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第57話 帝国軍司令塔

 ダニエマルカムが司令塔へと急いで戻った。司令塔は強烈な熱光線を受けて、上半分はきれいになくなっていた。


 その上半分がどこに行ったかと言えば、司令塔の後ろにずり落ちていた。


 この司令塔を作ったのはアイアルのやつだが、いざというときのための司令室射出装置を作るとか張り切ってたな。そんなことをダニエマルカムはを思い出していた。


 最初に聞いたときは負けることを想定してるのかと反対したが、射出装置のアイディアを楽しそうに話すアイアルに負けてOKをだしたのだった。どうやら、司令室ごと後ろに射出することで熱光線から逃げることができたようだった。


 まだ原型を留めている指令室にダニエマルカムが入ると、中ではハリカムがアッカムを、バハムがアイアルを治療していた。バハムは目を抑えて座っていたが、しばらく実戦は難しそうだ。一方、アッカムはいまだに意識が戻っていないようだった。


 ダニエマルカムはハリカムに伝えた。


「すぐに救護隊が来る。お前ら4人は一緒に母艦に戻れ」


 皇子もまだ指令室にいた。彼の周りにはヤールイコ将軍と何名かの通信兵が囲んで何か話していたようだが、ダニエマルカムは気にすることなく皇子とヤールイコ将軍に話しかけた。


「被害は見られましたかな?」


 皇子は力なくうなづいた。通信兵からの念視で状況は把握しているようだった。

 将軍が質問してきた。


「あの王国の攻撃は君たちの言う星間協約に違反しているのではないのか。我が星の国家に提供できる技術には制限があると聞いていたが」


 将軍は誰かを糾弾するのではなく、あくまで状況の把握のための質問という冷静な様子だった。本心は知らないが。


「なるほど良い質問です。おそらくですが、あれは一部の星ではレーザーと呼ばれる魔法技術であり、武装ではありません。単に使い方を教えただけかもしれないですし、ましてや禁忌の技でもありません。あれほどの威力は見たことがないのは確かですが、協約違反か判断は難しですな」


 ダニエマルカムも務めて沈着なふりをして答えた。


 皇子が呟いた。


「あれに対抗する力は帝国にはない」


「でしょうな。まぁ対抗する方法は知ってますが、教える時間はなさそうです」


 将軍が再び口を開いた。


「参謀殿に聞きたい。レーザー技術を帝国に提供することは可能か?」


「あれは高度な技術と高い魔力の両方が必要でしょう。残念ながら帝国には、あの威力をだせる人材はいないと思われます。少なくともあと2年は人材発掘と訓練を行う必要があるかと」


 皇子と将軍は、二人とも黙ってしまった。

 ダニエマルカムは一言聞いた。


「さて、どうされます?」


 キリアムス皇子は、ダニ絵マルカムの質問の意図を理解した。


「お前なら勝てると?」


 ダニエマルカムは静かにうなづいた。


 王国側があれほどの威力の一発を持っている以上、勝てる保証はないということは彼もわかっていた。敵の戦力が読めない以上、勝つかどうかは戦ってみないとわからないだろう。


 とはいえ、この短い時間で教えられる魔法は限られている。ましてや重武装を輸送する時間がなかったはず。決して勝機が低いとは思えなかった。


「ただ、ではないだろうな」


 相変わらず、呟くように皇子は話を続けた。


 ダニエマルカムは笑みを見せないよう、必死で表情を抑えながら答えた。


「お父様から聞いておられるとは思いますが、例の国家契約をぜひ」


 もう一押し。


「ここで諦めるのも手ですが」 


 ダニエマルカムの言葉で、キリアムス皇子は心を決めた。


「分かった。契約を結ぼう。この件についての権限は持っている」


 皇子とダニエマルカムは、それぞれ懐から契約の印を取り出した。精霊だけが作れる特殊な印は、改ざんが不可能と言われている。これに契約の言葉から映像全てを記録するのだ。


「わが父、クロクムス帝国皇帝の代理であるキリアムス皇子である」


「マイスティカ伯爵領の全権委任代理人であるカムールである」


 これはダニエマルカムの偽名であった。

 ここで本名を使うわけにはいかないのだ。


「伯爵領と帝国は、かかる国家通商条約を結ぶことを宣言する」


「契約を、ここに」


 ダニエマルカムがもう一つの印をかざし、契約の印に注ぎ込んだ。これで契約の中身も全て記録された。


 契約が終わっても皇子は何も言わなかった。

 彼にはよくわかっていたのだ。これは平等な条約ではないと。皇帝からも聞かされていた。彼らは帝国を意のままに操れる属国にするのが目的だと。


 それがわかっていても、彼らと手を切ることは考えられなかった。武力だけではない。魔力を使わずとも貧しい土地でも多くの実りをもたらす穀物は、北方大陸諸国にとって喉から手が出るほど欲しかったものなのだ。もうマイスティカ伯爵領の援助なしの生活は考えられなかった。このまま負けてしまえば援助もなくなるのだ。


「では皇子様。私を南大陸討伐体の総司令官に任命いただきたく存じます」


 ダニエマルカムに皇子は頷いて了承を伝えた。


 満面の笑みを浮かべながら、

「通信兵はここへ」

 と帝国軍の責任者として最初の指令を伝えた。


「我が言葉を南大陸討伐全軍へ伝えよ」


 通信兵は、帝国軍の中で使われている共同念話通話を利用することができる。新しい司令官の言葉は、通信兵によって中継されて全ての帝国軍兵士へと伝えられた。


「我が名はカムール。南大陸討伐軍の総司令官として新たに任命された。我が全兵士に伝えたいことはただひとつ。帝国は負けてはいないぞ、と」


 この展開はダニエマルカムにとっては想定外だった。というより予想以上の成果だった。もし最初の侵略で帝国軍が勝利していれば、単なる国家協力協定で終わっていたはずだ。それでも王国を制定し、この星の主権を握った帝国と協力体制が築けるだけでも大成功と言えた。


