第21話 魔法クラスで猫を被ったのである
魔法クラスの雰囲気は上々だった。
一クラスしかないので皆和気あいあいとしている。
あ、ただ、一人だけ伯爵令嬢がいるんだけど、
「私は冒険者になるんですの!」
と、いきなりフルスロットルで猫を剥がしにきたよ。
「素敵な夢ですわね」
うふふ、と猫をかぶりつつ答えると、ジロリと睨まれた。
「そういう、思ってもいないことは言わないほうがよくってよ」
「まさか。私も冒険者になりたいんですの」
と、返したら、クラス全員が呆気にとられた。
「父が直々に鍛えてくださっているので、男爵領では狩りをしていましてよ」
そう言ったら伯爵令嬢がうらやましそうな顔になった。
あれ?
ホントになりたいんだ?
「もしかして、父をご存じ?」
「知らない方はいらっしゃらないでしょうよ! ガレス・ヴァリアント男爵といえば、英雄ではないですか!?」
知らなかった。
ビックリしたら、ビックリした顔をされた。
「ご存じなくて?」
「……あいにく、父からは『昔冒険者だった』としか聞かされていなくて……」
「いろいろ武勇伝はありますけれど、この国での一番人気のお話は、王都を襲ったドラゴンを撃破したことでしょうか」
なんと!?
ドラゴンスレイヤーだったの、当主様!?
語れよその話!
旅の珍道中ばっかイキイキと語ってんじゃねー!
「……父からは……。高級茸が自生する森林地帯での行方不明者を捜していたら、とある箇所が危うく茸になりかけたとか……美しい女性に誘われて、コトに及ぼうとしたら魔物で、しかも雄で、下半身丸出しで倒したとか……そんな話ばかり……」
男子生徒が失笑した。
女子生徒はポカンとした。
「え、嘘でしょ? かの英雄のお話にそんなものはありませんわよ?」
「でも、本人がそれは楽しそうに語っておりまして……あ、あと、どうしようもない女好きですわよ。私という庶子を作っておりますし、なかなかのクズ野郎ですわ」
伯爵令嬢は耳を塞いだ。
「やめてください! 夢が壊れます!」
「冒険者への夢はともかく、父に対する夢は早めに壊しておくべきですわ。下手をしたら毒牙にかかりましてよ」
なんせ、少女だったママンと赤子をこさえちゃう男だからね!
そんな伯爵令嬢の彼女はフレイヤ・ストームハートという名前で、私は彼女から当主様の武勇伝を語られることになったのだった。
お返しに珍道中を……と思ったんだけど、
「やめてくださいまし!」
と言われるので、やめた。
入学式のあとに大々的に行われるのは、魔法検査だ。
当主様いわく、低級なら誰もが魔法を使えるという。
属性があると、訓練しだいでその属性の上級魔法が使えるようになる。
だが……人それぞれに内包魔力というものがあり、その内包魔力を超えるような魔法は使えないのだ。
内包魔力が小さい人は低級魔法を一回使えるだけだったり、内包魔力が大きい人は大魔法を連発できたりするらしい。
MPのようなものだけど、ちょっと違う。
内包魔力が百だとして、十の低級魔法は十回出せる。じゃあ、十回出したらもう他の魔法は使えないのかというとそうではなく、百の魔法一回使える。それぞれの魔法のリミッターみたいな感じらしい。
そして、連発で使えなくなるので、クールダウンのちにまた使える。
そのクールダウンってどのくらいなんだよ……は、これまた内包魔力しだいで、小さいと丸一日とかかかるけど、大きいと数時間程度で使えるようになるとのことだ。そしてそれも、どの魔法かでクールダウンの時間は変わる。
それらの説明を受け、検査を受けた。
検査は簡単で、大きな箱の中に手を突っ込むと、属性値を示す光が灯り、その光がどこまで大きくなるかで内包魔力がどのくらいか分かるという。
魔法クラスのみかと思ったら、全員が検査を受けるらしい。
もしも属性を持っていて内包魔力が高いのならば、貴族クラスや騎士クラスであっても選択授業で魔法の授業を受けてもいいそうだ。
受けてもいい、ということで、受けないパターンもあるらしい。
使わないから、って理由で。
その理由、まったく理解が出来ない。
使えるのなら使おうよ! 積極的に!!
高位貴族からの順番で、低位貴族は後回し。
なぜか魔法クラスは最後の最後だ。
魔法クラスの生徒は魔法が使えるのが当たり前で、内包魔力も高いのが当たり前。
なので、そうじゃない生徒たちを先にやらせて帰し、当たり前って連中だけでやりましょうよ、って感じですね、わかります。
まぁ、うちのクラスは和気あいあいとしているので、みんなで雑談をしつつ待っています。
シエラが尋ねてきた。
「まぁ、リリスは聖属性の可能性があるのですね?」
「怪我の治療が出来るのって、その属性だけらしいからって理由ですわ」
「確かに! さすがは英雄のご息女ですのね。私は火属性で、貴族としてはあまり役立ちませんの……」
フレイヤがガッカリしたように言うと、ノエルはもっとガッカリした声を出した。
「……私は土属性なので、もっと役立ちません……」
なんでガッカリするんだろう。それなら私だって属性なしのほうが良かったんだよ!
「でも、火は生活に必須じゃありませんの。土だって、土壌改良などに使えたら最高ですわ! ……そういえば、土の魔法は会得していませんから、今度見せてくださいまし」
「えぇ、よろしくてよ! 私も聖属性の魔法、見てみたいですわ」
「「「私も!」」」
「では、今度実地の授業で、皆で見せあいっこしましょうよ」
巨大な猫をかぶりつつウフフキャッキャと盛り上がっていると……泣きながら走り出ていく生徒がいた。
……って、アレってケイラお嬢様では?
いや、私は何も見ていない。知らんぷりっと。
ところが、周りが気づいてしまった。
フレイヤがケイラお嬢様を見てつぶやく。
「あら? どうかしたのかしら?」
レティシアが、のんびりした声で教えてくれた。
「貴族クラスが終わったらしいですね~。最後のかた、属性なしで内包魔力もほとんどなかったらしくて~。ショックだったみたいです~」
うぇ。それで泣いたのか。
まさか、私が奪ったとか思ってないよね?
魔法の奪い方なんて知らんよ。
「魔法使いになりたかったんでしょうね……」
と、同情している皆さん。
優しいなー。
私はまた言いがかりをつけてくるんじゃないかと戦々恐々としているわよ。
申し訳ありません。次の投稿は3連休明けになります。




