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第一歌:目覚め
初め、声はなく
大地は裂け 影は深く沈み
泉は乾ききり 風すら途絶えていた
ひとつの魂がそこにあった
その眼は閉じ その手は土を掴むことを忘れ
己の重みだけを背負っていた
やがて 天と地の間より
ひとつの石が落ちた
それは鎖で魂に繋がれ
行く先を山の頂きへと定めた
魂は歩きはじめた
足裏は裂け 膝は砕け
幾千の夜 幾千の暁を越えて
それでも石は転がり また麓へ戻る
山は嘲らず
空は慰めず
ただ彼の影だけが 寄り添うように伸びた
ある時 石は小さくなっていた
それに気づいたのは 山頂を越え
初めて降りる道を歩んだ時だった
足は軽く
背はまっすぐ
胸の奥には 消えぬ焔があった
その焔は 苦痛の灰から立ち上がり
己の名を持たぬまま
しかし 確かに生きるものとなった
そして魂は知った
語らずとも
誰もがそれぞれの山を持ち
それぞれの石を運び
それぞれの焔を宿すことを
だから彼は 名を捨てた
冠も捨てた
ただ歩む者として 大地に立った
やがてまた 遠い峰が姿を見せる
影は長く 風は冷たい
しかし焔は消えず
その歩みは 止まることがない