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公爵家の暗殺者、最強の光術士はやり直す ~今世は自由に、何人にも従わない~  作者: MIZUNA


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秘密保持と誓約

「あ、アシル様。ご……ご用というのはなんでしょうか」


「やぁ、マリス。また来てくれて嬉しいよ」


薄暗い離れ小屋の中、ベッドに腰掛けている僕の目の前には、肩を縮こませて怯えた様子のマリスが立っている。


部屋の出入り口にはリゼットが控えていた。


いま、マリスに逃げ道はない。


僕が微笑み掛けると、マリスがびくりと体を震わせる。


どうやら、リゼットを呼ぶよう指示した時のやり取りが、かなり効いているようだ。


「さて、君のおかげでリゼットとの話は無事に終わったよ。でも、君は、僕との約束を破ってこの件をロドリナに報告するんじゃないかと思ってね」


「いえ、決してそのようなことはいたしません。此処でのことは全て秘密にいたします」


マリスは恐怖に声を震わせ、深く頭を下げた。


「でもさぁ、その言葉を信じる根拠が乏しいよね。ちょっと考えてみなよ」


わざとらしく肩を竦めると、僕はゆっくり足を組んで彼女を見据えた。


「今まで君が僕にした態度、吐いた暴言、扱い。どれを振り返ってみても、君一人の考えで出来ることじゃない。正直に言ってごらん、ロドリナの指示だったんでしょ。そうじゃなきゃ、君は精神異常者か変質者か。どちらにしても、ルクナスト家のメイドには相応しくないよねぇ。あ、ちなみに僕、まだ父のリクアードには会ってないよ」


「で、では、私にどうしろと仰るんですか」


僕が目を細めると、マリスは血の気が引いて顔色が真っ青になった。


彼女の緊張、恐怖、不安で激しく波打つ胸の鼓動が手に取るようにわかる。


「僕はね、僕の立場を全部知っていたんだよ」


「え……?」


マリスは目を瞬いて首を傾げた。


今までの僕と言動が違い過ぎるから、戸惑っているんだろう。


まぁ、あえて、こんな含みのある言い方をしているんだけどね。


「確信はまだなかった。でも、リゼットと話したことで最後のピースが揃ったのさ」


「そ、それはどういう意味でしょうか」


嫌な予感でもしたのか、マリスは息を飲んでごくりと喉を鳴らした。


僕はそんな彼女を安心させるべく、にこりと目を細める。


「僕の母であるエラリアを毒で暗殺し、ルクナストの後継者争いから僕という存在をロドリナは抹消したかったのさ。だから、君のように弱みを掴んで言うことを聞かせられるメイドばかりを、この離れ小屋の専属にしていたんだよ」


「ろ、ロドリナ様がアシル様の母親を毒で暗殺したですって。そ、そんな、そんな話は聞いてないわ。私はただ、アシル様の監視と指示書に従って教育しろって言われていただけよ」


マリスは血相を変え、声を張り上げて捲し立てた。


やっぱり、彼女はエラリア母さんの死については聞かされていなかったらしい。


でも、監視はともかく『教育の指示書』まで用意していたとは、ロドリナも几帳面というか徹底している。


だけど、それぐらいやってくれないと、こっちも張り合いがない。


「そっか。マリスは母さんの死については聞かされていなかったんだね。でも、どうしよう。今、知っちゃったよね」


「……⁉ わ、私は聞いてない。何も知らないわ」


彼女は言わんとしていることを察したらしく、必死に両耳を手で覆って頭を振った。


「もう、遅いのさ。リゼット、君も今の話を聞いていたよね」


「はい、真相を知る私とアシル様の会話をマリスが盗み聞きして、重大な秘密を知ってしまった……そうした噂を屋敷に広めれば、ロドリナはすぐに動いて間違いなくマリスの処分に動くでしょう」


抑揚のない冷たい声でリゼットが告げると、マリスは目を丸くした。


「真相を知る、ですって。う、嘘よ。屋敷の中で一番冷遇されているあんたが、どうしてそんなことを知っているのよ」


「……貴女がこの屋敷に勤めるずっと前のことだからですよ。知らないのも無理はありませんが、私はエラリア様に仕えていたメイドでした」


リゼットはそう呟くと、たじろぐマリスに向かって目を細めた。


「そして、ロドリナに渡された毒をエラリア様に渡していたのも、この私です。つまり、私が言えば、確実に貴女は消されるでしょう。代わりの手駒なんて、いくらでも用意できるでしょうから」


