第20話 閑話~ケイラ・ヴァリアント視点3
寮に着き、手続きをして荷物を運び入れる。
ついてきたメイドが荷物をしまうのを、ぼうっと眺めた。
「寮ではメイドがつきません。全ての支度は自分で行うのを分かっていますね?」
「はい、お母様」
「今日は疲れたでしょうから、ホテルで過ごしましょう。旦那様も合流します」
――お父様はリリスについていった。
リリスは王都にある屋敷に住むのだという……。
「……リリスは、タウンハウスに住むのですよね」
私のつぶやきに、お母様が眉を顰めた。
「タウンハウスではありませんよ。旦那様が昔買って知り合いに貸している家が王都にあるので、そこの一部屋に住むのです」
「どうして私は寮なのですか?」
お母様は、疲れたようにため息をつく。
「リリスがそこに住むのは、『リリスが世話をしている獣が一緒だから寮に住めないという理由からだ』と前にも説明したでしょう? それに、その家には平民も住んでいます。あなたは平民と一緒に暮らせないでしょう? 繰り返し言うけれど、タウンハウスではないのでメイドはいません。料理を作ったことなどないあなたがそこで暮らそうとしたって無理に決まってるでしょうが。メイドはいなくても、料理や掃除をしてもらえる寮のほうがマシなんですよ」
「……リリスはいいんですか?」
そう尋ねたら、お母様は苦いものを食べたような顔をした。
「リリスは見習いメイドとして働いてもいましたから料理も掃除も出来ますし、平民と一緒に暮らしても気にしません。それに……あの子は旦那様にソックリですからね。何より、魔法が使えます。問題が起きても自力で対処出来るんです」
……そうだ。
本来なら、私も使えるはずだった、私こそが聖属性の魔法使いになるはずだったのに、リリスが聖属性の魔法使いになったんだった……。
どうしてリリスなの?
お母様は何も奪ってないというけれど、私は聖属性の魔法使いになるはずで、聖獣を従えるはずだった。
お父様の愛情も、お母様の関心も、全部リリスに奪われた。
それでも、お母様は私は何も奪われていないと言うの?
寮の外へ出ると、待っていたお父様と合流し、全員で夕食を食べた。
お母様は、念押しのようなトドメの一言を私に告げる。
「言い忘れていましたが、リリスは旦那様の子であることを他の生徒たちに告げると思います。あなたはそれに反発せず、うなずきなさい。また、あなたが旦那様の名前を告げることは禁止します。わかりましたね?」
私は目を見開いてお母様を見て、お父様を見た。
お父様は黙っていたが、渋々口を開く。
「……リリスは、稀少な属性の魔法使いだ。お前にはその価値がわからないだろうが、わかる者もいる。つまり、リリスには利用価値があるんだ。くだらない言いがかりをつけてリリスを奪おうとする輩から遠ざけるため、リリスの後ろには俺がいるとわからせる。……だが、それはリリスだけだ。普通の男爵令嬢には不必要。だから、お前は使うな。お前が俺の名を使って何かやらかしたとしても、俺は助けない。だから、俺の名前を出すな。……わかったか?」
……どうしてお父様は、私を愛してくれないんだろう。
リリスが愛らしいから?
リリスの母親を愛しているから?
原作と違って両親とも生きているのに、どうしてリリスばかりかわいがられるの?
ふと、私の婚約者を思い出した。
軟禁されていて会えなかったの? それとも……それすらもリリスに奪われたの?
「お母様。そういえば私、婚約者の方にお会いしたことがありません」
お母様が、お父様と顔を見合わせている。
「あなたに婚約者なんていませんよ?」
お母様が告げる。
「……また、リリスに……」
「いいかげんになさい! リリスは関係ないでしょう!? そもそも婚約の話がありませんよ! ……どのみち、被害妄想の激しいあなたにはまだ早いわ」
……リリスに奪われたんだ。
そう考えていたら、お母様が厳しい顔をして言った。
「リリスにもいません。話が出ていないと言ったでしょうに! リリスは今後どうなるかわからないので婚約させられませんし、あなたはまず、その被害妄想をなんとかなさい! このままでは、たとえ婚約の話が出たとしても進められませんよ!」
私はうつむいた。
……原作と違って、私を愛してくれた優しい婚約者もいないのね……。
男爵領にはないきらびやかなレストランなのに、料理がひどくまずく感じられた。




