第11話 王都を案内されたのである
トントン、とノックされたのでドアを開けると、情けない顔の当主様が立っていた。
「……その……なんだ。あー……そうだ! 冒険者ギルドに行ってみるか? なんなら登録もしとくか? お前ならいい小遣い稼ぎになると思うぞ」
「行きまーーーーす!」
住まわせる家を逢い引き宿に使っていたと娘にばれ、ご機嫌伺いに来た当主様がマジでご機嫌を取ってきたわよ。
だが、もちろん行く!
チョロいと言いたければ言え! 私はチョロいのである!
セラフを従え、当主様と手をつなぎ、ウキウキで冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドは、いかにも冒険者の旅立ちにふさわしい、趣のある建物だよ!
「いいね、いいね!」
私が喜んでうなずいていると、当主様が笑う。
「冒険者ギルドにそんなにテンションを上げる奴って、お前くらいだろうなぁ」
中に入ると、一斉に注目を浴びた。
「これは……もしかして、新人への洗礼を浴びるのかも……」
私が呟くと、当主様が怪訝な顔をした。
「なんだそりゃ?」
「物語だと、ここでハバを利かせている荒くれ者が、初めて訪れた私に『ここはお前が来るようなところじゃないんだよ、お嬢ちゃん』って言って追い払うのがセオリーなんですよ」
そこで助けに入った人と恋仲になるのもセットかな!
「言わんとしていることは分かるな。実際、お前の容姿を見たら親切心で言ってくるだろうよ。だが、俺が一緒だから問題はない」
当主様が頼もしいね!
当主様はそのまま受付へ行き、気さくな感じで受付のお姉さんに話しかけた。
「ギルマスを出してくれ。『ガレスが、娘を冒険者登録に連れてきた』ってな」
「はいっ!」
受付のお姉さんが奥へ飛んでいく。
そしたら、筋骨隆々としたおっちゃんが現れた。
「ガレス! マジかよ! ……いや、その子、無理だろ!」
おおぅ。偉い人から洗礼を浴びちゃったよ。
「ナメんな、俺の娘だぞ。しかも、俺よりファイターだ」
信じられない、って顔で私を見たので、当主様が追加した。
「ワーベアを単独討伐した実績がある。それ以上に強い魔物がウチの領には出ないからな」
「いやじゅうぶんだろ!? つーか、本当か!?」
私は思わず呆れた声を出してしまった。
「なぜ嘘をつく必要が……」
そんな嘘をついたって誰も得にならないでしょ。
ギルドマスターは納得した。
「……確かにな。そういや隣国には、〝銀月鬼〟って二つ名の少年だか少女だかがいて、確か十三歳だったって話だ。いやはや、最近の若者はスゲェよなぁ」
感心したように腕を組んだので、当主様が苦笑した。
「俺の時もそんなことを言われたよ。つまり、抜きん出た才能を持つ奴は、若いときからスゲェんだよ。敬え」
「ハハッ! それを帳消しにするほどオイタをやってんじゃねーか……っと、失礼」
慌てておっちゃんが口を押さえたので、私はニッコリと微笑んだ。
「大丈夫ですよ、知ってます。私の住む家は、当主様の連れ込み宿になっていたそうですし」
全員の視線が当主様に集まった。
しかも、女性陣の視線は突き刺さるようだった。
「…………すみません」
当主様が体を縮めて謝ると、おっちゃんが笑った。
「ガハハハハ! 確かにこの肝っ玉とズケズケ言う部分はお前の娘だな! よろしくな、俺はここのギルドマスターだ。なんかあったら俺に言え!」
「ありがとうございます。さっそくですが、冒険者の登録と、適当な魔物狩りを見繕ってください」
御礼を言いながらおねだりした。
魔物狩りは止められた。
「明日付き合ってやるから今日はやめとけ。このあともあんだからよ」
って当主様にも言われて、しぶしぶうなずく。
しかたない、諦めるか。
冒険者登録をし、ついでにセラフを従魔として登録してもらう。
タグをどこかに付ければより完璧らしいが、付けられない従魔も存在するのでどっちでもいいということだった。
一通り手続きが終わった後、当主様に尋ねた。
「……このあとどうするんです?」
「もちろん、王都を案内してやるよ。たまには父親らしいこともしねーとな」
おぉ! 確かに父親っぽいな!
と、いうわけで、当主様と一緒に観光した。
安くておいしい屋台や、『もし金持ちの坊ちゃんが奢るっつったら連れてってもらえ、そして、食後にトイレに行ったフリして帰れ』というとんでもないアドバイスをもらったお高そうな店とか、安い食材屋さんも教えてもらった。
ふんふんとうなずいてメモしていたら、当主様が何かに気づいたように頭をかいた。
「悪い、食べ物屋ばっかだな」
「助かります。冒険者で稼ぐまでは、ほぼ無一文なので!」
寮なら食事が出るかもしれないけど、そうじゃないので自力で食事を調達せねばならない。
そう言ったら当主様が怪訝な顔をして私を見た。
「……ん? コンスタンスは金を渡さなかったのか?」
「奥様にいざというときのお金はもらいましたけど、それはいざというときに使うので!」
平素の食事代ではない。
つまりは自力調達なのである!
「マジかよ……。いや、前もって言えよ。コンスタンスが抜けてるってのは珍しいが……ま、アイツはガッチガチの貴族令嬢だったからな。食事やらなんやらは、使用人や家令がどうにかしてくれるものであって、自分が調達するもんじゃねぇから頭が回らなかったんだろ」
当主様はそう言うと、ポンと私に手渡した。
「俺がいるうちは俺が買うが、いなくなった後の食事代、遊びに使う分、その他諸々の金だ。金がなくなったら知らせろ。……言っとくが、ウチは貧乏男爵家じゃねぇぞ。そもそも俺は冒険者のときから稼ぎまくってたし、男爵領はコンスタンスが才腕を奮って潤ってる。豪勢に遊ぶほどの金はねぇが、娘に極貧生活を味わわせるほど金がねぇってワケじゃねぇ」
「はぁ……」
そうなのか。
わりと貧乏なのかと思ってた。
食事はいいの食べてるって気がするけど、他は質素って気がしてたからなぁ。
「というわけで、冒険者デビューとして、そこそこいい武器と防具をプレゼントしてやるぞ」
「当主様ステキです!」
とたんに当主様をヨイショした。




