ユマサーマンみたい
更新が空いてしまいました、ごめんなさいm(._.)m
ゾンビに向かい声高らかにゼクスマートから飛び降りる数分前、暮子はポケットからwalkmanの黄色のWM-F5ステレオカセットプレイヤーを取り出した。
イヤホンを指し、耳に装着する。
「人類が絶滅して、電波やらなんやらが途絶えてもカセットやと音楽が聴ける。まさかこんなことなると思ってなかったけど、これを持ってて今使えてることはパパに感謝やな」
何かにつけてはレトロな物や古臭い物を勧めてきた父親にうんざりしていた暮子だが、人類が絶滅し、思わぬ形で文明が途絶えてしまったなかではこういった父が残してくれていた遺物に不本意ながら感謝する他ない。
カセットからbring me the horizonのTop 10 staTues tHat CriEd bloOdが流れる。
破滅的で疾走感のあるエレクトロニックなサウンドに暮子の体は自然と高揚する。
血液が沸騰するような熱を持った感覚そのままに暮子は戦場に飛び込んでいった。
暮子が地面に降り立った瞬間、背後から一心不乱に襲いかかってくるゾンビの喉をノールックで一突き。そのまま頭にかけて刀を振り上げ腐敗した血を撒き散らしながらゾンビは倒れ込んだ。
「まずは一体!!」
間髪入れず暮子の周りの三体のゾンビが襲いくる。
最も近い場所にいたゾンビの足を払い、ゾンビの体勢を崩しそのまま刀を横に薙ぎ残りの二体を切り裂いた。
体勢を崩して転けているゾンビの頭を踏み潰し、そのまま猛烈な勢いで暮子は駆け出した。
疾走した暮子は飛び膝蹴りを眼前のゾンビにお見舞いし、自分の体を空中制御しながら周りにいる横で手を伸ばしてきているゾンビも斬り払う。
「10体くらいはやったか!?あー!体が血でベタベタする!水浴びしたい」
セーラー服を腐敗した血で深紅に染め上げながら日本刀片手に戦場を駆け抜ける。
その姿はさながら民主を導く自由の女神のようだ。ただ、周りにいるのはゾンビで行っているのは導きではなく殺戮だが。
「こんだけやってゼクスマートの店員おらんかったら大損やでほんま」
ぐちぐちと文句を垂れながらも驚異的な勢いでゾンビを切り伏せていく。
「てかちょっと数増えてる気するし、さらに誘き寄せてもうたんか」
戦場の喧騒に誘い込まれた屍たちが二度目の死に迎え入れられることも知らずに唸り声をあげる。
欲だけに囚われた唸りと無情に切り裂かれた屍たちの断末魔が協奏する。
「パルプフィクションのユマサーマンみたいやな、わたし。黄色のジャージ着とけばよかったわ」
他愛も無い冗談を言えるほどの余裕を見せる暮子。
「粗方片付いてきたな。あとで刀も手入れせ--」
ゾンビの数も少なくなりこの後のことに暮子が思いを馳せ出した刹那、
「っ!」
唯ならぬ気配を感じ暮子は後方に飛び跳ねる。
「ちっと騒ぎすぎたかな、面倒くさいもん呼び出してもうたわ」
暮子の視線の先には腐敗した体に赤黒い鎧を身に纏った周りの絶命し横たわったゾンビとは明らかに気配の違う個体がいた。
血を凝縮して固めたような鎧を身に纏い、手に同じ材質の武骨でぶっきらな刀を持ち佇む姿は深紅の甲冑を身に纏った落武者のようだ。
(変異タイプか。私の出方を伺ってる?)
ゾンビのなかには通常のタイプとは違い、何らかの経緯で圧倒的な身体能力や、特殊能力を持った個体が存在する。
暮子の予想では生前に類稀なる才能を持っていたパターンか、感染したウイルスが他の人とは違うパターンの二種類だと考えている。
(立ち姿だけでわかるわー、たぶん半端なく強いなコイツ。今の疲弊した状況で戦うんはきついな、でも逃してもくれなそうやしなーどうするか)
変異タイプに共通することはどの個体も普通のゾンビに比べ、格段に厄介になることだ。
変異タイプのゾンビは牙突の構えをとり、臨戦体勢に入った。唯ならぬオーラを放っている。
「そうなりますよねー、しゃーないやったるわ!ぼけ!ほんま焼肉定食とか付いてこな割に合わんで!あほ!」
戦いから逃れられないことを察した暮子は悪態を吐きながら構えをとる。
瞬間---、剣閃が走る。
開戦の合図を察した両者が目にも止まらぬ速さで駆け、刀と刀がぶつかり合う。
コンビニ前の死闘---、
深紅の落武者と暮子の剣戟の幕が上がった。