「大丈夫だ、どうにかする」
「アドリアン殿下」
教師が厳しい目で私たちを見ている。
なぜ?
「殿下は、将来国王陛下となるかもしれない御方です。広い視野をもっていただきたいと、私は願います」
「失礼だぞ! 貴様!」
「でしたら、特定の男爵令嬢の検査結果を気にするような真似はならさないでください。それは、周囲に誤解を与える行為です」
「「…………」」
私たちは黙るしかなかった。
あの教師は解っていない。
放っておいたら私が断罪されるのよ……。
不安に思っているとバルトス様が、
「私が化けの皮を剥がし、追い出してやる」
と、言ってくれた。
……そしたらなぜか、バルトス様は休学されてしまった。
不安になってバルトス様のお見舞いに駆けつけると、バルトス様は顔のほとんどに包帯が巻かれていた。
「これはいったい……」
驚きのあまり立ち尽くしていると、微かにバルトス様が声を出す。
「……アレは、……の、娘だ……」
「え?」
何の話をしていらっしゃるのかしら?
詳しく聞こうとしたけれど、これ以上はしゃべれないようで、ほとんど聴き取れない。
もう少し治るのを待つしかないようだった。
オーレン様は、バルトス様が休学されたことに怒ってくださった。
そして、
「私がどうにかするから、安心してほしい」
と、笑顔で言ってくださった。
だけど……。
「……すまない。負けた」
と、オーレン様は一言謝り、黙りこくってしまった。
私の不安はますます膨れ上がる。
――二人とも、本当は主人公に籠絡されたのではないかしら……。
日々を不安に過ごす中、編入生が入ったとの噂がたった。
それは、攻略者の一人、辺境伯令嬢だ。
彼女はいわゆる百合ルートになる。
中性的な美貌で、常にパンツスタイル。
刺繍より剣が好きで、それがコンプレックスになっている。
確か、騎士クラスに入るはず……。
と、騎士クラスを覗いたら、いない。
もしかして貴族クラス……?
と考え、念のために他のクラスも覗いてみるが、いない。
……まさか……。
こわごわ魔法クラスを覗いた。
ゲームのキャラクターとは違うけれど、背が高く美しい、男性か女性か分からない生徒がいた。
彼女がそうだと分かった。
よりにもよって、魔法クラスなんて……。
これは、原作を改変したせいでなの?
これ以上改変させないように強制力が働いていて、よりにもよって主人公と同じクラスになっているの?
私は怖くなり、彼女と仲良くなろうと魔法クラスに通った。
主人公がからんでくるかと身構えていたが、意外なことに何もしてこない。
主人公が静観しているうちに、彼女をこちら側に引きこまなければ……。
確か彼女は、兄の怪我を治すための手がかりを求めて隣国へ赴いたが結局つかめず、いいかげん学園へ通えと親から呼び戻されたのだ。
百合ルートは興味が無くてスキップしまくりで進めたので詳細がわからない……。
だけど、エンディングだけは分かる。
兄の怪我を治す邪魔をしたと、私は暗殺されるのだ――。
兄の怪我を治すのは、もちろん主人公。
奇跡とも言える治癒魔法で治療するのだ。
最初は主人公の魔法目当てで近づいたのだが、彼女の健気さに触れて、しだいに惹かれ合う……そんな感じだった気がする。
なので、彼女は主人公の気を引こうとするはずなのだが……見た限り、ほとんど会話をしていないようだ。
そもそもが、彼女自身があまり教室にいない。
図書室へ行ってしまう。
恐らく、治療方法を探しているのだと思うのだけど……なぜ主人公に頼まないのかしら?
彼女のもとへ向かい必死に気をひいたが、なびいてくれない。
しかたがないので、キーワードを言ってみることにした。
本当は、彼女から言ってほしかったのだが、悠長に構えていたら主人公に攻略されてしまう!
「……私、貴女の探し物を存じておりますわ」
――それは、言ってはいけないキーワードだった。
地雷ともいう。
終始クールビューティだった彼女の瞳が、急に生気を取り戻したかのように爛々と輝いた。
釣れた!
と、思ったのは一瞬だった。
彼女は、私の胸ぐらをつかみあげたのだ。
怒っているのが分かった。
失敗した。
言わせるべきだったのだ。
焦ってやらかしてしまった。
しかも、主人公まで来てしまった!
どうしよう、もう断罪が始まるの?
私が原作を改変して、しかも失敗したせいで、変な強制力が働いて、断罪が始まってしまった……!
「言え! 何をどこまで知っている!?」
彼女は怒り狂っている。
どうしたらいいの?
そうしたら、私の最後の砦、アドリアン様がやってきた!
アドリアン様は主人公を責め……。
主人公は、見たこともない魔法で、槌矛を召喚した。
え?
何が起こっているのか分からない。
でも、アドリアン様が危ない気がする。
まさか、主人公なのに、その槌矛でアドリアン様を殴ろうとしてないわよね?
気を引くためとはいえ、やりすぎじゃないかしら?
アドリアン様も、縮み上がっている。
間一髪、教師が現れた。
この教師、常に私の死亡フラグを立てようとするのだけれど、今回はフラグを折ってくれそう。
……と思ったのに、アドリアン様に説教をしたわ!
悪いのは主人公なのに!
アドリアン様は、教師と言い争っている。
「メデリアを怯えさせるアイツが悪いに決まっているだろう!? 私は王族で、彼女は公爵家の令嬢だぞ!?」
「それを『言いがかり』と言うのですよ、アドリアン・ソル・ユニウス殿下。確かに格差はつけておりますが、王族や高位貴族の横暴を許すことは、学園ではあり得ません」
「……私が王になったら、お前を学園から……いや、この国から追放してやるぞ」
ハァ、と、教師がため息をついた。
「その発言、お忘れなきように」
「忘れるものか!」
「それはようございました。学園長から陛下にお伝えいたしますので、『忘れた』などと言われては困りますからね」
アドリアン様が絶句する。
私はアドリアン様の腕にすがった。
お願い、この教師にもっと言ってやって!
教師は私たちを冷たい目で見て、説明し始める。
「教師は、王族から低位貴族までを平等に教育します。そこへ、権力を持ち出して脅しをかける生徒が毎年必ずと言っていいほど現れます。教師がそれにおもねるようなら、学園などいりません。ゆえに、そのような事態になったときは国の最高権力を持つ御方から、その貴族へ注意がいきます。今回は、陛下の子息である第一王子ですから……陛下が直々にお叱りになるでしょう」
アドリアン様と顔を青くする。
私は思わず教師を詰った。
「……なぜですか。なぜ、そこまでしてあの女を庇うのですか!? たかが男爵令嬢でしょう!?」
教師は重いため息をつく。
「私こそ伺いたいですね。なぜたかが男爵令嬢を執拗に追いつめようとするのです? 憂さ晴らしですか?」
「違うわ! そんな……ひどい!」
「ひどいのは、なんの咎もない男爵令嬢に言いがかりをつけている公爵令嬢と王子殿下です。彼女があそこまで勝ち気な性格でなかったら学園を辞めていたでしょうし、家族もヴァリアント男爵家でなかったら爵位を失っていたかもしれないのですよ? ……権力を振りかざし脅しをかけるような品のない行為はおやめなさい!」
この叱責を聞いて理解した。
……あぁ、やはり私は、悪役令嬢から逃れられないのだわ。
私は彼女に何もしていないというのに、こうやって私のせいにされて、そして……最後には断罪されるのね……。