「で、でも、じゃあ、どうしてあんたは無事なのよ。本当にエラリア様の死の真相を知っているんなら、真っ先に殺されるはずでしょ」


マリスが現実逃避するかのように指差して反論するが、リゼットは笑みを崩さずに続けた。


「ロドリナにとって、私はいつでも処分できる万が一の保険に過ぎません。当主リクアードがエラリア様の死の真相を知った時、その罪を被せるために。だから、生かさず殺さず、この屋敷に縛られているんです。そう考えれば、私の屋敷での立場に合点がいくんじゃありませんか」


「そ、そんな……」


マリスは全てが事実であることを察したらしく愕然とし、膝から崩れ落ちてその場にへたり込んでしまった。


光魔法を発現した僕に暴言を吐いて暴力を振るったこと。


ロドリナとリゼットしか知らないエラリア母さんの死の真相を知ってしまったこと。


これらの事実が外に漏れれば、マリスはすぐに闇から闇に葬り去られてしまう。


もう一押し、かな。


「それと君、ルクナスト家の備品を売ったお金を使い込んでいたらしいじゃないか」


「ど、どうしてそのことを……⁉」


僕の指摘にマリスはハッとすると、出入り口の扉前に佇むリゼットを睨んだ。


「あ、あんたね。アシル様に話したのは。でも、なんで知ってるのよ。そのことは……」


「ロドリナと先輩メイド達しか知らないはず、ですか」


「な……⁉」


リゼットが微笑み返すと、マリスは絶句した。


「私は貴女の言うとおり確かに冷遇されていますが、ルクナスト家のメイドではそれなりに古参です。屋敷内の出来事や情報で、私の知らないことはほとんどありません。ちなみに、備品を売ったお金の使い込みは誰から教わったんでしょう」


「そ、それは指導役だった先輩達よ。でも、それがどうしたっていうのよ」


困惑、驚き、恐怖、不安……マリスは様々な感情が渦巻いて内心穏やかではないんだろう。


どんどん、声が大きくなっている。


「まだ、わからないのかな」


僕はマリスにゆっくりと近寄ると、彼女の耳元で囁くように告げた。


「君はね。ロドリナに嵌められたんだよ」


「え……?」


きょとんとする彼女だが、これは本当だ。


リゼットの話で裏も取れているし、未来軸の僕がルクナストを名乗れるようになった頃、メイド達の使い込みが屋敷内で問題になったことがある。


責任を取らされたメイド達は数人が屋敷を追いやられ、一部は処刑された。


全員の顔と名前を覚えているわけではないけど、その中の一人にマリスが含まれていた可能性は高い。


「ロドリナはね。ルクナスト家がメイドを雇うとき、自分の手駒になりそうな人間を数人選ぶのさ。そして、息の掛かったメイド達を対象の指導役とする。理由はもちろん、言うことを聞かせる弱みを作るためにね」


「ち、違うわ。ロドリナ様は私を救ってくださったのよ。そんなこと、そんなことあるはずないわ」


マリスは信じたくない様子で勢いよく立ち上がって頭を振るが、「事実です」とリゼットが冷たく告げた。


「貴女が新人の頃についた指導役のメイドから、こう言われたのでありませんか。『誰もがやっていること。ずっと、何年もばれていない。だから絶対に大丈夫』だと」


「……⁉」


覚えがあったのか、マリスはごくりと息を飲んだ。


「そして、それから間もなく指導役のメイドから言われたはずです。『ロドリナ様に使い込みがばれてしまった。でも、誠心誠意謝罪してお仕えすれば、ロドリナ様は公にせず許してもらえるだろう』……と、違いますか」


「あ、あぁ……」


マリスは糸が切れた人形のように、膝から崩れ落ちてへたり込んでしまった。


「嘘よ、嘘よ。ロドリナ様は許してくれたし、私のことを何度も褒めてくださったのよ。そんなこと、あるわけないわ」


彼女は独り言を呟いて必死に信じようとするが、「愚かですね」とリゼットが冷たく告げた。


「貴女も心当たりがあったんでしょう。ロドリナの息が掛かったメイドが辞めた後、彼女達がどうなるか知っていますか」


「し、知らないわよ、そんなこと。実家に帰っているんじゃないの」


「全員、亡くなっていますよ」


「え……」


きょとんとするマリスに、リゼットは抑揚なく、冷淡に告げた。


「時期にずれはありますが、死因は全員決まって体調不良のようです。おそらく、ロドリナのことを知りすぎたための口封じでしょう。私も何とかロドリナの弱みを握りたくて、彼女達と接触を図ろうとしたんです。でも、わかったのは、息の掛かった者がルクナストを離れれば、近い将来に死ぬということでした」


