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第二歌:裂け目と灯
石を運ぶ日々の果て
ある夜、山肌が裂けた
その裂け目に 彼は堕ちた
下へ さらに下へ
水の音も 光の気配もない場所へ
そこには 無数の声が渦巻いていた
それは かつて捨てた名の断片
偽りの誓い
誰にも届かなかった叫び
赦されなかった祈り
行者は そのすべてが
己の内にあったことを知った
掌に刻まれた傷の数より
心に眠る咎は多く
それは 己を傷つけるより先に
己を縛っていた
この谷では 影さえも灯を持つ
ただひとつ 彼の内に残る火が
その闇を照らすことはなかった
しかし その時
石が静かに鳴いた
それは言葉ではなかったが
確かに彼に呼びかけた
「進め」ではなく
「赦せ」でもなく
ただ 「見よ」と
行者は灯を掲げた
己の中の闇に
己の咎に
己の裂け目に
そして初めて
焔が揺れずに燃えた
罪は消えなかった
けれど
それはただ
彼の歩みと共に
在るものとなった
そして朝が来た