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第8話 追撃

「通信兵! 各部隊に敵の動きを報告するよう連絡!」


 先ほどは少し安堵してしまったが、もう一度緊張感を取り戻しす。


「攻略部隊からは連絡はないのか?」


 ヤールイコ司令官は、少しだがいらだちを感じていた。


 相変わらず陣幕の外に立ち、王都を睨んでいた。先ほどは無傷と見えた王宮だが、よく見ると建物には破壊の跡がある。あの王宮へ一番近いであろう攻略部隊からの報告を早く聞きたい、というのが司令官の本音だった。


 しばらくすると連絡兵から報告があった。


「攻略部隊から報告。王宮内部に、もう一つの結界があったとのこと。これにより魔法攻撃が防がれたと…… はい、了解。王宮からの脱出部隊と交戦中とのことです」


 司令官は陣幕内で広げていた王都の地図を持ってこさせた。

 地図と言っても到着してからの数時間で作り上げた簡単なものだが、ざっくりと自軍の展開位置を把握するのには最適だ。


「攻略部隊は王宮の手前にある広場に展開してましたな」


 マルテニヤ副官が地図の中にある丸いマークを指さした。

 その広場からは大通りが伸びていて、その先には別の広場があった。そこには帝国軍の虎の子ともいえる魔法兵団、砲兵部隊そして矢組部隊が展開していた。


「うまくいけば挟み撃ちにできますな。地上戦は苦手ですが、守備兵も展開してますし」


「通信兵。砲兵部隊に連絡。敵脱出部隊を殲滅せよと」


 通信兵は「は!」と威勢よく返事をした。


 だが、返事はすぐに来なかった。


「攻略部隊から交戦により陣形を崩され、脱出組を止めることはできなかったとのこと。敵部隊は王門に向かって進撃したとのことです」


「魔法兵団と砲兵部隊からは?」


「連絡が付きません」


「どういう意味だ?」


「砲兵部隊の通信兵と連絡がつきません。脱出組についての連絡したときは問題なかったのですが…」


 副官と司令官は、もう一度地図を睨みこんだ。

 戦闘により連絡がつかなくなることはよくある。通信兵まで戦わざるを得ない、あるいは通信兵が負傷した場合だ。最悪は全滅だが、こんな短時間では無理だろう。とにかく必要なことは援護だ。


「第三攻略部隊と第六攻略部隊に支援に向かうよう連絡」


「了解! あ、砲兵部隊と連絡できました!」


 通信兵が首を上下しながら聞いている。そんな姿を司令官と副官はしばらく眺めていた。


「通信終了。 報告します。敵脱出部隊と砲兵部隊らが交戦。敵の待ち伏せ攻撃にあい、戦場は混乱状態にあるとのこと。砲兵・魔法兵・矢組の損害は多大と推測とのこと」


「脱出組は絶対に逃すなと伝えよ。第三および第六軍が援助に向かっている。それまで敵を食い留めよ」


 通信兵は頷くと黙って念話に集中した。


 ヤールイコ司令官は腕組みをしたまま、隣にいる副官に尋ねた。


「マルテニヤよ、やつらの動きをどう見る?」


 久々に名前で呼ばれた副官は、少し考えてから答えた。


「脱出を目指すにしては目立ちすぎですかね」


「陽動か」


「そう考えるのが良いと思います」


「連絡兵!」


「はっ!」


「全斥候部隊に連絡。不審なものを見たら、必ず連絡すること」


「了解です」


 連絡兵が再び声を上げた。


 続いて指令を出した。


「本陣からも部隊を出動させよ」


「防衛は大丈夫ですか?」


 副官が確認した。


「脱出を計ったということは、もう会戦はない。本体5部隊のうち2部隊を王都に向かわせろ」


「はっ」


 副官が陣幕の中へと指令を伝えに入っていった。


「それから通信兵。疲れてるようだから、交代しろ」


「ありがとうございます」


 通信兵は礼を言うと、陣幕へと入っていった。


 * * *


 ヤールイコ司令官は、大きく息を吐いた。


 今回の作戦の目的は3つ。

 一つ目は、エルダイズ王都を陥落させること。

 二つ目は、王女を確保または殺害すること。

 三つ目は、これを可能なら三日以内に達成すること。


 まず一番目の目的は達成した。一方で三番目の目的は未達成となった。もう10日も経っている。もっとも三日というのは努力目標であり、最初から達成は不可能だと報告していたのだから問題はないだろう。


 この中での最重要目標は何か? 第一のように見えるが、おそらく第二番目の王女の確保が最重要ではないかというのが司令官の考えだ。つまり現状での最重要な作戦目標は王女となったわけだ。


 もし王女が見つからなかったら…… それを考えるとヤールイコ司令官は冷や汗が出てくるのを感じた。あの人は、怖い。クロクムス帝国の参謀だが、我が皇帝よりも恐怖を感じる。そんな思いを感じたのは、今までであの人だけだったのだ。


 何としてでも王女を見つけなければならない。


 そんなことを考えていた司令官に、交代したばかりの連絡兵が報告しに来た。


「報告であります。西の斥候部隊から大鷲のような鳥を見たとのこと」


「大鷲と?」


「は。王都から西の方向へと飛んでいったとのことです」


「大鷲か…」


 大賢者の一人は、人形使いだったな。

 空を飛ぶ人形など聞いたことはない。が、大鷲なら?


「飛行部隊に連絡。大鷲を追え。王女を発見したら、確保しろ。どんな手段を使っても構わない。無理なら殺害しろ」


「はっ」


 連絡兵が陣幕へと戻っていった。


 すぐに本陣の裏手から、5台の飛行艇がするすると浮んだ。

 次の瞬間には青空の中へと消えるように飛んでいった。


「一体、どうやって飛ぶのやら」


 生まれてから空を飛ぶ魔法など見たことも聞いたことがなかった。それがひっくり返った。参謀が空を飛ぶ乗り物を披露したのだ。自分の知っている世界は終わった。新しい世界が始まる。そう思ったのだ。


「王国の連中も、我々が空を飛べるとは思ってもいないだろうな」


 ふと独り言が口から漏れた。


「報告であります!」


 またも連絡兵がやってきた。司令官は軽くうなづいて、報告を促した。


「第三攻略部隊から、砲兵部隊とともに敵の黒人形数体を撃破とのこと。ただし敵脱出兵は見当たらず…… はい、了解です。再び報告。斥候部隊から、王都北西で逃走した敵部隊と思われる集団を発見しましたとのこと」


 北西方向に進むと森が広がっているのをヤールイコ司令官は思い出した。


「北西に森林地帯が広がっている。そこに隠れて逃げるのだろう。斥候部隊と騎士隊を森に展開して、やつらを補足しろ。絶対に逃がすな」


 北西に逃げた地上部隊と大鷹の、どちらが陽動なのか判断はできない。だが確信のような思いが司令官にはあった。


 王女は空から脱出したのだ。


 司令官は、灰色にくすんだ王都をぼんやりと眺めた。


 青い空に昇る幾筋もの煙。さっきまでは黒かったのが今は白くなっていた。もし今日が曇りだったら。もし雨が降っていたら。晴れていたから大鷲を見つけることができたのかもしれない。


 今日も運がいいぞ。


 そんなことを自分に言い聞かせながら、ヤールイコ司令官は飛行隊からの報告を待つことにした。


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