「そ、そんな。私、ずっと騙されていたの……?」


マリスは真っ青になって項垂れてしまった。


逃げ場なくして情報を遮断し、弱い立場を自覚させ、縋っていた味方も信じられないよう誘導する。


催眠や洗脳術の基本だ。


これで、とどめかな。


僕は近寄ると、愕然として俯いている彼女の耳元で優しく囁いた。


「ロドリナはね。君達を替えのきく捨て駒程度にしか考えていないんだよ。でも、僕は違う。協力してくれるなら暴言や暴力の件は黙っておいてあげるし、使い込みの件も解決してあげる」


「ほ、本当ですか。でも、どうやって……」


「質問の前に、協力するかしないか。その返事をきかせてもらえるかな」


まぁ、考える余地なんてないだろうけどね。


それでも、彼女自身に選ばせることに意味がある。


マリスは不安に目を泳がせるが、すぐに逃げ道や選択肢がないことを察したらしく「お願いします。どうか、どうか助けてください」と頭を下げた。


「よし、決まりだね。じゃあ、僕に忠誠を誓うと宣誓してくれるかな」


「か、畏まりました。私、マリス・ルベリエはアシル様に誠心誠意を持って忠誠を誓います……これで、よろしいでしょうか」


「うん、ありがとう。じゃあ、君に贈り物をあげよう」


「贈り物、ですか」


「そう、君の忠誠を信じるためのね」


マリスが首を傾げると、僕は右手で小さな光球を生成する。


そして、その光球を操って彼女の左胸の中に沈めていった。


「あ、あの、アシル様。これは一体……」


「大丈夫、すぐ終わるから」


そう告げた瞬間、マリスは目を見開いて自身の左胸を苦しそうに掴んだ。


「が……がは……⁉ 急に胸が痛むなんて、一体何をしたんですか⁉」


「君に施したのは『光の誓約』という光魔法でね。僕に悪意ある言動をしたり、裏切るような真似をした場合、光の鎖が君の心臓を締め付けるんだよ」


「な、なんて酷いことするのよ。この、く……⁉ あぁああ⁉」


マリスは僕を睨みながら暴言を吐こうとしたようだが、光の誓約が発動して容赦なく胸を締め付けたようだ。


床を苦しそうにのたうち回る姿は、まるで死ぬ一歩手前の虫みたいだな。


僕はやれやれと肩を竦めた。


「さて、これでわかっただろう。僕が本気だってことがね」


「あんた……うぐ。狂ってる、狂ってるわ。こんな、こんな魔法で人を縛らないと信用できないの」


マリスは苦しそうに左胸を押さえ、こちらを凄んでいる。


どうやら、ある一線を越えると肝が据わる性格のようだ。


この辺りは、なかなか使えるかもしれない。


なんだ、ロドリナも人を見る目が少しはあるじゃないか。


僕は彼女の目と鼻の先に顔を近づけると、間近でにこりと笑った。


「そのとおりさ。尤も、そういう風に僕を育てたのは君達だけどね。だから、いまさら優しさなんて期待しちゃダメだよ」


「こ、この……⁉ あぁああ⁉」


マリスは何か言おうとしたようだが、胸を押さえて床に突っ伏してしまった。


外目にはわからないだろうけど、彼女の心臓が光の鎖で締め付けられている様子がはっきりと僕の目には見えている。


これが『光の誓約』による力であり、僕に忠誠を誓った証だ。


さて、いつまで耐えられるかな。


意地で堪えようとした様子も見られたが、マリスは程なく「ご、ごめんなさい」と口火を切った。


「申し訳ありませんでした。改めて、改めて忠誠を誓います。ですから、どうか、どうかお許しください。私が間違っておりました」


彼女がそう叫ぶと、光の鎖による心臓の締め付けが止まった。


マリスはその場で蹲ってしまうが、肩が上下して荒い息づかいが聞こえてくる。


僕はそんな彼女の耳元に顔を寄せた。


「でも、大丈夫。僕が違うところは手駒を大切にするところさ。まぁ、その分、しっかりと働いてもらうけどね」


「はぁはぁ。畏まり、ました」


苦しそうなうめき声を上げるマリスを横目に、僕はリゼットに視線を向けた。


「準備は整った。打ち合わせが終わり次第、リクアードと対面するよ」


「畏まりました。それと、マリスの教育と監視はお任せください。私の腕をお見せ致します」


「うん。お願い」


リゼットとマリス。


ルクナストで数ヶ月過ごし、奴等を生き地獄に落とすための手駒は揃った。


さぁ、まずはルクナスト家へ逆襲の始まりだ。






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