第30話 閑話~メデリア・ドラマティカ視点1
《メデリア・ドラマティカ》
私が、ここが乙女ゲームの世界だと気づいたのは婚約者を紹介されたとき。
アドリアン・ソル・ユニウス殿下はこの国の第一王子で、私は……彼に卒業パーティで婚約破棄と断罪をされるのだ。
私は、婚約をなかったことにしてほしいと頼んだ。
「私は、殿下にふさわしくありません、殿下には、もっと良い方が見つかるはずです」
アドリアン殿下は驚いた。
周りも何を言いだすかと思っている。
父は、
「これから、ふさわしくなれるように努力すればいいじゃないか」
と言ったが、容姿は変えられない。
「殿下は、可憐な方がお好みです。ふわふわしたピンク色の髪に、いかにも助けてあげたいといった雰囲気を持つ方が。私とは真逆の容姿の方が。ですから」
「待て。僕の好みを勝手に決めるな。僕自身が自分の好みの女の子など知らないぞ」
怒った声でさえぎられた。
……確かにそうかもしれない。
でも、出会ったらきっと好きになる。
それが解っている。
私は関係者全員から説得され、婚約者にされてしまった。
その代わり、誓約書を書いてもらった。
・もしもアドリアン殿下が誰かと特別親しくなったり、あるいは噂が立ったりしたならば、すみやかに婚約を解消すること。
・アドリアン殿下が別の女性と婚姻を結びたいと考えたならば、すみやかに婚約を解消すること。
・ただし、両方ともにアドリアン殿下が直接私に告げるのではなく、書面で行うこと。
本当は『アドリアン殿下のお相手の方が私にいじめられたと訴えても確実な証拠がない限り罪には問わないこと』と、入れたかったが、父から却下された。
妥協してこうなったのだ。
「当たり前すぎる内容なのに、どうしてわざわざ書面に……?」
「当たり前だからと書面にしないのはおかしいでしょう」
私以外は首をひねり渋面顔だが、これで気が済むのならと、書面にしてくれた。
これで、少しだけ安心する。
このことに、アドリアン殿下は怒っているようだった。
……考えれば当たり前だろう。
初っぱなから浮気を疑われ、本人にだってまだ自覚のない時期に好みの女性について指摘するなんて、失礼もいいところだ。
結局は嫌われるのか……と思っていたら、アドリアン殿下は距離を詰めてきた。
俺様気質で容姿も良く、さらには地位も素晴らしく、周囲から常にあがめ奉られている殿下には拒否する私が新鮮に映ったようで、それから交流を深めていった。
殿下と交流を深めていくうちに、私は乙女ゲーの内容を少しずつ殿下に教えていった。
殿下は驚くほど素直にそれを信じてくれた。
その後、宰相の息子オーレン・レグナードと騎士団長の息子バルトス・ブレイブハウンドが殿下の学友に選ばれ、私はまた怯えることになった。
乙女ゲーの主人公がハーレムルートに入ると、この二人は婚約破棄の際に私を捕まえ処刑する役割になるのだ。
悩んだ末、私は乙女ゲーの主人公が籠絡した手口……彼らの悩み相談を勝手に引き受け、悩みを晴らした。
彼らは私に傾倒してくれた。
なので、彼らにそれぞれ伝えた。
「いつか、貴方にも運命の出逢いがあると思います。私はそれを邪魔しません。なので、もしも私に少しでも友情を感じてくださっているのなら……私は貴方と運命の方の祝福をするので、道を踏み外さないようにしてください」
二人とも怪訝な顔をしていたがうなずいてくれた。
「すでに運命の出逢いはあったよ。メデリアというね」
「君のため、絶対に道を踏み外さないと誓おう。そして……運命の出逢いは、目の前の君と起きた。それ以外はあり得ない」
それぞれがそう言うが、主人公に会えば絶対に気が変わるだろう。
殿下も……。
私は何度も、好きになった人がいるのなら、私は潔く身を引くので教えてくれと言った。
三人とも、私を慰め、そんなことはないと否定してくれる。
それを信じたい気持ちと、裏切られたらと竦む気持ちで揺れ動き、精神的に不安定になってしまった。
それでも三人は私を優しく慰めてくれた。
そして……運命の入学式。
道に迷う主人公と出逢い、殿下が席までエスコートするのだ。
私は不安で胸が潰れそうになり、医務室で休むことになってしまった。
心配した三人が代わる代わる見舞いに来てくれた。
……殿下はやはり、主人公と出逢ったようだった。
だけど、鼻で笑った。
「見え透いた嘘をついたので無視して立ち去った。まったく好みじゃないから安心してくれ。それに、君の言うような髪の色でもなく、愛らしさもなかったよ。どこにでもいる、低位貴族の娘だった」
……それは、違う子では?
と、思ったが、その子以外には会わなかったそうだ。
「……君の言う容姿に該当するのは……あれは魔法クラスだっけな? ただ、ピンクとは言い難いな、金のほうが近い髪色だったぞ。……なんというか、纏っている空気感が違うというか、オーラがあるような子だった」
ずっと顔を伏せていたのでよく見えなかったのだが、と、殿下が付け足していた。
私は、その子だと確信した。
大人数の中で、殿下が目を付けたのがその子だけならば、その子が主人公だ。
その子の名は、リリス・ヴァリアント。
男爵家の庶子で、魔法が使えるので貴族籍に入り教育を受けたという。
遠くから見た彼女を確認したが、殿下の言うように光の加減でピンク色にも見えるが金色と言うほうが合っている髪色だった。
恐らくイラストと実物の差異だろう。
印象的な深い青の瞳を持つ、かなりの美少女だった。
乙女ゲーのときはモブの男に囲まれていたのに、この主人公は女子の友達が多いようだ。
――ゲームの主人公にふさわしい、明るく健気そうな美少女。
――一方私は、黒に近い赤い髪、薄い水色の瞳。
殿下は褒めてくださるけれど、冷たい印象を与えるでしょうね……。
もちろん、公爵令嬢なので美容には気を遣うし、お手入れだって欠かしていない。
顔だって、かわいいとは言いがたいけれど、美人の部類には入る。
でも、主人公を見たとき負けたと思った。
あんなに愛らしい子、誰もが好きになるに決まっているわ……。
私が運命に涙していると、三人がなぐさめてくれた。
そして、誘惑されても決して彼女にはなびかないと誓う、と言ってくれた。
そんな誓いのどこに効力があるというの。
あの子は聖女よ、そう教えた。




