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第4話 王宮にて

 王宮は王都の中心部に位置する巨大な岩の丘の上に建てられている。王宮と呼んでいるが実際は王の住む居城や主塔などの建物が立ち並び、中心には小さな広場もある。その中でもっとも高い主塔へとガルドたちは向かった。おそらく王は塔から指示を出しているはずだ。


 主塔の屋上は小さな庭になっていて、その中にダルのための巣も用意してある。


「しばらく、ここで待っていてくれ」


 ダルを屋上に残し、ガルドは急いで王宮へと降りて行った。


 ガルドが高い王宮の中ほどにある広間まで降りたところで、王様に出会った。ガルドは我慢ができず、大きな声で怒鳴ってしまった。


「サルマン! 一体どうなっているんだ!」


 王でありガルドの古い友人であるサルマムンド国王は、ゆっくりとガルドへと顔を向けた。いきなりの呼び捨てだ。


「やぁガルド。遅かったじゃないか」


「遅かったのは、すまん。謝る。何が起きたか説明してくれ」


「説明も何も見ればわかるだろう。結界は破られ王門は守り切れず、そして最後の王宮も陥落寸前というところさ」


 そう言いながら、サルマン王は、バルコニーに出るようガルドに目くばせをした。


 バルコニーからは王都リナエルテを一目で見渡すことができる。そしてバルコニーの真下にある王宮前の広場には、数千の敵兵がひしめいていた。


 王宮は高さ20メートルの丘に建てられているうえに、最後ともいえる第三の城壁で守られている。さらに王宮を囲むように結界が張られている。たとえ王都の外壁や結界が破られても問題はない。鉄壁な守りと言ってよいはずだった。


「あいつらは誰だ? どこから来た?」


「北の大陸からのようだ。それ以上はわからん」


 ガルドの質問にサルマンが答えた。


「こんなに簡単に王都が炎上するはずがない。何が起きたんだ?」


 そのとき、王宮下の広場で強烈な光が炸裂した。敵兵が密集していた中心に大きな穴が開いていた。大賢者ルミナスが火炎魔法を放ったのだ。相手の武装や肉体を一気に燃焼させる範囲攻撃だ。


 強烈な熱と爆風で大被害を与えたはずだったが、敵兵の多くは残ったままであった。街中で使うには被害が大きすぎる技能なので、少し抑え気味だったのかもしれない。


 そこに巨岩が落ちてきて、何人かの敵兵が潰された。巨岩を投げたのは大賢者ザイールだろう。


 それにしても敵の損害が少ない。


「見てのとおりさ。どうやら携帯できる結界を持っているようだ。幸い結界を使っているのは一部だけだが」


「なら俺の黒鱗の騎士軍団はどうした? 結界相手は分が悪いが、結界なら隙間があるはずだ。そこをついて戦えるはずだ。王都防衛用に200体は作ったぞ」


 ガルドが作りこんだ黒鱗の騎士なら一体だけで10名の人間を相手に勝てる。王都内であれば、城壁や建物の陰、さらには屋根から黒鱗の騎士が突撃するのだ。200体もいれば「1万の軍隊でも逃げ出すはずだ」そうガルドが声を絞り出した。


「あぁ。俺もそう思った。まぁ見ててみろ」


 20名ほどの敵兵が、広場から王宮へと続く通路を上り始めた。一度に大勢が通れないよう、道幅は狭く、そして丘に沿って湾曲している。通路の最後には頑強な城門が王宮への侵入を阻む。簡単に侵入できないはずだ。


 城壁の上から、黒鱗の騎士3体が王宮へ突撃してきた敵兵の真ん前に飛び出した。大きな剣を振り回し、数人の敵兵が吹っ飛ばされた。命を持っていない人形だからこそできる、命知らずの攻撃だ。


 そもそも黒鱗の騎士は痛みも感じない。矢が刺さろうと、槍で突かれようと、腕の一本がもげても戦い続ける。そんな敵を相手にできる人間などいないのだ。一度に大勢で戦うのが難しい細い王宮への通路なら、3体いるだけで十分な防衛になるはずだ。


 みるみるうちに20名の敵兵士は半分へと数を減らしていた。


 その時、ガルドに理解できないことが起こった。

 一体の黒鱗の騎士が、がっくりと膝をついたのだ。


 そこに数名の相手が斬りかかり、黒鱗の騎士は完全に動きを停止した。

 残りの二体も、すぐに同じように倒されてしまった。


 ガルドは、自慢の黒鱗の騎士があっという間に倒されるのを見て、言葉を失った。


 そんなガルドに、サルマンが種明かしをした。


「相手が使っている矢に秘密があるのさ。矢先に毒でも塗ってあって、魔力の循環を阻害するみたいでね。黒鱗の騎士もそうだが、魔法部隊も矢でやられたよ」


「そんなのが存在するのか」


「ああ、初めて見たがな」


「なるほど黒鱗の騎士が役に立たないわけだ」


 城門から大爆発が起き、王宮前の小さな広場が煙で覆われた。

 煙が落ち着くと、城門に大きな穴が開いているのが見えた。


「あれは爆裂魔法だな」


 やっと自分が知っている攻撃がでてきて、少し安心したガルドだった。


 爆裂魔法は、ガルドたちが知っている魔法の中で最も破壊力の大きな魔法だ。物質なら何でも爆発させてしまうのだ。


「まさか兵士を爆裂させたりしてないだろうな」


「あぁ、今のところ観察していない。たぶん、できないだろう」


 ガルドの質問にサルマンは冷静に答えた。


 魔法の唯一の欠点と言えば人間や生物に直接作用できないことだ。生命には抗魔法作用があり、魔法をかけることができないからだ。そんな常識が通用しない相手となると勝ち目はないだろうが、少なくとも攻撃の原理や弱点を知れば戦うことはできそうだ。


 だが城門が破られたということは、いよいよ王宮を守るのは結界だけということだ。


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