第26話 編入生が現れたのである
授業が終わったら囲まれた。
特にフレイヤとシエルが食いつく。
「杖を召喚していましたわね!?」
「召喚ではなくて……マジックバッグってあるでしょう? あれを魔法でやっているのです」
「聖属性にはそんな魔法があるんですか!?」
「たぶんないです。属性なしのほうが出来るかも? 私は、創意工夫でなんとかしました」
「なんとかなるものなんですか!?」
なるものは、なるんです。
これはいけただろと思って、コーデリア・セイジクラウン先生に尋ねた。
「そろそろ私、素行不良で退学になるんじゃないですかねー?」
コーデリア・セイジクラウン先生が笑顔で答えた。
「残念ながら、今回の件はオーレン・レグナードが解決した件を蒸し返し、さらには教師の指示を無視して生徒に命令したのが原因です。貴女のせいではありませんよ?」
まだダメなのか……。
*
昼食は、食堂を使うか弁当を持ってくるかだ。
初日はみんなと食堂へ行ってみたが、ここも格差社会……高位貴族が優先され、すごーく待たされた上にろくなメニューが残ってないので次からはみんなでランチを持参することにした。
寮生は弁当など作れないが、王都は店が多い。ちょっとだけ早起きして街へ出れば、朝早くからいろいろな弁当を売っている。
基本はパン、おかずがほしければ蓋付きの容器を持参するか油紙にくるんでもらうかだ。
最初は弁当を作っていたけれど、最近は気分転換も兼ねて買っている。飽きたらまた作るつもり。
この国のパンはとてもおいしい。
異世界あるあるの種なしパンではなく、ちゃんと天然酵母で作られている。
麦の種類もいろいろあるみたいで、最初は選ぶのが楽しかった。いや今でも楽しいかな!
魔物肉もいろいろ売られていて、それぞれ味わいが違うのも楽しい。
串焼きなんかも、この屋台のこの肉のこの味つけがおいしい、とかあるのよ!
いやー、楽しいなー!
ランチ調達兼朝食のため町の屋台で買い食いをしていたら、視線に気づいてそちらを向いた。
すごい目つきで睨んでくる、フードをかぶった怪しげな人がいるぞ。ムム、不審者か……?
ジッと見たら、何やら考える素振りをしだした。
…………? 手招きされたんですけど。行くべき?
悩みつつも寄っていったら、フードの人は鋭い視線で私の串焼きをガン見している。
「失礼。あなたの食べている串焼きがあまりにもおいしそうで、つい見つめてしまった」
口説き文句か? みたいなことを言い出したよこの人。
「見つめていたというより、睨んでいましたね。買ったらどうです?」
「……実は、両替するのを忘れていた。昨日、両替分を使い果たしてしまったのだ。そこで頼みがある。もしよかったら、手持ちの金とこれを交換してくれないか」
と、出されたのは金貨。
しかし、どこの国の金貨だかが判らない。
「『聖査』」
鑑定したら、隣国の金貨らしいね。偽物ではない。ついでに呪われていない。
「いいですよ。ただし、価値が分からないので足元を見ますけどいいですか?」
「かまわない」
ということで、銀貨八枚と交換した。
この国だと、銀貨十枚で金貨一枚、銅貨十枚で銀貨一枚、鉄貨十枚で銅貨一枚だったりする。
「よし! 助かった。買おうとしたら、どの店からも拒否られた」
でしょうね。だって、偽物かもしれないし。
フードの人はフードを取る。
見事な銀髪、つり目の薄緑の瞳のせいでずいぶんと怜悧な印象だ。
とても両替忘れて腹を空かして人の食べ物を睨んでいたとは思えない知的な美形だった。
「感謝する。……もし、冒険者に用があるなら、一度だけ格安で依頼を受けよう」
「あ、間に合ってます。私も冒険者なので」
ソッコー断ると、そうか、とうなずいていた。
「私はレイヴン・シルバーウインド。では、行ってくる」
私が名乗る前に行っちゃったよ。
よっぽどおなかが空いてたんだなー。
性別すら分からないその子との出会いは、それで終わると思っていた。
*
学園の、魔法クラス専用のラウンジでみんなでランチを食べる。
魔法クラスはほぼ全員がラウンジで食べている。
上級生もだ。
なぜなら魔法クラスには高位貴族がほぼいないからである。
食堂で、延々待たされた挙げ句余り物みたいな(しかも冷めてる)ランチを食べるくらいなら、好きなのを用意した方がマシだわ、というのが低位貴族の一致した心の声なのである!
「『聖火』」
私は用意したパンやおかずを、絶妙な火加減で温め直している。
それを、周りは呆れた目で見ている。
「……毎度のことながら、器用なことをしますわね」
「今日のランチは、温かいほうがおいしいので!」
おいしいものは、おいしく食べたいのである!
ちなみに今日のランチは、ホーンラビットの串焼きスパイシー風味と夕食の残りの蒸し野菜のチーズソースかけ、それに硬めのパンだ。
硬めのパンは焼くとパリッとなってとてもおいしくて、ホーンラビットも冷えると固くなるが温めるとギュムギュムしておいしい。
「この、魔法の深淵を見よ!」
高笑いしながら言ったら、
「いや、実際すごいよ。僕はとにかく上級魔法を使えるようにならなきゃ、って考えていたけど、こういう繊細な魔法の使い方を見ると、魔法の難易度は等級じゃないのかもしれないって考えるようになった」
と、クリス・ギャラガー子爵令息が言った。
「そこはなんとも言えないなー。魔法クラスにいるけれど、私の目標は冒険者なので。目指すのが魔法士団なら、上級魔法や特級魔法を使えたほうがいいんじゃない? 研究職なら、幅広く魔法を使えたほうがいいんだろうけど。知らないけど」
魔法士団は、騎士団の魔法バージョン。国に雇われていて、有事の際は出動し、他にもいろいろやるっぽい。
魔法の研究職も、国家機関だとテーマが与えられてそれの研究をする、らしい。
どっちも興味がないので詳しく知らない。
「そもそも、聖属性に火を扱う魔法があるのが意外です……」
と、ノエルに言われて、
「まぁ、私は父の影響が過分にありましたので……」
と返した。
当主様が、低級魔法ならなんでも使えるはず、って言うからぁ!
「そう! それを聞いて、僕も練習し始めたよ!」
「私も」「私も」「僕も」
と、声が上がった。
私に限って言うのなら、属性の縛りから逃れられませんでしたので『低級ならなんでも使えるはず』という話は否定したいものがあるけど……。頑張れー。
「あ、そうそう。今度転入生が魔法クラスに入るらしいよ」
「へー! 珍しいわね」
「隣国で修行していて、入学に間に合わなかったんだって」
「それはすごいね。バリバリの魔法使いなんだ?」
「うーん。それが、辺境伯令嬢……あれ? 子息だっけな? らしいよ」
辺境伯かー。
聞くからに戦闘民族っぽいんだけど、魔法使いなんだ。




