第10話 王都に着いたのである
王都ローヤル学園。
それは十二歳になっている貴族がそこから三年間、勉学や戦闘や魔法を勉強し交流する学び舎で、当然のことながら王都にある。
ヴァリアント男爵領は王都に近いのだけど、そうは言っても通える距離じゃないので学生寮かどこか借りて住むかになる。
……さて、ここで問題が発生です。
私とケイラお嬢様は、一年近く違うけれどもギリギリ同い年、同学年で入学になるのです。
私とお嬢様、両方を寮に住まわせるのは危険。
キャットファイト、再び……になるね。
基本的に寮に住むのは低位貴族。子爵まで。
伯爵以上は面子もあるので王都にあるタウンハウスに住むらしい。ただし、例外あり。
ヴァリアント男爵家は王都にタウンハウスはないのだけれど、一軒だけ小さな家を持っている。
当主様が冒険者時代に買って住んでいたそうで、今は知り合いの冒険者に貸しているそうな。
で、私がそこに住むことになった。
寮だと、セラフが飼えないということで……。
いや、置いていこうと思ったけど、無理だった。
どこにでもついてくるから。追いかけてくるから!
当主様が一緒に来て、冒険者たちを脅していた。
「オイ、娘に変なことを言ったりやったりしたら、マジで殺すからな。つか、話しかけんなよ」
「ガキに手をださねーって……って、うお、かわいい! マジかよ! 超かわいいじゃん!」
「リリスです。よろしくお願いしまーす。……当主様、大丈夫ですよ~。返り討ちにしますから~」
なんならかかってこいやぁ!
習った対人戦の練習台にしてやるわぁ!
「あ、なんか嫌な予感がする。……リリスちゃんって、かわいい顔して強いでしょ?」
「強いし、えげつないぞ。俺が仕込んだ」
「絶対に手を出しませんし、他の連中にも言っておきます」
とか言ってた。
当主様も、単独で王都に来る際はここに泊まるらしい。まぁね、家主だものね。
なので、家主専用の部屋が一階と最上階にある。そのため定期的に清掃が入っているので清潔だそうだ。
その、最上階の部屋を私が借りることになった。
「……うーん、最上階じゃなくて一階でもいいですよ? 思えば、庭にすぐ出られる一階のほうが、セラフを放し飼いに出来るって思った」
ちょっと離れっぽくなっているし、忍び込もうとしてもセラフが番犬代わりでいるので無理だし。
セラフは、私に敵対する者に容赦しない。
私が止めないと、魔物もすぐ殲滅しちゃうんだよねー。
「いや、一階は俺が使ってるんだ。最上階は滅多に使わないから、ソッチを使え」
とか当主様が言う。
別に、「パパの寝たベッドなんて汚くて寝られない!」とか言い出さないのに……ん? 待てよ、汚い?
疑いのマナコで当主様を見ると、当主様が大量に汗をかき始めた。
「あー、一階の離れは男爵様の連れ込み宿になってるからな。さすがに娘に使わせるワケにはいかねーだろ」
横から店子が告げ口してきたよ、当主様。
思いっきり冷たい目で見てやった。
「サイテー」
「グハッ!」
当主様が胸を押さえてよろけた。
私はくるりと背を向けて、
「では、最上階を使わせていただきますので、みなさまよろしくお願いいたしますわ」
と、店子さんたちにあいさつし、最上階へ行った。
もらった鍵で扉を開けて、中に入る。
この部屋はもともとが来てすぐに泊まれるようにしてあるというので、日用品はすべて揃っているという。
さらには、奥様が用意してくれた制服と私服のいくつかも、すでに運び込まれクローゼットにしまわれている。
念のため、パーティー用のドレスも一着用意してくれたそうだ。
パーチーなんてあるんだ……めんどいな。
お嬢様とかち合ったらどうすればいいんだ。いや、無視するけど。
人の着てるドレスを見て「盗人」とか言い出さないよな?
言ったが最後、ソッコーで学園を辞めて旅に出るからね!
――そんなことをつらつら考えながら奥の扉を開けて覗いたら……。
なんと!
お風呂がついていた!
あ、当主様の逢い引き部屋にも立派なのがついているだろうケドネ!
男爵家でお風呂が使えるのは当主様、奥様、お嬢様の三名のみ。
使用人たちは、通いの人は家で入るんだろうけど、住み込みの私たちは共用の洗い場で洗うだけだ。
それでも、冬にお湯を使わせてくれるだけでもありがたいらしい。
「生活文明度が上がったなー」
セラフもやってきたよ。
「セラフ、気に入った?」
「なーん」
鳴き方は猫なのよ。
でもさ、言ってることがわかっちゃうのよ。
とうとう私、セラフと意思疎通が出来るようになったのである!
セラフは、食べ物をねだらない。わりに、私の作った聖水なんかは喜んで飲む。
「んー、セラフって、勝手に食べにいってるって思ってたけど、実際何を食べてるの?」
私がこう尋ねたとき、セラフは私を見て、
「なーん」
と鳴いた。
だけど私にはこう言っているように聴こえた。
『なんでも食べるけど、本当に食べたいのはリリスの魔法がかかったもの』
「ふぇっ!」
たまげたわよ。
気のせいかと思ったんだけど……。試しに、私が産みだした聖水を使い鶏肉を茹で、スープ仕立てのボイル鶏肉を出してみたところ、めっちゃ喜んで食べていた。
ちなみにダンさんが「俺にも飲ませろ」って言うので、塩胡椒で味を調えて出したら、
「……これは……ヤベェ。体の隅々まで洗われるようだ……」
とか、詩人か? みたいなことを言いだしたわよ。
そんなこんなで、途中からセラフの食事を私が作っていた。
聖水を使った料理が一番喜ぶ感じで、聖火で炙るだけでもオッケーだと言っていた。
意思疎通が出来ると、いろいろ楽。
特に、王都なんかに来ちゃうとねー。
互いに何をしてほしいかが解らないと、セラフに「これはやっちゃいけません」って言い聞かせたり、逆にセラフの要望が分からずセラフが勝手にやっちゃって、下手をしたら騒動が起きる可能性もあるかもしんないもんねー。
「そうそう、念のためにやっておこう。『聖浄』」
ピカーッ!
はい、お部屋のお掃除完了。
そういえば、男爵家のエントランスを掃除する人がいなくなったので大丈夫かなとふと思うけど……ま、大丈夫でしょう。
お客さん来ないし。




