第28話 王子様をどつきまくろうとしたのである
私は放心した。
手を出そうとしたのはレイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢で、私はむしろ止めたほうなのに、何を言ってるんだろう?
よく見たらアイツ、検査の時にインネンつけてきた第一王子とやらじゃん。
「『聖納。リリスメイス』」
放心しながら詠唱すると、魔法陣からゆっくりと現れた鎚矛をつかんだ。
ノエルが慌てて私の服をつかんだ。
「ちょっと……リリス、落ち着いて……」
「いやここらで一発退学騒ぎになることをかまそうかなと」
「かまさないでください!」
フレイヤがツッコんだ。
レイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢は私をチラッと見ると言う。
「そっちの男は殺していいが、こっちの女はまだ殺すな。聞きたいことがある」
「「「「殺さないでください!」」」」
周りが異口同音で叫んだ。
第一王子と女子生徒は抱き合ったまま、私を呆けて見ている。
「よーし、一発退学決めてやるぞー。そこのお前、覚悟はいいな? あ、そこの女子は巻き添え喰らいたくなかったら離れててね? 今から、そこの男の頭をコレで叩いて正気に戻すから!」
リリスメイスをぐるぐる回しながら近づくと、第一王子は慌てたように言った。
「き、き、貴様! 私が誰だか知っているのか!?」
「アンタは私が誰だか知らないようだね。私はリリス・ヴァリアント。父がガレス・ヴァリアントって言って、元冒険者なんだよ。この気性は父譲り。父ならアンタを間違いなくぶっ飛ばしたと思うので、私もいきまーす」
レイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢は女子生徒の腕をつかみ、引っぱる。
「きゃっ!」
第一王子がレイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢を見て怒鳴る。
「メデリア! 貴様、メデリアを離せ!」
「そっちの用件を片づけてからにしな。そもそも、彼女は私と話していたんだ。外野は口を出すな!」
第一王子には目もくれず言うと、彼女に詰問した。
「さっきの言葉はなんだ? 何を知っている? 答えろ!」
「……わ、私は……。彼女が……言葉巧みに騙すことを知っています……」
「そんなことは言ってなかっただろうが! 私の探し物について知っていると言っていただろう!? その探し物はどこにある!?」
「わ、わかりません!」
レイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢はチッと舌打ちした。
「もう一つ。なぜ知っている」
「ゆ、夢で見たのです」
その言葉に、私は止まって彼女を見た。
夢。
何? この国の貴族って、夢で見たことを現実だって思うの、当たり前なの? それが常識なの?
私の表情を見て、ヒッと女子生徒が声を出した。
そして、慌てたように第一王子が女子生徒をかばった。
「メデリアに手を出したら、ただでは済まんぞ!」
「大丈夫。その前にアンタをぶちのめすから」
ニッコリ笑顔で通達したら、血の気が引いている。
「き、貴様の誘惑になど、私は屈しない! だからといって、直接的な暴力に出るのか!? 卑怯だぞ!」
「アンタは卑怯にも権力で私の気を引かせようとしてるじゃん。私は退学になりたいので、効きませんけどね~。あと、もしかしてさ、私がアンタに気があるって思い込んでる? まさかね? このかわいいリリスちゃんが、アンタみたいな男に惚れるとか、絶対にあり得んでしょ。私の父よりぐーんと見劣りがするじゃんか!」
第一王子が赤くなった。
だが、すぐに嘲るような表情になり、私に向かって吠える。
「そうやって気を引こうとしても、無駄だと言っただろうが!」
「無駄なのはアンタのほう。私の気を引こうとしても、無駄! もっかい言うけど、私の父は、そりゃあもう女にモテまくりの男なのよ。私ですらモテる理由は解る、って思うくらいに! ……で? アンタのドコにモテ要素があるのさ? チビ、ヒョロヒョロ、大した魔法は使えない、大して強くもない、王子って肩書きを持ってるがゆえに周りにおべんちゃらで賞賛されているのにそれが理解出来ない。え? もしかしておべんちゃらを勘違いしてたとか? 痛ーい!」
思いっきり嘲ったら、泣きそうになっている。
私は槌矛をグルグル回しながら第一王子に迫る。
「そんな痛々しい第一王子クンのオツムを、これで叩いて直してあげるよ。喜びな?」
「そんなので叩かれたら死ぬだろう!?」
「その時はその時で」
「やめろ!」
やーだね!




