第5話:眠れる電波師、ケンタの映像錬金術
陽炎高校の伝播部の活動は、
日に日にその「毒電波」の存在感を増していた。
屋上の植木鉢動画は、
生徒たちの間で「なんか見ちゃいけない電波を感じる」と密かに囁かれ、
一種のカルト的な人気を集めていた。
しかし、キララにとっては、
その「バズ」は期待とは違う方向に向かっていた。
季節は五月に入り、
日中は汗ばむほどの陽気な日が増えていた。
校庭の木々は濃い緑を湛え、
生徒たちは半袖の制服姿も増えていた。
「ねぇケンタ先輩!
あの植木鉢の動画、やっぱ全然バズってないじゃん!
再生回数はそこそこあるけど、
コメント欄が『怖い』とか『意味不明』とかで、
全然映えてないし!
もっと分かりやすくバズる動画にしてよ!」
キララは、スマホの画面をケンタに突きつけながら、
不満そうに声を上げた。
彼女が求めるのは、
華やかで、誰にでも分かりやすく「いいね」が集まる「映え」だった。
その輝く瞳は、常にSNSのトレンドとフォロワーの反応を追いかけている。
ケンタは、首にかけたヘッドホンを外し、
ぼんやりとした目でキララを見上げた。
彼の目つきは、いつも眠たげでやる気がなさそうに見えるが、
動画編集に集中する際には、その奥に狂気を宿すことをキララは知っていた。
「…『バズ』とは、
『視聴者』の『精神』に『直接干渉』することっす。
俺の『映像錬金術』なら、どんな『情報』も『真の波動』に『可視化』できるっす。
この植木鉢の『電波』、ただの『ノイズ』じゃないっすから」
ケンタは、気だるげな声で、
しかしその言葉には確かな自信が込められていた。
彼は自身のことを「電波受振器兼映像作家」と自称している。
その言葉には、周囲には理解されがたい、
彼独自の「電波」の哲学が宿っている。
ユキ部長は、ケンタの言葉に満足げに頷いた。
真紅のロングヘアが揺れ、
切れ長の瞳がさらに細められる。
「うむ。ケンタの『電波受振器』は、
『微細なるノイズ』から『根源の波動』を『抽出』する『力』を持つ。
『伝播』は、『視覚』と『聴覚』の『融合』により、
『高次元』へと『昇華』するのだ。
その『波動』は、『視聴者』の『深層意識』に『作用』し、
『新たな認識』を『生み出す』」
ユキの言葉は、相変わらず難解なユキ先輩語録(※キララ命名)だったが、
ケンタの「映像錬金術」が、単なる動画編集ではないことを示唆していた。
彼女は、ケンタの持つ「毒電波」の可能性を最大限に引き出そうとしているかのようだった。
「え、何それ!?
難しいこと言わないでよ!
とにかく、もっと分かりやすくバズる動画にしてよ!」
キララは、もはやユキ部長の言葉の真意を理解しようとすることを放棄し、
ただ「バズりたい」という願望をぶつけた。
彼女の華やかな容姿とは裏腹に、
その思考は常にシンプルな「映え」と「バズり」に集約されている。
「…『ノイズ』こそ、『伝播』の『原動力』。
それは、『世界』の『裏側』で『蠢く』『真理』の『声』。
俺はそれを『映像』に『変換』するっす。
たとえそれが『視聴者』に『不快』を『与える』『毒電波』であろうとも」
ケンタは、モニターに向かい、新たな映像編集を始めた。
彼の指がキーボードの上で、まるで生き物のように高速で動き始める。
その視線は、画面に映る無数の波形やタイムラインの線に固定されており、
外界の雑音は一切届いていないかのようだった。
その時、部室のドアが再び開かれた。
そこに立っていたのは、茶髪をオールバックにした、
見るからにチャラそうな男だった。
常に明るい笑顔を浮かべているが、
その目には「バズる」ことへの貪欲なまでの情熱が宿っている。
最新のファッションに身を包み、
自撮り棒や小型カメラを瞬時に取り出せるよう、
ポケットには常に何かを忍ばせている。
彼こそが、伝播部のOBであり、
現役の人気YouTuber、
「バズリー斉藤」こと斎藤タクミだった。
「おーっす、伝播部ちゃん!
