第1話:マカロン・ランナー、伝播部へようこそ!
**つむぎの日記**
2025年4月8日、晴れ。
今日から高校生。新しい学校の電波は、まだどんな味か分からへんけど、きっと甘いお菓子の電波みたいに、ふわふわしてるんやろなぁ。
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陽炎高校の入学式は、春の柔らかな日差しに包まれ、校庭の桜並木が淡いピンク色の花びらを風に舞い散らせていた。しかし、その光景とは裏腹に、校舎全体から漂う空気はどこか地味で、県内屈指の進学校ですが、全体的に地味で「電波」が希薄だと評されるこの学園に、春風つむぎは期待と、ほんの少しの不安を胸に足を踏み入れた。肩までのふわふわした茶髪は、陽光を受けて優しい茶色に輝き、少し大きめの瞳は、まるで遠くの空をぼんやりと見つめているかのように、どこか宙を泳いでいた。真新しい紺色の制服は、ごく普通に着こなされており、彼女の周囲に流れる穏やかな時間を象徴しているようだった。
教室のドアを開けると、新入生たちのざわめきが耳に飛び込んできた。自分の席を探して視線を彷徨わせていると、明るい声が耳に届いた。
「つむぎー!こっちこっちー!」
声の主は、隣の席になったクラスメート、桜庭キララだった。彼女は明るい茶髪を軽やかに巻き、その日の気分に合わせて選んだらしい可愛らしいヘアアクセサリーをキラリと光らせていた。大きく輝く瞳は、常に「映え」るものを探し求めているかのように、きらきらと瞬いている。スカート丈は校則ギリギリの短さで、シャツの襟元も、独自の「映え」理論に基づいたアレンジが施されていた。最新機種のスマートフォンを握りしめ、まるでそれ自体が身体の一部であるかのように軽々と操っている姿は、まさに生粋のインフルエンサー志望そのものだった。
「ひららちゃん、おはよー」
つむぎは、ほんわかとした関西弁で応え、ゆっくりと自分の席に腰を下ろした。
「ねぇねぇつむぎ、聞いた?あのさ、『伝播部』っていう部活があるらしいじゃん!」
キララは前のめりになって、興奮気味に身を乗り出してきた。
「伝播部?…なんやろ、それ?」
つむぎは首を傾げる。彼女はSNSにも疎く、流行に敏感なキララとは対照的な存在だった。
「もー!知らないの!?なんかね、SNS使って学校の魅力を発信する部活なんだって!うち、インフルエンサーになりたくてさ、そういうのってマジやばいじゃん!絶対バズる匂いがするの!一緒に見に行こ!」
キララはつむぎの手を半ば強引に引っ張り、席を立たせた。つむぎは抵抗する間もなく、キララの勢いに流されるまま、伝播部の部室へと向かうことになった。彼女の頭の中には、「バズる」というキララの口癖と、「電波」という奇妙な響きが、不思議なシンクロニシティを起こしているかのように渦巻いていた。
薄暗い廊下を歩き、突き当たりの、普段あまり使われていないような古い教室が部室だと知らされた。ドアには手書きで『伝播部』と書かれた紙が、セロハンテープで無造作に貼られている。キララが勢いよくその扉を開くと、途端に、外の明るさとはかけ離れた、異様な空気が二人の目の前に広がった。
部室の奥には、長机を囲むようにして三人の生徒が座っていた。彼らの醸し出す雰囲気は、これまでの学校生活でつむぎが出会ったどんな生徒とも異なっていた。
まず目を引いたのは、一番奥の席に座る女子生徒だ。真紅のロングヘアは、まるで「内なる情熱の炎」を表すかのように、わずかに浮いているように見え、切れ長の瞳は常に冷静だが、その奥には「この世の真理」を捉えるような狂気を宿している。制服は着崩さず、常に完璧に着こなしているが、その下に覗くインナーや小物には、東洋の古文書を思わせるような複雑な模様や刺繍が施されている。彼女こそが、この伝播部の部長、水無月ユキだった。生徒会長も務める彼女の、普段の校内での凛とした姿とはかけ離れた「電波」なオーラに、つむぎは思わず息を飲んだ。
ユキの隣では、長身の男子生徒が、常に半開きの眠たげな目でヘッドホンを首にかけ、だらしなく制服を着崩していた。黒髪のショートヘアは乱れがちで、まるでやる気がないように見える。しかし、その指先はスマートフォンを器用に操り、何かを真剣に分析しているようだった。彼が動画担当の赤羽ケンタだ。
