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出発です

 動画撮影の準備をやらされるのはいつも僕。

 今回も機材を揃え、食糧と飲み物を買い、レンタカーで8人乗りのバンを借りました。

 車の中に荷物を積み込んだり、僕がバタバタと仕事をしている間、駒子さんは優雅にバスタイムです。

 事務所のお風呂、僕は入れません。駒子さん専用ですから。

 準備が終わったら一人で近くの銭湯に行って、帰りにコンビニでカップラーメンを買って食べます。駒子さんはきっとウーバーイーツでピザ頼んでますね。


 コンビニの外でカップラーメンを食べながら、妄想しました。

 今回の異空間潜入で駒子さん、死ねばいいのに。

 そして僕がカナさんを華麗に救出し、もみじちゃんに大感謝され、二人は付き合うことに──


 いえいえ……、思っただけです。思い浮かべただけ。


 駒子さんは大切な僕の雇い主であり、我がプロダクション唯一のタレントです。失うわけにはいかない。


 駒子さんを失ったらマネージャーの僕は仕事も失うわけですから。

 結構お給料、いいんです。





 集合時間の夜8時──僕がバンを運転し、待ち合わせの駅に着くと、みなさんもう待ってらっしゃいました。


 1月の夜はとても寒いので、みんな防寒着でモコモコです。いつもは着流しの和服姿の黄泉野さんもスキーウェアに身を包んでました。


 もみじちゃんは学生どうしメルちゃんと仲良くなったらしく、二人でくっついて何か会話をしています。可愛いなぁ……。


「お待たせしました。乗ってください」


 助手席から顔を覗かせて駒子さんがそう言い、僕がスライドドアをリモコンで開けると、全員が乗り込みました。


 みなさん無口でした。これから恐ろしいところかもしれない場所へ行くのです。緊張しているのでしょう。


 高木さんは持参した高そうなビデオカメラのチェックをしています。プロという感じで、頼もしい。


「それじゃ、谷くん……。行こう」

 黄泉野さんがそう言い、僕は車を発進させました。



 廃工場までは20分ほどの距離です。


 車が郊外へ出て、辺りの景色が寂しくなってくると、車内のみんながようやく喋りはじめました。


「き……、緊張しますね」

 そう言ったのは貴婦人さんでした。

「外番の私でも緊張するんですから……実行される皆さんはさぞかし──」


「大丈夫、大丈夫!」

 黄泉野さんの高笑いが車内を満たします。

「私がいるから大丈夫でございます! みんなをより緊張させるようなことを言わんでくださいよ、貴婦人さん」


「そうですよー、このひと頼りになるんだから」

 駒子さんもみんなの緊張をほぐそうと、あかるい声を出します。

「それにこの谷くんだって、意外と頼りになりますから。楽しく行きましょ!」


 ルームミラーを見ると、不安そうな表情で下を向いているもみじちゃんの可愛い顔が見えました。

 大丈夫、キミは僕が守るから──僕はそう思っただけで、言葉には出せませんでした。


「おや……。あなた……」

 黄泉野さんの声が聞こえました。

「へぇ……。なかなか怪奇現象にお詳しいようだ」


「はぁ……。まぁ……」と、自信なさげな声が聞こえます。安息の黒乳首さんのようでした。


「おぉ……! 黄泉野くんがそう言うなら、間違いないね」

 助手席から駒子さんが振り向き、あかるい声で言います。

「こういう時はどうしたらいいかとか、色々指図してよ? 色々あるんでしょ? シチュエーションによってやっちゃいけないこととか」


「あ……はい」


 一番後ろの席に座る黒乳首さんが目を泳がせました。黄泉野さんがそう言わなかったら、どう見ても嘘つきに見えるほど挙動不審です。


「あれっ? もみじちゃん、気分悪い?」

 駒子さんが言いました。


 見ると三列シートの二列目で、もみじちゃんが膝に頭をつけるほどに上体を前に倒してなんだか震えています。


「大丈夫、大丈夫!」

 その隣に座る黄泉野さんが、もみじちゃんの背中に手は触れずに、撫で回すような恰好をしています。

「思い出しちゃったんですな、カナさんのことを。罪悪感にうちひしがれてらっしゃるんですよ」


 反対の隣に座るメルちゃんが、ぽんぽんともみじちゃんの背中を優しく叩き、慰めてあげていました。


 それにしても──


 なんだか僕は気になっていました。黄泉野さんがいるから心強いはずはのに……


 なんだか車が前に進むにつれて、嫌な予感がしてくるんですよね。


 そしてそれは、だんだんと大きくなっています……。




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― 新着の感想 ―
結構お給料、いいんです > それならもう少しいいものを食べてもいいんじゃないの? 嫌な予感がしてくる > ああ、ヤバい、ヤバいよぉ。きっととんでもない事になる。 実績と信頼のしいなここみ。
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