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1/17

回帰と覚醒

「アシル様、ご飯をここに置いておきます。一時間後にお皿を取りにきますから、それまでに食べておいてください。当主リクアード様からのご命令です」


「……わかりました」


誰も彼もが夢や希望、好機や幸運という光を掴めるわけじゃない。


家族の愛や期待も、天光のように誰にでも注がれるわけじゃない。


今日、11歳の誕生日を迎えた……この僕のように。


メイドが部屋に運んできた食事に目をやれば、具材が野菜の皮や余り物といった寄せ集めで作られたスープ。


碌な下処理もされていないから、皮に着いている土の味がするはずだ。


スープの横に置かれているのは、これまた小麦と水を混ぜて焼いただけのパンともいえない代物で、噛むともさもさするし、味なんてものはなかった。


どちらの食事にも、塩味ぐらいはつけてほしい。


このスープとパン。


どちらも見るのは今日が初めてだし、食べたこともない。


でも、何故か見た目にも、味にも強い既視感がある。


僕が頷いて程なく、外から雷鳴が轟いて「ひ……⁉」とメイドが縮こまった。


生憎、天気は土砂降りの雷雨だ。


「はぁ、まったく。ロドリナ様の命令とはいえ、アシル様の面倒なんてごめんだわ。私は嫡男のルシファード様にお仕えしたかったのに」


メイドはこちらを一瞥すると心底嫌そうに吐き捨て、勢いよく部屋を出て行った。


別に思ってくれてもいいけど。


せめて、僕の聞こえないところで愚痴ればいいのに。


扉が閉まると、ため息を吐きながら自分のいる部屋を見渡した。


確か、母上が亡くなってから部屋の手入れがされなくなったんだよね。


ふと破れたカーテンが掛けてある小窓に目が留まる。


カーテンの隙間からは雨が雫が窓を強く叩き、時折稲光が差し込んでいた。


天候にかかわらず、窓を開けることは正妻のロドリナが一年中禁じていたはずだ。


結果、日の光が入らない室内には、湿気が籠もって埃とかび臭さが充満している。


でも、何故か、それすらとても懐かしい。


「どうしてだろう。これを食べたら、ずっと続いている既視感の正体がわかる気がするんだよね」


希望でもなく、予感でもなく、勘でもない。


いわば、胸の奥が震える確信めいたものだった。


既視感の正体を知ることが怖いのか、指先がかすかに震える。


11歳の誕生日を迎える今日まで、何度も同じような既視感を不思議と体験している。


最初はおぼろげで夢かと思った。


でも、違ったんだ。


きっと今日、僕の何かが大きく変わる……その予兆だったんだろう。


薄々感じ取っていたのか、最近は寂しさや孤独をあまり感じなくなったんだよね。


むしろ、一人の方が気楽というか。


ついこの間まで、あれだけ家族の温もりを求めていたはずなのに……。


人って、ちょっとしたことが切っ掛けで変わるもんなんだなぁ。


自分でもちょっと驚きだ。


「よし、いただきます」


意を決すると、僕は無造作に取ったパン(小麦の塊)を両手に持ち、ゆっくりと口元に運んだ。


胸がどきどきする。


こんなに緊張して丁寧に食べるのは、初めてかもしれない。


でも、それはそれとして。


「……おいしくない」


思わず顔を顰めてしまった。


やっぱり味はなくて、もさもさとした食感だけが伝わってくる。


あっという間に口の中がぱさつき、僕はたまらずスープを口にした。


うん、土と野菜の臭みしか感じない。


まったくの無味よりは、まだましかもしれないけど。


これ、どうやって完食しようかなぁ。


口をへの字にして手に持つパンを見つめていたその時、胸の奥がどくんと脈打った。


「な、んだ……」


体がずんと重くなったように感じられて視界がゆらぎ、力が抜けて足がふらついた。


「う……⁉」