 それが協定まで結べたのだ。これも女神のおかげと言えた。その代わり、女神の支援を受けた王国を打破しないと、すべては海の藻屑と消えてしまう。


 司令塔の上空にダニエマルカムの母艦が到着した。


 カテゴリーとしては中型巡洋艦だが、それでも幅50m、全長200mはあろうかという巨大な船だ。それが空を飛んできたのだ。まだ空中を飛ぶ技術を持たない帝国軍の兵士たちにとって、初めて見た戦艦であり、畏怖を抱かせるにはちょうどよかった。


「見よ。これがわが軍の主力戦艦である」


 帝国軍から歓声があがった。

 新総司令官からの言葉に、帝国軍の士気は大いに上がったのだ。


『ダニー隊長。女神の位置が分かりました』


 ダルカルムが念話で話しかけてきた。今は艦長代理だ。


『なんだと!? 何をしたんだ?』


 あれだけ苦労した女神の位置を特定したとは。

 ダニエマルカムは驚かざるを得なかった。


『最初の突撃の時に発振器を仕掛けてたんで。本艦のレーダーで探知できたというわけで』


『ふむ、面白いな。一発ぶち込めるか?』


『問題なしですぜ、隊長! 爆炎弾でもお見舞いしますか?』


『そうだな。いや、それじゃ当たらんだろう!』


『じゃ、荷電粒子砲で!』


 ダニエマルカムが再び通信兵に中継するよう伝えた。


「わが軍の力をお見せしよう。撃て!」


 合図とともに、軽巡洋艦から巨大な青白いビームが発射された。原子核と電子を高出力かつ高速度で打ち出すことで、敵に打撃を与える。空気中では空気と反応して、ああして青白く光るのだ。


「みよ、これが新しい力だ。帝国軍など木端微塵になろう」


 これ見よがしに大袈裟な言葉を使って帝国軍の士気をあげる。そんなことをしながらも、ダニエマルカムは予想したよりビームが広がっていたことが気になっていた。ビームは収束するほど破壊力がます。


『ずいぶんと太いビームだな、ダルカルム』


『すいません、レーダーでの探知だけだと照準できなくて』


 地球の技術はすごいが、魔法技術との融合はまだまだだ。せっかくレーダー探知で正確に位置がわかっても、肝心の射手に正確な位置を伝える方法がない。


『ただ発振信号が消えました』


『命中したのか?』


『プラズマで発信機が故障したのかなと…』


 女神に好き勝手されたくはないが、女神にだけ手をかけるわけにもいかない。これで戦場から消えてくれればありがたい。


 そのとき、2台の輸送艇が戦場に到着した。


『やっと来たか。全戦車部隊、出撃せよ!』


 輸送艇は司令塔のあった少し後ろに着陸すると、全部ハッチを全開にして戦車を吐き出し始めた。旧型戦車と言っても浮上装置で地面から少し浮いて移動する。意外なほど軽やかにハッチや地面の段差を乗り越えて戦車は戦場に向かった。


 今回の作戦で用意した戦車は、たったの20台。


一つの星を占領するには心もとない数だが、この星の魔法レベルを考えれば十分との判断だった。帝国という味方国家の援助もある。


 そもそも、この星には女神がいないという報告だった。だからダニエマルカムたちがこの星に送り込まれたのだ。残念ながら、その報告は間違っていた。しかも女神が一人いるだけで、あの攻撃だ。戦車20台だけで勝利できるかの確証はない。


 だが、悩む必要はない。やるしかないのだから。


『ダルカルム! 王国軍にもお見舞いしてやれ』


 自信満々の指示を出したダニエマルカムだったが、意外な返答が来た。


『無理です。アッカムとアイアル、それにバハムまで動けずで…』


『バハムは元気だったろうが?』


『二人の治療で全魔力を使い切っちまって』


『なんだと? そんなの船医に任せりゃよかっただろう』


『あの船医にですか?!』


 ダニエマルカムは軽く舌打ちした。


 そうだった。彼の直属の5人は優秀だが、他の乗員は魔力において数段劣る。中には人格すら怪しいやつもいる。特にあの船医となると…


 どこぞの星間連合軍であれば優秀な人材で3チームを揃える。どのチームが担当しても攻撃力や操艦には大きな差は出ない。一方でダニエマルカムには優秀なチームが1チームしかいない。これが空賊のマグザールの限界とも言えた。


 仕方がない。自分が戻って指揮を撮るしかないな。そう決断すると、行動は早かった。ダニエマルカムは居残る将軍と皇子に矢継ぎ早に指示を出した。


「ヤールイコ将軍。帝国直属の第1軍から残っている部隊を集めて戦車部隊と合流させよ」


「第2から第5軍は王国軍包囲を続けろ」


「各隊、自動小銃の使用を許可」


「目標はサルマン国王。それと四賢者。生死は問わない。ぜったい逃すな」


 ヤールイコ将軍と帝国の通信兵は忙しく、各軍団へ通達を始めた。


 帝国軍の美点として連携が良いことがある。北大陸には少ない魔法兵の中でも、念話にたけた兵士は全員が通信兵として登用される。将軍の戦術を実行するには、連絡がもっとも大事なのだ。軍団内でも、各部隊にも通信兵が配備されている。こうして中央の命令が、各部隊の末端まで届くのだ。


 忙しくなった将軍と通信兵を後にして、ダニエマルカムは母艦に戻った。


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