第29話 ファザコンを自覚したのである
やろうとしたけど集まってきた周りに囲まれ止められた。
「り、リリス……やめようよ……」
「リリス、ステイ」
「退学どころじゃないわよ、リリス」
「格好いいけど~、止まって~」
コーデリア・セイジクラウン先生も飛んできた。
「なんの騒ぎですか!?」
「突如現れた第一王子が、やってもいない冤罪をでっちあげてきたので、ここらで一発ド派手に退学になりそうな事をやらかそうかと思いまして」
「リリス・ヴァリアント、落ち着きなさい! 貴女は確かにガレス・ヴァリアントの血を色濃く継いでいるのでしょうが、彼は、か弱き者に無体を働きませんでしたよ!」
う。
そう言われると……。
槌矛をしまい、うなだれる。
「……そうかもしれません」
ハァ、とコーデリア・セイジクラウン先生がため息をついた。
「貴女は無意識に、貴女の父と他者を比べています。貴女の父は比類なき強さを誇りますが、皆がそうではありません。もっと広く心を持ちなさい。世界には、いろいろな人、いろいろな考え方があるのです。それをうまく呑み込みなさい。誰かに何かを言われるたび暴力に訴えていたら、人類はいなくなりますよ」
と、スケールの大きいことをおっしゃられたわ。
「はい。申し訳ありませんでした」
そして、ちょっとショックだったわ。
私、実はファザコンだったみたい……!
……嫌だ!
私はママンみたいにならない!
あんなろくでなしの男を好きになったりしないからな!!
ショボーンと落ち込んでいたら、周りから慰められた。
「元気なリリスはとても素敵ですわ。だから、落ち込まないでくださいまし」
「ちょっとくらいのオイタは、みんな大目に見るわ!」
「大丈夫、本来ならあちら側が無体を働いているんですもの。リリスは正義の味方です!」
「高位貴族にもひるまずやり返すリリスは、とっても格好いいです!」
ちなみに、レイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢はすでに立ち去っていた。
あの女子生徒に「夢」って言われたら、見るからに軽蔑した顔をした後、無言で去っていったよ。
第一王子も叱責された。
最初から第一王子には私に対する偏見があり、思い込みが過ぎると厳重注意がされたのだ。
第一王子と女子生徒はコーデリア・セイジクラウン先生に何か言い返しているが、私は落ち込んでいて聞いていなかった。
「……私って、ファザコンだったみたい……」
深刻に言うと、みんなが顔を見合わせている。
「……知っていますけど……」
ノエルが怖ず怖ずと言うので目を剥いた。
「なんで知ってるんです!? セイジクラウン先生に言われて気づいたのに!」
また、みんなが顔を見合わせている。
「だって~、話すことがお父様のことばかりじゃありませんか~」
「貶めながらも、尊敬の念が伝わってきましたし」
「全ての基準がお父様でしたし……」
「あああああ~~~~! それ以上言わないで~~~~!」
赤面のあまり顔を覆って暴れた。
だって、会話するのが一番多かったの、ママンを除けば当主様なんだもん!
ホンットーに女好きだよなこの男、って思ってたけど、でも元冒険者で冒険譚は面白かったし、いろいろ教えてくれて面倒見てくれて、庶子だけど娘としてかわいがってくれてたんだもん!
友達と言えるのがセラフくらいな私だったんだから、かまってくれる人に懐くの、当たり前でしょ!
……だからさ。
「……尊敬してるし大好きだけど、やっぱり許せないの。当主様は、ママンのこと好きなくせに奥様に仕事を押しつけてどっちとも別れられないとかいうクズなんだもん。奥様に申し訳ないって思う。義姉にも……正直、私を嫌って当たり前だと思うし、私はとっとと家を出たかったよ」
被害妄想お嬢様だけど、そうなってもしかたない環境だったのかもしれない。
当主様は、あからさまに私に目をかけていた。
奥様は、属性のせいで自分の娘よりも私を贔屓にせざるを得なかった。
でも、冤罪はやめてほしい。いや、本人にとっては冤罪じゃないんでしょうが……夢と混同しないでほしい。
みんなによしよしされた。
「こればっかりは、何も言えませんけど……」
「確実に言えるのは、リリスは何も悪くないということです!」
「思いわずらってもしかたないですし、元気を出して」
「元気なリリスが~、似合ってますよ~」
……そうだね。
私が悪いわけじゃない!
思いわずらってもしょーがないよね!