激しい目眩、吐き気、頭痛に襲われるが、同時に次々と映像が脳裏に浮かんでは消えていく。


会ったこともないのに……。


心が惹かれる少女。


心が嫌う大人達。


心が痛む血まみれで僕と似た青年。


そして……。


少女は一人で慟哭し。


大人達は嘲笑を轟かせ。


血まみれの姿の青年は無言で死んでいく。


まるで、走馬灯のようだ。


次々と映像が脳裏に再生されていくなか、少女が流す涙だけがやけに鮮明に見える。


何も知らないはずの僕が、彼女の悲しみを知っている気がした。


そして、言いようのない不安と恐怖に胸が締め付けられる。


でも、何故か直感した。


僕は知らないといけない、いや、違う。


思い出さなきゃいけないんだ。


全てを失った悲しみを、悔しさを……その全部を。


よろめくうち、手に持っていたパンを落とし、スープの入った皿をひっくり返してしまう。


それでも何とか壁に背中を預け、頭を両手で抱え、その場でへたり込むも堪え続けた。


どれだけの時間が経過したのか。


だんだんと頭痛は消え、ようやく脳裏を駆け巡る走馬灯も落ち着いてくる。


鈍痛が頭に走った直後は混乱し、頭が割れるんじゃないかと困惑したけど。


でも、ここ数日の既視感と違和感の正体に、これで合点がいった。


「そうか。僕は、アシル・ルクナストは戻ってきていたんだ。あの日から、13年前の過去……現在に。記憶と、痛みと、全てを抱えてやり直すために」


肩で息をしていた僕は、荒い呼吸を整えるべく胸に手を当てながら深呼吸をする。


そして、立ち上がると閉ざされていたカーテンを開いた。


雷雨は止んでいて、雲の隙間から窓に日の光が差し込んでくる。


僕はその光を見据え、ふっと口元を緩めた


「あいつらに、僕を利用なんかさせない。この『天光』は、僕と一緒に自由に生きるんだから。そして今度こそ、彼女をちゃんと守るんだ」



窓の外に向かって決意を告げた僕は、カーテンを閉めて床に落ちたパンを拾うと埃を払った。


スープは床にひっくり返ったから、さすがに食べられない。


勿体ないけど、これ幸いと諦めるしかないだろう。


「さて、それはそれとして……」


僕は椅子に座ると、パンを一口サイズにちぎりながら口に少しずつ運んでいった。


美味しくないのは相変わらずだ。


「ちょっと、頭の中と現状を整理しないとね」


アストレクシア帝国、通称レクシア。


それが、僕がいるこの国の名前だ。


そして、レクシアを治める皇族に次ぐ力を持ち、九頭大蛇【ヒュドラ】と称される九大公爵家が存在する。


表向きは『武力、魔力、知力』で帝国を支え、裏では蜿蜿【えんえん】と絡み合って牽制し、寝首を掻こうと睨み合う……それが九大公爵家、九頭大蛇の本質だ。


魔力と武力という点に目を向けると、九大公爵家はそれぞれに得意とする魔法属性がある。


天光【てんこう】のルク家、光魔法本家のルクスアウリス公爵家。


黒耀【こくよう】のノク家、闇魔法本家のノクティルカ公爵家。


轟雷【ごうらい】のゼル家、雷魔法本家のゼルネリオン公爵家。


煉炎【れんえん】のヴァル家、火魔法本家のヴァルグレイヴ公爵家。


蒼淵【そうえん】のリュゼ家、水魔法本家のリュゼルマール公爵家。


地劫【ちごう】のダルグ家、土魔法本家のダルグローム公爵家。


翠風【すいふう】のシルファ家、風魔法本家のシルファリオン公爵家。


白煌【はっこう】のエイゼル家、氷魔法本家のエイゼルヴァイン公爵家。


樹聖【じゅせい】のグリュン家、樹魔法本家のグリュンリーベ公爵家。


各公爵家の当主が扱う魔法の破壊力は凄まじく、万夫不当の力で他国を圧倒するほどだ。


歴史上、アストレクシア帝国の初代皇帝は、一癖も二癖もある各家の初代当主達と血と魔力で盟約を結び、当時大陸の小国に過ぎなかったレクシアを一気に帝国へと押し上げ、大陸の覇権をほぼ手中に収めたと言われている。


