暮子の秘策
脳筋系JK
コンビニの屋根の上に登った暮子は背負っているリュックのなかから拡声器を取り出した。
「我ながら名案やな〜、私の頭も捨てたもんちゃうわ」
先程までの八方塞がりでもう踊るしかない状況から打って変わり、暮子は自分が名案を思いついたことにとても満足気だ。
「ほないくで〜!かまぼこがおらんでもなんとかなるってとこ見せたるわ!!」
暮子は大きく息を吸い込むと拡声器に口を当て
「ゾンビさんこちら〜!!若くてピチピチの美味しいJKがいますよー!!」
と大声で叫んだ。
「よし、これで集まってくるやろ。DNA鑑定システムはゾンビになっても人間の時と同じように判別してくれるからなー、ゼクス社も流石に人がゾンビ化したときの対策までは出来へんかったな!私のほうが一枚上手やったわ」
そう、暮子は気が触れてやけになったわけでは無く、ゼクス社のDNA鑑定システムはゾンビになった状態の人間を正常だった頃と同じように判別するため、ゾンビをセンサーに感知させても電子キーの通行権限を持っていた者なら通してしまうのだ。
さらに、ゾンビは基本的にゾンビ化した時に滞在していたエリアからあまり離れることはないため、かつてこのゼクスマートの従業員であったゾンビを誘き出すため暮子は拡声器を使い大声を出したのであった。
「まあ、ゾンビ化せずに死んでる可能性もあるし賭けやけど何事も挑戦!挑戦!」
ゾンビ化した人間は総人口の三分の一ほどでそれ以外は死滅してしまったため、かつてのゼクスマートの店員がゾンビ化して更にこの辺りをまだ徘徊している確率はかなり低い。
「お、だいぶ集まってきたな」
「「「ゔぁあ、ぶぐぉおぉ」」」
「「「ぅゔぐあぁぁ」」」
「「「ぶごごぉぉあ」」」
「三十体くらいはおるかな。よーし、気合いいれてこー!」
声にもならない声を上げながらゾンビ達がのらりくらりと各方面から暮子めがけて悍ましく集まってきた。
常人が見れば阿鼻叫喚するような地獄絵図だが暮子はどこ吹く風でこれから始まる戦いに向けリラックスして伸びをしている。
「こういう時弓とか使えれば楽なんやけどな、まあできへんもんはできへん。考えてもしゃーないからな」
一部の例外を除いてゾンビは建物を登ってくることはできないため現在の状況の場合ゼクスマートの上から弓でゾンビを射抜いていけば楽に倒すことができるが、いかんせん暮子には全く弓の才がない。
何度か挑戦した際も矢があらぬ方向に飛んでいくばかりでその間に近づいてきてしまったゾンビを結局日本刀で斬る結果になった。
その経緯があったことで私には弓は向いていないのだなと悟った暮子は弓に挑戦することを諦めた。
(京華はやっぱ凄かったんやなー、生きててくれたら何倍も楽やったのに)
と、中学時代の弓道部の旧友に思いを馳せる暮子であった。
「よし」
幾多の戦場を共に潜り抜けてきた自らの愛刀を握り直すと鞘から引き抜いた。
「しゃあー!!ゾンビ無双開始じゃあーい!!」
刀を携え、声高らかに叫びながら暮子はゼクスマートから飛び降りた。