第1話 アルラティア星
初めての作品です。最後まで書き終えてからの投稿になります。
よろしければ一読のほど、よろしくお願いします。
「超光速航行を解除します」
いつものようにカグヤ号の人工知能(AI)が例の機械っぽい話し方で報告してくれた。
「アルラティア星系への到達を確認しました。これから減速を開始します。艦内時間5分ほどでアルラティア星の衛星軌道に到達です」
この報告を聞けば、もう大丈夫だ。
芽上艦長は魔力伝達管から手を離すと、操縦席に座ったまま大きく伸びをした。
「お疲れさま、カグ君。ちょっと休憩できるかな」
超光速航行が終われば、艦内魔力槽だけでカグヤ号は動かせる。あとはAIが目的地のアルラティア星の目の前まで連れて行ってくれる。後はお仕事を終わらせるだけだ。
「はい、わかりました。このアルラティア星での作業が終われば残り15か所ですので、ちょうど半分が終了しました。もちろん、あと半分残っているとも考えることができます」
いらない情報まで残さず報告するのがAIの欠点かもしれない。とはいえ残りの100光年ほどの距離を恒星間通信装置で結べば今回の工程が終わる。最終的には地球から1500光年ほど離れたアベルラーン星まで直通の通信路を作ろうという壮大なプロジェクトの一部だ。
「それじゃ、ブリーフィングを始めましょう。まずは基地の場所を教えて」
「了解しました。この星の南大陸にあるとのことです。地図に示します」
目の前のスクリーンにアルラティア星の地図が現れた。ブリッジで一番大きいメインスクリーンに、青い星が浮かび上がった。星には二つの大陸があるようだ。
「まるで地球の南北アメリカ大陸みたいね」
二つの大陸の間が細い陸橋でつながっている上に、両大陸ともに西側に山脈が走っているところまで似ている。
「はい、確かに似ていると言えます。ただ南大陸の大部分が温帯に属している点が異なります。また北大陸の半分が北極圏内にあるため、人には住みにくい環境だと思われます。基地の場所は南大陸の西山脈の近く、丘陵地帯の奥深くにあるようです」
AIは説明しながら地図を南大陸の西側にクローズアップすると、赤い四角で基地の場所を示した。
「ちなみに保護管理局が構築した基地を利用することになります」
「いままでと同じね。ほんとに保護管理局って、どの星にでもいるわよね」
「記録によれば10年ほど前まで保護管理局の管理者が常駐していたそうです。豊穣の祈りを使った魔法文明だそうです」
「ちゃんとした文明がありそうね。今までは弥生時代の集落しかなかったからね。でも、まだ文明限界線を超えてないと思ったけど?」
「まだ魔素濃度が低いのは確かですが、文明限界濃度に少し足りない程度ですので文明の維持に成功していると思われます。ちなみに温暖で豊かな土地だと記録にはあります。フルーツの栽培、そして羊の放牧が盛んとありますので上手に文明を維持しているのでしょう。もしよければ、この星で少し休んでいくのも良いかもしれません」
芽上はまくしたてられるようなAIからの説明と、最後に突っ込まれた突然の提案を聞いて、返事に困ってしまった。
なぜなら…
「うーん、それって人と会うことになるわよね」
「確かにそうですね。ただ温厚な国民性を持つ猿人種と記録にありますので、現地人と交流することは可能だと思われます。今回は単独航行を行っていること、まだ工程が半分が残っていることなどを検討すると、ここで気分転換を行うのは重要なことだと推察します」
AIが言っていることはわかる。
だが、しかしだ。
自分が一人でいるほうが好きだから、今回は単独での作業にしてもらったのである。まだ寂しくもないし、わざわざ人と会いたいかと言われると面倒なのが勝ってしまう。
ちなみに単独作業の許可が出たのはカグヤ号、正確にはカグヤN世代型105番機の優秀なAI(人工知能)と魔力析出装置のおかげである。今までなら最低でも3名は必要だった超光速での長距離航行が一人でも可能になったのだ。人手不足と、ついでにAIの性能確認というのもあって許可が下りたらしい。
「カグ君、私が人と話すのが得意じゃないって知ってるよね」
「はい芽上隊長、その話は何度か話されたと記録にあります。なお、この星の羊料理は美味しいとも報告されています」
その話題は卑怯だ。ラム肉は私の大好物なのだよ。
そしてカグ君の記憶が良いのもよくわかったよ。
しかたがない。
「じゃぁ、おひとり様歓迎のレストランがあればってことで」
「わかりました。探しておきます」
単独航行のためということで、多少はAIも冗談っぽいことを言えるのだ。
人に会うのは気乗りしない自分だけれど、十分に気分転換した感じがする。
「そろそろ衛星軌道に到着します」
AIは報告すると同時にメインスクリーンを暗くした。
ブリッジの窓から、アルラティア星が大きく広がって見えた。
青く美しい星だった。
アルラティア星は地球からおよそ900光年ほど離れた星だ。こうしてみると地球よりずっと海が多いのがよくわかる。南極大陸もないので、おそらく星全体が温暖で住みやすそうだ。
ちなみに、さっき見た二つの大陸は見えない。つまり裏側にある。今は太陽の側からアルラティア星に近づいているのだから…
「ちょうど基地は夜のようだし、このまま着陸しましょう」
「了解しました、キャプテン!」
操縦席に深く座りなおして、シートベルトを調整して、操縦桿を握った。握るというよりは肘置きにある魔力伝導管の上に手を置いただけだ。ここから魔力を流し込む。この魔力を上手にAIが制御することで、今までにない精度で操艦できるようになったのである。
* * *
カグヤ号はゆっくりとアルラティア星の南大陸に向かって降下していった。目指すは大陸の西側を走る山脈から少し東側に外れた丘陵地帯にある基地だ。
途中で大きな都市があるのが見えた。ほかにも真っ暗な大陸にぽつりぽつりと明かりが見えた。この明かりの密度と文明度を考えると、確かに南の大陸だけで数百万ぐらいの人口はありそうだ。
そんなことを考えている間に、カグヤ号はとある遺跡の上に到着した。この遺跡の下に基地があるのだ。ここから先は基地から出る念波が頼りだ。芽上隊長はゆっくりとカグヤ号を遺跡の裏手にある丸い空地へと操艦した。
「昼間なら地上絵が見えるはずなのですが夜だと見えないのが残念ですね」
あちこちの星に、こういった基地がある。場所はだいたい人が近づきにくい山脈の近くにあるのだが、基地の位置を示す地上絵も描かれている場合が多いのだ。
「この星は何の絵なの?」
「鯨だそうですよ」
星の文明が発達すると地上絵は見つかって、消えたり追加されたりで使えなくなるらしいのだが、それはそれで重要な情報ということで慣習的に地上絵を描くという話だ。
夜が明ける少し前、カグヤ号は静かに基地の地下ドックへと進入した。
基地の地下は、ちょうどカグヤ号が入る広さの洞窟になっていた。
「着地~」
ふわり、という言葉のままにカグヤ号は地下ドックにふんわりと着陸した。
「長い航行が終わったばかりですので、少し休憩を取るのはどうですか?」
「それもそうね。ちょっと休んでくるわ」
シートベルトを外して操艦席から立ち上がると、ブリッジから出た。そのまま自分の部屋のベッドへ倒れこむとすぐに眠りに落ちてしまった。
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