そうした九大公爵家の中で、建国当時から他家よりも頭一つ飛び抜けた双頭がいた。


光魔法のルク家と闇魔法のノク家だ。


レクシア帝国が大陸の覇権を手中に収めてもなお、大陸内外での権力を欲したルク家。


それを危険視し、押さえ込むノク家。


九大公爵家は二家を中心に事実上の派閥が生まれ、時には領地戦という名の内戦が絶えない時期もあったそうだ。


しかし、これもまた皇族が調和と協調に徹することで、彼等の矛を収めさせたという。


僕が11才となった今現在、レクシアは平和だ。


しかし、それは表向きに過ぎず、裏では九頭大蛇達が蜿蜿と絡み合っている。


今後、僕が何もしなければノク家が急速に力を失い、ルク家が台頭を始めるだろう。


やがて、ノク家という枷が外れたルク家は、他の公爵家を次々と飲み込み、旗手であった皇族すらもその腹に収め、尽きない野心は大陸を、世界すらも飲み込もうと動き出す。


世界は戦乱と内乱が溢れ、地獄絵図のような時代に入っていくことになるわけだ。


僕は、そこに至るまでに起きる重大な事件を全て把握している。


「……それも、当事者として」


あえて口に出すと、不安と恐怖で体が震えた。


まだ何もされていないはずなのに、胸の奥が握りしめられたかのように締め付けられ、鼓動が激しくなってしまう。


何故、僕が当事者なのか。


それは未来の僕がルク家に施された光の盟約による奴隷にして、最強最悪と恐れられた『天光使いの暗殺者』だったからだ。


光の盟約は、ルク家の血筋かつ光魔法が使える素養を持つ者の胸……『心臓』に光の楔を打ち込むことで絶対服従を強いる、ルク家の当主にだけ代々伝えられる光魔法。


盟約とは名ばかりの、いわば『呪い』だ。


レクシアに存在する貴族は、ほぼ全てが公爵家を本家とする分家にあたる存在。


そして、僕の父親は『リクアード・ルクナスト子爵』であり、ルク家の分家にあたるわけだ。


まぁ、分家といっても格は様々。


本家に貢献すればするほど、爵位も上がって分家の中での立場も上がっていく。


ルクナスト子爵家の地位は分家の中でも下、それも最底辺に近い。レクシア建国当時は多少活躍したらしく、子爵家にまで登ったそうだ。


でも、初代当主以降、有能な人物は現れなかった。


結果、片田舎に左遷され、ひっそり存在しているのが現在の『ルクナスト家』というわけだ。


誰もが羨む高貴な血筋、ルク家の血統。


本家ルクスアウリス公爵家当主の前ともなれば、その名と天光で皇帝すら名が霞む、とも囁かれている。


それだけ、ルク家は年々その権力と影響力を拡大し続けていた。


「それなのに、本家から遠く離れた最底辺の分家。それも、ルクナストを名乗ることすら許されない私生児が、現代最強の『天光使い』だなんて。皮肉すぎるよなぁ」


僕は、右手の人差し指の先に小さな光球を生み出した。


薄暗い部屋が僕のいるところだけ少し明るくなる。


蝋燭に火を灯したみたいに。


大きさを維持したまま魔力を込めていくと、光球の発する光が強くなっていく。


左手に持っていたパンをゆっくり近づけると、パチパチという音が鳴って部屋にパンが焦げる良い香りが漂った。


やっぱり、才能もそのまんまなんだなぁ。


どういう運命の悪戯か。


現在から13年後の未来まで知る限り、僕は一番ルク家の血。


正確には光魔法の才能に溢れていた。


光魔法は、太陽が持つ慈愛と無慈悲の力を持つと称されている。