ケンタはユキの言葉に時折生返事をしながらも、時折、耳に当てたヘッドホンの奥で微かな音の「電波」を拾っているかのように、首を傾げたり、眉をひそめたりしていた。
そして、もう一人の女子生徒は、小柄な身体に縁の太い眼鏡をかけていた。長いストレートの黒髪は、彼女の静かな雰囲気を際立たせるが、眼鏡の奥の瞳は、常に遠くを見つめているかのような不思議な光を宿している。プロ仕様の一眼レフカメラを首から下げており、まるでそのカメラが彼女の体の一部であるかのように、常に共にあった。彼女が写真担当の緑川ミカだ。彼女は部室の壁に貼られた、少し歪んだ風景写真を見つめ、微かに首を傾げていた。
キララは、その異様な雰囲気に少しだけ気圧されながらも、インフルエンサー志望としての好奇心が勝ったのか、臆することなく声をかけた。
「あのー、ここって、伝播部ですか!?」
ユキ部長は、ゆっくりと顔を上げた。切れ長の瞳がつむぎとキララを捉え、その深淵を覗き込むような視線に、つむぎは背筋がゾクリとした。
「うむ。新たなる『波動』の訪れか。歓迎する。この『伝播部』こそ、この地の『真理』を世界に『伝播』する、選ばれし者の集う場所なり」
ユキは静かに、しかし熱のこもった声で、独特のポエムのような口調で語り始めた。彼女の言葉は、まるで周囲に理解されないことを前提としているかのように、壮大で、しかし現実との乖離が激しかった。
キララは一瞬、「え、何言ってんの?」という顔をしたものの、すぐに気を取り直して笑顔を作った。
「あ、えっと、SNSで学校の魅力を発信したいんですけど、どうしたらバズりますか!?」
キララの質問に、ユキは微かに瞳を細めた。
「『バズ』とは、すなわち『集合的無意識の覚醒』。我が部の『伝播』は、単なる情報拡散にあらず。人々の『魂の電波』に直接干渉し、真の『波動』を生み出すことこそが、我々の使命なり」
ユキは、自身の言葉が周囲に通じないのは、彼らの「電波受信能力」が低いからだと本気で思っている節がある。彼女の言葉は、キララが思い描いていた「バズる高校生活」とはかけ離れた、予測不能な深淵へと二人を誘い込もうとしていた。
ケンタは、首にかけたヘッドホンの片方を外し、ぼんやりとした目でつむぎとキララを見た。
「あー、また新入生っすか。この部の『電波』、結構特殊なんで、慣れるまで時間かかるっすよ」
その言葉は気だるげだったが、どこか含みを持っているようにも聞こえた。
ミカは、カメラを構えたまま、つむぎの顔にレンズを向けていた。
「あなたの『波動』、興味深いです。まるで、周囲の『電波』を無意識に吸い込む『天然の受信力』を感じます」
ミカの静かな声が、つむぎの心に直接響いた気がした。
ユキは、部員たちの反応を確かめるかのように、ゆっくりと部室全体を見回した。その視線は、まるで不可視のエネルギーを放っているかのように、部室の隅々にまで届いているように感じられた。
「我が伝播部は、単なる情報発信の場にあらず。それは、『真理』を『探求』し、『世界』の『根源』に触れる、崇高なる『儀式』の場なり」
彼女の言葉の端々に散りばめられた独特の表現は、聞く者を選び、理解者を拒むかのように難解だった。しかし、その奇妙な響きが、つむぎの心にはなぜか心地よく響いていた。
「バズるまで、終わらない」というユキの言葉は、キララの耳には単なる目標として聞こえていたが、つむぎには、まるで無限に続く探求の旅の始まりのように感じられた。
ユキ部長は、部室の壁に貼られた、手書きの「伝播部理念」と書かれた古びたポスターに目を向けた。そこには、「伝播力、それは人々の心を揺り動かし、感情を共鳴させる『電波』の力」と書かれていた。
「我々の『伝播力』は、時に『毒電波』と称されることもある」
ユキの言葉に、キララはピクリと反応した。
「毒電波って、まさか炎上とか…!?」
キララの不安そうな声に、ユキは微かに微笑んだ。
「それもまた、『電波』の一形態。人々の『意識』を『攪乱』し、『新たな認識』を『生み出す』、触媒たりえるのだ」
