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第8話 濡れ鼠のその後

手水舎から水が噴き出した一件は神社の管理者が出てくるなどしてちょっとした騒ぎになった。そのごたごたのせいで晴馬は結局お礼参りをすることは叶わず、渚とも神社の前で別れることになった。本当なら駅まで一緒に行きたかったが、ずぶ濡れになった彼氏が隣にいれば渚までも周囲から変な目で見られることになってしまう。


「本当に、本当にごめんなさい!!空いてる日分かったら早めに連絡して。絶対に埋め合わせするから!」


別れる最後まで、渚は晴馬に謝り続けていた。


「本当に気にしないで。部活の予定が分かったら教えるね」


そうして渚と別れた後、晴馬は出来るだけ人目を避けて家まで帰り、母親には帰り道に転んで水溜まりに突っ込んだと嘘を吐いた。そして「お前は小学生か」と呆れられた後、晴馬は濡れた服を全て脱ぎ捨て、シャワーを浴びていた。浴室の外からは汚れた制服を洗う洗濯機の音が響いてくる。


「はぁ...」


温水で濡れた服が肌に張り付く不快感を洗い落としながら、晴馬は大きなため息を吐く。


「俺、本当に神様を怒らせちゃったのかな...」


鳥居から聞こえた鈴の音。腐っているかのような異様な水。そして、晴馬に飛んできた水...。続けざまに起きたその現象は、それこそ天罰としか考えられないほど不自然で、不可解なものだ。


「でも、そうなら神様は俺の事を気にかけてくれてたのかな...」


そう考えると、晴馬はほんのわずかな嬉しさと共に罪悪感を覚えた。手水やお参りの作法はともかく、初詣などでわざわざ鳥居の前で一礼する人間など、晴馬の目が届く限りでは見たことが無い。そんな人間全てに罰を与えていたら、今頃あの神社は呪われた場所として別の意味で有名になっていることだろう。


シャワーを浴び終えた晴馬はコックを捻り湯を止める。シャワーヘッドから出る湯が途端に勢いを弱め、浴室が静寂に包まれる。


「あれ。栓してたっけ?」


シャワーを壁の取っ手に固定した時、晴馬はシャワーから出た湯が浴槽にくるぶし程の深さまで溜まっていることに気付く。浴室に入った時、浴槽の栓は外れていた気がするが...


「今日はもう外出ないんだから、シャワー浴びるだけじゃなくて身体も洗っちゃいなさいよ~」


その時、くぐもった声と共に、扉の向こうに着替えらしきものを抱えた母親の影が映る。


「ほ~い」


何気なく返事をした晴馬は身体を洗う為、改めてシャワーを手に取り、これ以上湯が溜まらぬようその栓を外した。




「う~ん...」


夕飯を食べ終わった晴馬は自分の部屋のベッドに転がり、スマホとにらめっこをしていた。その画面は、無料で使えるトークアプリの、渚とのトーク画面から殆ど動かない。


「何てメッセージを送れば..」


晴馬は口を尖らせる。


(「今日は楽しかったよ」...あんなことがあった後でそんなの送れない。じゃあ「今日は散々だったね~(笑)」...いやいや、合格祈願出来なかったのにそれはいくら何でも能天気すぎる。「今日は変な事に巻き込んでごめんね」...これが一番普通かな。よしこれで行こう)


心の中で自問自答を繰り返した末に導き出した、当たり障りのない言葉を画面上に出力した晴馬はスマホと共にベッドから勉強机に体を移すと、貯まっている数学の課題に取り組み始めた。


5分、10分、30分...。頻繁に画面を確認するせいで課題に全然集中出来ない。渚に送ったメッセージの吹き出しには、リアクションを伝える為の絵文字はおろか既読すらついていない。


「今日はもういいや...」


早くも我慢の限界を迎えた晴馬は課題を明日以降の自分に押し付け、再びベッドに倒れ込み、SNSや動画アプリをサーフィンし始める。そうして油を売り始めてから間もなく...


テロンッ!


トークアプリの通知音と共に渚の返信が画面の上部に出てきた。




全然大丈夫だよ!また明日!!




これまた無難なメッセージと共に、猫がおやすみなさいを言っているスタンプが送られてきた。


(これ、あんまり俺と会話したくないとか、そういうんじゃないよな...?他にいい言葉無かったというか、俺もかなり普通なメッセ送ったし、こういう返事が来ても当然だよな...。それにこれ以上会話を続けるのも時間的にあれだし...。俺もスタンプで返すか...)


深読みの末、自分が持っている中で一番可愛らしい(と、晴馬自身は考えた)、柴犬がおやすみを言っているスタンプを送信し、晴馬はアプリを閉じようとする。


「あ、優悟からも来てる」


それに気付いた晴馬は優悟との会話画面を開く。




今日のデートどうだったんだよ!?もしかして手とか繋いだん!?




メッセージが届いたのは15時半過ぎ。下世話な質問ではあるが、もう5時間近く経っているのに催促の追加メッセージやスタンプを一切送りつけてこないのは実に優悟らしい。


「お前との会話は気楽で助かるよ...」


苦笑いを浮かべながら、晴馬は「明日学校で話す」とだけ返信するとスマホを充電器に刺し、部屋の電気を消して毛布を被った。



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