そして『天光』とは、その時代における最上位の光魔法使いに与えられる称号だ。


俗にいう天才、それも数百年単位か。


はたまた数千年に一人の逸材。


大天才、超天才、規格外の天才……いや、天恵の子とかそんなところだろうか。


未来を知っていると、自嘲にしかならないけど。


何にしても、だ。


僕は歴代最強と称されるルク家初代当主なみか、それ以上の力を秘めている。


本家が喉から手が出るほど欲する才能が、分家の、しかも最底辺。


家名を名乗ることすら許されていない、庶子の子に天が与える。


そんなこと、一体誰が想像しただろうか。


もちろん、誰も想像していなかった。


僕の両親、家族、ルク家の貴族、本家に至るまで、当然僕自身もだ。


そして、未来の僕はそれで地獄への扉を自ら開いてしまった。


「……焼いても食べられたもんじゃないな」


考えを巡らせている間に、小麦と水を捏ねたものを焼いたパンを光球で炙ってみたが、美味しそうな香りに反してやっぱり美味しくない。


でも、これしか食べるものがないから、頑張って口に入れて噛んでいく。


現状、僕の生育環境は、とてもよろしくない。


僕を生んだ母、『エラリア・ルクデール』はルクナスト家で働くメイドだったそうだ。


何でも、ルクナストで働いていた友人のリゼット・ルクノイアから誘われ、住み込みメイドで働くようになったとか。


だけど、運命は残酷だ。


母は見目麗しい容姿に加え、綺麗な金髪と琥珀色にも見える茶色の瞳の持ち主だった。


平民にはあんまり知られていないけど、実は魔法の才能というのは髪色や瞳色に現れる。


絶対ではないけど、可能性はゼロじゃない、という感じだ。


母のエラリアは、そうした光魔法の素養を持つ髪と瞳の条件を満たしていたのである。


当然、ルクナスト当主のリクアードはその知識を持っていた。


当時の奴は、すでにロドリナを正妻として迎えていたし、二人の間には五才になる息子ルシファードもいたのだ。


にもかかわらず、あの男は母上を手籠めにし、屋敷の敷地内にあるこの離れ小屋に軟禁したのである。


それから一年後、生まれたのが僕ことアシルというわけだ。


当然、ロドリナは激怒した。


正妻だからというのもあるんだろうが、生まれて間もない僕の容姿を見て愕然としたんだろう。


今の僕は髪色が真っ黒で、瞳の色も他人から見えないよう前髪で隠している。


ちなみに、数年間切ってもいないから後ろ髪ものびのびだ。


「いくら僕の地毛が輝金で瞳の色が金琥珀【ゴールデンアンバー】だからって、こんなことするなんてくだらないよなぁ」


髪は月に数回の頻度で真っ黒に染めている。


現状で唯一、ルクナスト家が僕にお金をつぎ込んでいることだろう。


生まれた僕の容姿にリクアードが利用価値があると喜ぶ一方、ロドリナは恐怖したのだ。


己の正妻と嫡男ルシファードの立場が危うくなることを。


僕が光魔法を使え、かつ多大な才能があるとなれば、ルクナスト家の後継者問題に発展する可能性高い。


僕を生んだ母が妾であっても発言力が強くなるし、リクアードも情が移るだろう。


現実問題、僕という存在がある以上、あの男が母の容姿に惚れ込んだのは間違いないのだから。


将来の立場を脅かす存在。


僕と母をそう見なしたロドリナは、リクアードの不貞を許す条件として僕の存在を公にせず髪を黒く染めること、ルクナスト家の名を名乗らせないこと、僕と母を離れ小屋で一生軟禁することを条件に出した。