その言葉に、キララの表情はさらに複雑になった。バズりたいという欲求と、炎上への恐怖がせめぎ合っているようだった。
ケンタは、スマホの画面に目を落としたまま、低い声で呟いた。
「部長の『電波』、今日は特に強いっすね。校舎全体の『波動』が揺らいでるっす」
ミカは、つむぎにレンズを向けたまま、静かにシャッターを切った。
「あなたの『天然の受信力』は、この部の『電波』を増幅させるかもしれません。それは、予測不能な『化学反応』を生むでしょう」
つむぎは、ミカの言葉に、小動物のように耳がピクッと動いた(気がした)。
「んー、そうなんやろか?なんか、ふわふわする電波、感じるわあ…」
彼女のほんわかとした関西弁が、部室の異様な空気に、奇妙な調和をもたらしていた。
部室の窓からは、夕陽が差し込み、埃の舞う空間をオレンジ色に染めていた。その光景は、どこか神秘的で、この部活がただの部活ではないことを示唆しているようだった。
ユキは、最後に全員を見回し、静かに、しかし確固たる意志を込めて言った。
「我々の活動は、バズるまで、終わらない!これは、この地に埋められし“魂の電波”を解放する、神聖なる伝播の使命なり!」
その異様な熱量に、つむぎは改めて圧倒される。キララは焦った顔で「ちょっと、マジでついていけないんだけど!うち、普通にバズりたいだけだし!」と小声で呟いたが、つむぎの心には、なぜか不思議な興味が湧き上がっていた。この部の常識は理解できないまま、どこか面白そうだと感じつつ、彼女は電波な日常に巻き込まれていく予感に包まれるのだった。マカロンの甘い香りのように、予測不能な「電波」が、彼女の新たな高校生活を彩ろうとしていた。それは、彼女自身も気づかないうちに、彼女の「心の電波」が、この部の「電波」と共鳴し始めた瞬間だったのかもしれない。
キララは、スマホを取り出し、早くもSNSに何かを投稿しようとしている。
「とりあえず、『陽炎高校に電波系新部活爆誕なう!部長のセリフが神ってる件www』って投稿しとけばバズるかな?つむぎ、一緒に自撮りしよ!」
つむぎは「え?じどり?」と困惑した顔でキララを見た。その純粋な反応が、キララのバズりたいという衝動をさらに掻き立てる。
「そうそう!つむぎのそのぼんやりした顔が、逆にエモいんだって!インスタ映えするから!」
キララは強引につむぎの肩を抱き寄せ、スマホを構えた。パシャリ、とシャッター音が鳴り響く。
ユキは、そんな二人の様子を冷静に見つめていた。その瞳の奥には、遠い未来を見据えるような光が宿っている。
「『伝播』の『序章』は、かくも『混沌』と『純粋』の『交錯』から始まる。この『波動』は、いずれ『世界』を『揺るがす』だろう」
彼女の言葉は、誰にも届かない独り言のように、部室の空気に溶けていった。
ケンタは、スマホの画面に映る波形グラフを睨みつけている。
「この部の『電波』、初日から『異常値』を叩き出してるっすね。解析不能な『ノイズ』が、既に『高次元の波動』に変化しつつある……」
ミカは、ユキの後ろに立ち、静かにシャッターを切り続けていた。そのレンズは、部室の異様な光景の奥に潜む、「真実の電波」を捉えようとしているかのようだった。
夕焼けが校舎の窓から差し込み、部室の中は、まるで異世界への入り口のように、光と影が混じり合っていた。つむぎは、そんな不思議な空間で、新しい仲間たちとの出会いを噛み締めていた。彼女の周りには、確かに目に見えない「電波」が渦巻いている。それがどんな未来を運んでくるのか、まだ分からなかった。しかし、その「電波」が、決して退屈なものではないことだけは、確信できた。
「マカロン、食べたいなぁ……」
つむぎの呟きは、誰にも聞こえなかったが、その小さな願いが、今後の伝播部の活動に、思わぬ「幸福の波動」をもたらすことになるのかもしれない。彼女の「天然の受信力」は、まだ計り知れない可能性を秘めていた。陽炎高校の「電波」な日常が、今、始まったばかりだった。
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**【速報】陽炎高校にガチの電波系部活が爆誕した件wwww**
