第27話 仲裁に入ったら言いがかりをつけられたのである
「レイヴン・シルバーウインドだ」
自己紹介されて、あ、串焼きの子だと判明した。
向こうも気づいた様子だが、とぼけているようなので私も知らないフリをした。
うーん、確かに中性的だ。
魔法クラスの制服ってローブだから、ユニセックスなんだよね。
魔法使いだと男女共に長髪が多いので、髪の長さも当てにならないし。
ぶっちゃけ性別はどっちでもいいんだけど、ただ、普通は自己紹介で爵位もつけるのよ。
貴族の学園では爵位が重要。低位貴族が高位貴族に失礼をしたら(普通は)とってもヤバいと奥様から聞かされている。
……言わないつもりかな?
他のみんなもそう考えたらしい。
フレイヤが代表して尋ねてくれた。
「あの……失礼ですが、爵位をお願いしますわ。間違いがあると困りますもの」
「爵位は、気にしなくていい」
とか言いだしたので、みんなが困った顔をした。
辺境伯は、爵位としては伯爵。だけど実質的に侯爵家と同等に位置することになる。
つまり、ここのクラスの最高位なのよ。
言わない、ということは、最下位になる。後出しジャンケンで「俺は実は辺境伯の子なんだ気を遣え」って言ってくるかもしれなくて、それがたとえ今更感満載でも、そう言われて無礼にされたと言われても、低位貴族は何も言えないのよ。
しかたない。私が説明するか。
「あのー……。ここは、貴族の学園で、爵位を隠されるということは最底辺と扱われていい、ということになりますよ?」
私が怖ず怖ず、といった雰囲気を出しつつ言うと、レイヴン・シルバーウインド氏は気にした様子もなく返す。
「別にかまわない」
「……食堂は、高位貴族から順に好きな料理を取っていきます。最下位は、全員取り終わってから余りを取ることになりますが……最悪、パンのみということもあります」
レイヴン・シルバーウインド氏はキリッとした顔で皆に告げた。
「辺境伯家の娘だ。よろしく頼む」
手のひら、くるっと返したな!
――出会ったときから解ったのよ。
コイツ、食い意地張ってるなって!
*
レイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢は、孤高の人だった。
群れるのが嫌いらしい。
そしてかなりの読書家なのか、ちょっとした休み時間は図書室へ足しげく通っている。
「真面目なご令嬢だね」
つぶやくと、シエルにツッコまれた。
「まるで私たちが真面目じゃないみたいじゃないですか」
確かに。
真面目とは違うか。
なんて言うか……。
「……学生生活を楽しむ気がないみたい?」
「それだ」
シエルの言葉に同意した。
そんな感じがする。
冒険者と名乗っていたので、実際冒険者をやっていたことがあるのだろう。
途中でここに入ってきたのは、何かしらの目的があるんだと思う。
私なら、冒険者をやっていたら学園に編入しようなんて思わないし、若い頃の当主様も思わなかった。
……となると、長くいることはないんだろう。目的を終えたら学園を辞める。そんな気がする。
そんな彼女は、とても人気がある。
中性的な美形だからだろう。
女性にしては背が高いし。
シエラにコソッと言われた。
「今、女子の人気はリリスとレイヴン様とで二分しているのよ?」
それはどういう情報?
「……もし私が父なら、レイヴン様に決闘を申し込むんでしょうけど……あいにくと私、父のような女好きではございませんので……」
そう言ったら笑われた。
いや実際、レイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢ってめっちゃモテるわよ。
しょっちゅう女子生徒から声をかけられていますからね!
一人、熱心な女子生徒がいて、よく見かける。
私はあんまり貴族に関して詳しくないんですが、この国、貴族の同性婚は認められなかった気が?
平民に縛りはなかったはずなので、貴族籍を抜ければ大丈夫だろうけど……。
――と、レイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢が、彼女の胸ぐらをつかんだ!
「貴様、何を知っている!?」
えええええ?
私はノエルやフレイヤと顔を見合わせ、そちらへ向かう。
「レイヴン様、落ち着いてくださいまし。どうなさったのですか」
フレイヤが声をかけるが、レイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢は彼女の手を離さない。
そして胸ぐらをつかまれている彼女、なぜか私を見て怯えた顔をした。
……よく分からないけど、こう言った。
「えっと? 事情が分からないけど絵面は悪いので、手は離したほうがいいかな? と、思うんですけど」
「…………」
それで、レイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢は手を離す。
相手の女子生徒は、とにかく私を見て怯えている。
私の後ろかなと思い、ススス、と移動したが目が追ってくる。
ノエルが私の挙動を見て、不思議がっている。
「……リリス、何をしているの?」
「いや、あの彼女、私を見ているような……」
指をさしたら「ヒッ!」とか言われたし……。
「そりゃあ、騎士団長のご子息を拳一つで倒したり、宰相のご子息を魔法で細切れにしようとしたりするんですから、普通の令嬢なら怯えてもしかたがありませんわ」
と、フレイヤがバッサリ言い放った!
「……く、クリティカルヒットした……」
胸を押さえてよろける。
なるほど、当主様も私が指摘したときはこんな気持ちだったのね……。
怯えられないよう、ノエルの後ろに隠れた。
……そんな話をしている間も、レイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢は彼女に詰め寄る。
「言え! 何をどこまで知っている!?」
彼女が(なぜか私を見ながら)怯え震えていたとき。
「何をやっている!?」
叫び声が聞こえてきたと思ったら、バタバタと誰かが近づいできた。
「……アドリアン様!」
くだんの女子生徒は、走り寄った男子生徒にヒシとしがみついた。
……え、恋人がいるのにレイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢に言い寄ってたの?
私たちは展開についていけずポカーンとしていたら、女子生徒と男子生徒が小芝居を始めた。
「……私……。もしかしたら、レイヴン様もお救い出来るかもと説得していたのですが……すでに時遅く……」
「メデリア、君は聖女のように心優しいが、すべての者が救えるわけではない。自分を責めるな」
……なんかバカらしくなってきたな?
「行こっか?」
「え? そ、そうね、落ち着いたようですしね」
レイヴン・シルバーウインド辺境伯令嬢はまだ彼女に用があるだろうけど、恋人が来たからには迂闊なこともしないだろう。
私たちはそう結論づけて、去ろうとしたら……。
「貴様! リリス・ヴァリアント! よくも私の婚約者に手を上げようとしたな!」
とか言いだしたよ?