リクアードもロドリナがそれで収まるならと、その条件を飲んだ。


結果、僕は11才になるまでこの離れ小屋で育ってきたというわけだ。


ちなみに、母のエラリアは産後の肥立ちが悪かったらしく、僕を生んで1年後に亡くなっている。


母が亡くなると、リクアードが離れ小屋に来ることは年に一回だけとなった。


それも、今年は来なかったけどね。


奴が10才まで、僕の誕生日になるとやって来た理由は、素養を確かめる、ただそれだけだった。


光魔法に限らず、魔法の発現は11才までにほぼ起きる。


11才以降に発現することも稀にあるが、力はたかが知れているし、そもそも例が少ない。


基本的に才能があればあるほど発現は早いと言われているなか、僕は11才になるまで光魔法が発現しなかった。


道具としての利用価値もないと判断したリクアードは、僕に興味をなくしたのだ。


でも、前までの僕。


未来の僕にとって、この時のリクアードは、それでも唯一無二の父親。


何とか愛してほしい、興味を持ってほしい、存在を認めてほしい一心だった。


それが奇跡を呼んだのか、運命の悪戯か、光魔法が発現。


喜び勇んでメイドに披露したのだ。


報告を聞き、僕のところにやってきたリクアードは驚喜した。


何せ、僕は調子に乗ってどでかい光球を生み出し、この離れ小屋を吹っ飛ばしてしまったんだから。


今思えば、あの時点で嫡男ルシファードの才能を凌駕していたんだろう。


未来軸の僕は、この日を境にルクナストを名乗ることを許され、見せかけの愛を本物の愛情だと勘違いし、約一年の時を過ごした頃、奴等がやってきた。


ルク家の本家こと、天光のルクスアウリス公爵家当主レクシアム・ルクスアウリスと嫡男ルディアス・ルクスアウリスだ。


「あの日のこと、死んでも忘れてないぞ」


呪詛を吐くように呟くと、僕はパンを食いちぎった。


リクアードは莫大な金と権力を得るため、僕を本家に売ったのだ。


未来の僕が愛と思い込んでいたものは、逃亡させないため、扱いやすくするための嘘。


全て演技だったのである。


そして、僕はレクシアムの手によって『光の盟約』を施された。


心臓に楔を打ち込まれ自由も、意志も、才能も、全て支配されたのだ。


未来の僕が死ぬときだって、自分の意思や誰かと戦って死んだわけじゃない。


ルディアスの命令で自らの胸を光で貫き、灼熱の光球でその身を焼き尽くして死んでいる。


あの怒り、痛み、身を焼かれる熱さ、僕はそれらも全てを思い出した。


今後、絶対に忘れることはないだろう。


「さて、とりあえず現状と頭の整理はこれぐらいでいいかな」


丁度、まずいパンを食べ終え、僕は右手の親指で口元を拭った。


整理しないといけないことは、本当はまだ沢山ある。


でも、もう少し経つとメイドが皿を取りにくる時間だ。


「次は、これからすべきことを考えよう」


ひっくり返して空になったスープの皿。


パンが載っていたお皿をメイドが持ってきた盆の受けに置くと、僕は部屋に備え付けられた埃だらけのベッドに仰向けで寝転んだ。


戦国の世にならぬよう、未来を僕が守る……そんな大それたことは、さらさら考えていない。


でも、僕が光魔法を扱える限り、ルクスアウリス公爵家との衝突は避けられないだろう。


ルク家にとって、光魔法が扱える人間は全て管理下に置くべき所有物なのである。


光の盟約を結んでルク家に服従するか、拒んで死ぬか。


はたまた、光の盟約を強制的に施され、意志を剥奪されるか。


要は服従か死だ。


さすがに一人でルク家を倒すことは不可能だし、そもそも子供の僕だと力が足りない。


かと言って、このままルクナスト家にいれば一年後にはルク家に売られてしまう。


今は何処かの庇護下に入って、力を付けながらルク家を潰す方法を考えるしかない。


「……そうなると、僕が行くべき場所は、ルク家と匹敵する力を有する闇魔法本家、ノクティルカ公爵家、だろうな」


未来の僕の記憶だと、今から約半年後、とある『事件』を境にノク家は衰退の一途を辿り始める。


最後には、ルク家嫡男ルディアスとノク家長女の政略結婚によって、ノク家は事実上没落。


その全てをルク家に飲み込まれてしまう。


九大公爵家の均衡もこれを機に崩れ去り、九頭大蛇で一番大きい力を持ったルク家は次々と他の公爵家を飲み込み、最後には皇族まで飲み込んでしまった。


「……うん。ノク家には『彼女』もいるし、まずはノク家衰退を防がなきゃな。だけど、事件が起きるまでまだ数ヶ月の時間がある。ここを抜け出して、ノク家に今すぐ出向くか。いや、それだと事件の発生時期に変化が起きて、対処できなくなる可能性もあるな」


ベッドの上で仰向けになりながら頭の後ろで両手を組み、足を組んで考えを巡らせていたとき、ふと閃いた。


「そうだ。この方法ならルクナスト家も潰せるし、僕の存在も暫く消すことができる。ただ、問題は協力者だな。この家、僕に協力的な人がいなかったっけかな」


未来と現状の記憶を巡らせると、とある人物の顔と名前が浮かんだ。


以前、母が亡くなる前によく出入りしていたというメイド。


彼女なら、協力してくれるかもしれない。


今でも時折、遠くからこの離れ小屋を見つめていたはずだ。


「よし、大体すべきことが決まったね」


僕はベッドから上半身を起こし、体を見渡した。


記憶を取り戻してから、体に変化はない。


でも……。


「今の僕の人格って、どうなっているんだろう」


未来の僕……というわけでもなさそうだし。


かといって、今までの僕でもない。


思考一つにしても、大人がするような論理的なものになっている。


だけど、自分は『まだ子供』という自覚が不思議と存在しているんだよね。


未来の僕と現在の僕が入り交じって、新しい人格ができたという感じなのかもしれない。


静かに考えを巡らせていたその時、部屋の扉が不躾に開かれた。


「アシル様、入りますよ」






アシル君の活躍が少しでも面白い、続きが読みたいと思いましたら『ブックマーク』『評価ポイント(☆)』『温かい感想』をいただけると幸いです!

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