1 名前:名無しの陽炎生徒 2025/04/08(火) 20:00:15.12 ID:k8aX7yB
うちの高校、ついに狂ったか。伝播部とかいう意味不明な部活、何年も前からあるらしいけど。
2 名前:名無しの陽炎生徒 2025/04/08(火) 20:01:03.45 ID:pLzM4nT
伝播部?何の冗談だよ。
てか、生徒会長の水無月ユキ先輩が部長ってマジ? あの人、いつも冷静ぶってるけど、ついに本性出したか。
3 名前:名無しの陽炎生徒 2025/04/08(火) 20:02:18.78 ID:qFcR2sV
2 マジらしい。部室からなんか異様な「電波」を感じるとか、厨二病全開の演説してたとかいう噂で持ちきり。
「神聖なる伝播の使命」って、何かの宗教かよ。
4 名前:名無しの陽炎生徒 2025/04/08(火) 20:03:55.01 ID:xDgH6uI
生徒会長は成績だけはいいけど、変人って言われてたもんな。
ついに頭のおかしい方面に本格的に舵切ったか。
5 名前:名無しの陽炎生徒 2025/04/08(火) 20:04:32.67 ID:yJbN8oC
部員もヤバい奴らばっからしいじゃん。
動画担当の赤羽ケンタとか、いつも寝てるくせに、たまに目ぇ開けると狂気宿してるって聞いたぞ。
写真担当の緑川ミカも、文学少女の皮被ってるけど、カメラ持つと別人に。
6 名前:名無しの陽炎生徒 2025/04/08(火) 20:05:10.99 ID:aBcD1eF
うちのクラスの桜庭キララが「バズる!」って言って速攻入ってたけど、あのバカ、絶対巻き込まれて痛い目見るって。
ついて行った春風つむぎも心配だわ。あの子、天然すぎて何も理解してなさそう。
7 名前:名無しの陽炎生徒 2025/04/08(火) 20:06:05.23 ID:gHiJ2kL
6 つむぎはマジでヤバい。あの抜けた感じ、電波系には最高の素材じゃね?
無意識で周囲を巻き込む「毒電波」とか放出しそう。
8 名前:名無しの陽炎生徒 2025/04/08(火) 20:07:11.40 ID:mNoP3qR
てか、SNSで学校の魅力発信とか、絶対炎上案件だろ。
あのユキ先輩が指揮執って、まともなものになるわけがない。むしろ、学校の黒歴史作りにしか見えん。
9 名前:名無しの陽炎生徒 2025/04/08(火) 20:08:00.05 ID:sTuV4wX
うちの高校、地味すぎて逆にネタに困ってたけど、これで一気に全国区狙えるな(悪い意味で)。
「陽炎高校、禁忌の真実を暴く」とかやりかねない。
10 名前:名無しの陽炎生徒 2025/04/08(火) 20:09:19.87 ID:yZaB5cD
これはもう「毒電波部」でFAだろ。
今後のSNS、マジで監視対象。ヤバいものしか出てこなそう。
**『でんぱぶ』次回予告:第2話「初めての『電波観測』と屋上の謎の植木鉢」**
登場人物:つむぎ、キララ
キララ:ねぇねぇ、つむぎ! 部長の「神聖なる伝播の使命」とか、マジ意味わかんないけど、次のミッション、聞いてくれた!?
つむぎ:んー、「陽炎高校の七不思議を伝播せよ!」って言ってたような…?なんか、屋上の植木鉢が、いつも花咲いてるらしいんやろ?不思議な「電波」感じるんかなあ?
キララ:そうそう! ミカ先輩と一緒に行くんでしょ? あのミカ先輩、カメラ持ってる時、マジで「真実の瞳」って感じでヤバいじゃん! どんな「電波」映し出すか、超楽しみだよね! 映え狙えるかな!?
つむぎ:え、マジ!? そんな「電波」感知できちゃうの!? つむぎもしかして、天然の「受信力」高すぎじゃない!? それ、絶対バズるやつじゃん!!
キララ:あーもう! ケンタ先輩も体育館裏で謎の「電波」拾ってるみたいだし! うちも映える写真撮りまくるから! 次も絶対「バズの波動」起こすんだからね!
次回の『でんぱぶ』:第2話「初めての『電波観測』と屋上の謎の植木鉢」
陽炎高校に眠る「真実の波動」を求めて、電波な部員たちが動き出す! つむぎの「天然の受信力」が、新たな奇跡を生み出すのか!?