最近面白そうな電波出してんじゃん!
特にあの植木鉢の動画、マジでヤバいね!
俺のチャンネルでも取り上げたいくらいだよ!」
タクミは、部室に入ってくるなり、
陽気な声で話しかけてきた。
その声は、部室の異様な空気を一気に明るく、
そしてどこか賑やかなものに変える力があった。
キララは、タクミの登場に目を輝かせた。
彼女の憧れの対象が、今目の前にいる。
「え!バズリー斉藤先輩!?
マジで!?会いたかったですー!
私、先輩のチャンネル、毎日見てます!」
興奮のあまり、語尾が裏返りそうだ。
「先輩!私、バズりたくて伝播部に入ったんです!
何か、一発でバズる企画ないですかね!?」
キララは、タクミに縋るように問いかけた。
彼女の目は、まるで「バズ」という名の宝物を追い求める探求者のようだった。
タクミは、キララの熱意に笑顔で応えた。
その笑顔は、どこか胡散臭さを感じさせつつも、妙な説得力がある。
「お、いいねいいね!
その『バズりたい』って『電波』、最高だよ!
実はさ、俺、今『ドッキリ企画』を考えててさ、
伝播部のみんなに協力してほしいんだよね!」
タクミの言葉に、キララはさらに目を輝かせた。
ドッキリ企画は、SNSでバズる鉄板ネタだ。
「ドッキリですか!?やります!やります!どんなドッキリですか!?」
「それはね…『陽炎高校の七不思議』の『真実』を『暴く』ドッキリさ!」
タクミはニヤリと笑った。
彼の言う「ドッキリ」は、単なる悪ふざけではなく、
伝播部の活動テーマと深く結びついていた。
ユキ部長は、タクミの言葉に微かに目を細めた。
「タクミ。お前の『電波』は、『表層的』な『欲求』を『煽る』が、
『根源』には『視聴者』の『感情』を『揺さぶる』『力』を持つ。
その『ドッキリ』が、『伝播』の『真髄』に『触れる』ことを『期待』する」
ユキはタクミの「バズり」への執着を認めつつも、
それがどこまで「電波」の真理に迫れるかを見極めようとしていた。
彼女の表情は、まるで未来の「電波」の軌跡を見通しているかのようだった。
つむぎは、タクミの提案に戸惑っていた。
ドッキリが何なのか、いまいちピンとこない。
「ドッキリって、お菓子みたいなもんなんやろか?
中にクリーム入ってるやつ?」
つむぎの純粋な疑問に、キララは「違う違う!」と慌てて訂正した。
「つむぎはいいんだよ、そのままの『天然の受信力』でいてくれれば。
それが一番予測不能な『電波』を放つんだから!」
キララは、つむぎの天然っぷりが、
予期せぬ「バズ」を生むことを既に経験で知っていた。
タクミは、つむぎの言葉に面白そうに笑った。
「あはは!つむぎちゃん、最高!
その『電波』、ドッキリにピッタリだよ!
君の純粋な反応が、予期せぬ『化学反応』を生み出すだろうね!」
タクミは、つむぎの頭をポンと叩いた。
ケンタは、相変わらずモニターとにらめっこしながらも、
タクミの言葉に低い声で呟いた。
「…『ドッキリ』の『波動』、予測不能っす。
俺の『映像錬金術』が試される『刻』っすね」
ミカは、タクミとつむぎの様子をレンズ越しに見つめ、
静かにシャッターを切っていた。
そのレンズは、タクミの陽気な笑顔の裏に潜む、
「バズ」への執念を捉えようとしているかのようだった。
こうして、伝播部は新たな「毒電波」企画、
タクミ先輩とのドッキリコラボに巻き込まれることになった。
それは、伝播部の「電波」が、単なる部活動の枠を超え、
外部の「バズ」の世界へと直接介入する、新たな局面の始まりだった。
つむぎの純粋な反応が予期せぬ「電波」を放ち始め、
新たなバズの予兆となる。
陽炎高校の「電波」な日常は、
さらに予測不能な混沌へと加速していく。
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**【速報】伝播部の動画、視聴者のSAN値がゴリゴリ削れる件**
1 名前:名無しの陽炎生徒 2025/05/08(木) 11:00:01.01 ID:kM_j7zA
伝播部が上げた植木鉢の動画、やばすぎだろ。
なんか、精神に直接語りかけてくる「電波」を感じるんだが。
あれはホラー動画か?
2 名前:名無しの陽炎生徒 2025/05/08(木) 11:01:15.23 ID:nM_k8tB
ケンタ先輩の編集、マジで「電波受振器兼映像作家」って名乗ってるだけあるな。
眠たげな顔してるくせに、モニターの前だと目つき変わるの怖い。
「微細なノイズこそ伝播の原動力」とか、ガチで言ってたらしいし。
3 名前:名無しの陽炎生徒 2025/05/08(木) 11:02:05.87 ID:oP_l9uC
あの動画、キララが頑張って映え狙ってたのに、
結局ケンタ先輩の編集で全部持ってかれたよなwww
「見ちゃいけない電波」とか言われてるし、
本人の意図と違う方向にバズってる。
4 名前:名無しの陽炎生徒 2025/05/08(木) 11:03:40.40 ID:qR_s0vD
てか、そこにバズリー斉藤とかいう胡散臭いOBが来たってマジ?
「バズる」ことしか考えてない顔してたって聞いたぞ。
5 名前:名無しの陽炎生徒 2025/05/08(木) 11:04:22.11 ID:sT_u1wE
ドッキリ企画とか、まともな部活じゃないのは知ってたけど、
いよいよ怪しくなってきたな。
つむぎ、絶対巻き込まれてるだけだろ。あの天然、どこまで耐えられるか見ものだわ。
6 名前:名無しの陽炎生徒 2025/05/08(木) 11:05:08.55 ID:uV_w2yF
バズリー斉藤、見るからにチャラいのに、その目だけギラギラしてるの怖いんだよな。
「電波」とか「波動」とか、この部活の連中、全員頭おかしいのか?
7 名前:名無しの陽炎生徒 2025/05/08(木) 11:06:19.78 ID:wX_y3aG
これ、学校公認でこんな電波動画作らせてんのか?
校長、ちゃんと機能してんのか疑うレベル。
8 名前:名無しの陽炎生徒 2025/05/08(木) 11:07:00.00 ID:yZ_a4bH
つむぎがドッキリでどんな「電波」出すか楽しみwww
きっと予測不能な方向にバズるんだろうな。あのマカロン・ランナーだから。
9 名前:名無しの陽炎生徒 2025/05/08(木) 11:08:12.34 ID:aB_cD5e
伝播部、完全にエンターテイメント路線に入ったな。
でも、なんか不安になるんだよな、見てて。
10 名前:名無しの陽炎生徒 2025/05/08(木) 11:09:00.56 ID:fG_h6iJ
「毒電波部」の活動が本格化してきたぞ。
SNSから目が離せねぇ。
『でんぱぶ』次回予告:第6話「ダイナマイト☆ダイチ、瞬間バズの衝撃」
**登場人物:ダイチ、ユキ、ケンタ**
**ユキ:** 「電波」は、「爆発」を「内包」する。その「力」は、「伝播」を「加速」させる「触媒」となり得る。
**ダイチ:** ドカーン!その通りだ部長!「バズる」ってのはな、「静的なる世界」に「衝撃の波動」を「叩きつける」ことなり!「命」より「ドカーン」が「優先」だ!!
**ケンタ:** …ダイチ先輩の「電波」、マジで「危険」っすね。校舎全体の「周波数」が「乱れ」始めてるっす。
**ユキ:** その「制御不能」なる「爆発」の「電波」、我が「伝播部」の「新たな局面」を「開く」だろう。
**ダイチ:** ドカーン!「電波」は「爆発」だ!見とけよお前ら!「瞬間バズ」で「世界」を「揺るがして」やるぜ!