除霊
黄泉野くんが、高木さんに何かが取り憑いていると言い出した。まぁ、彼がそう言うならそうなんだろう。
ちょうどいい。彼が本物の霊能力者だという証拠を皆に見てもらういい機会だ。何しろ見た目がうさん臭いから、実際にその能力を見てもらわないと──
「除霊料は私が払うわ。やってあげて、黄泉野くん」
「いやいや、こんなものにお金はいただけませんよ、駒子さん。つまらない低級霊ですから」
私にそう言うと、オロオロしている高木さんに聞く。
「最近、夜に眠れないとか、そういうことはございませんかぁ〜?」
「あ……、そういえば。なかなか寝つけない上に、眠ると嫌な夢を見ますね。別れた嫁が金属バットを持って戻ってきたり──」
「この世をさまよっている庶民的な霊のいたずらですねぇ……。取り祓って差し上げます」
黄泉野くんはそう言うと軽く目を瞑り、手に持った数珠をこすり合わせる。そして──
「カーーーッ!」
素早くおおきく目を開くと、てのひらを高木さんへ突き出した。
「あれ……? 肩が軽くなった」
高木さんの顔があかるくなった。
「ありがとうございます! 何か憑き物が取れたようです」
「庶民も庶民──どこにでもいる一般人の霊の、つまらんやっかみでございました。高木さんがハゲてないことを憎んで取り憑いていたようでございます。今、あっちのほうへ逃げて行きましたよ」
私たちには何も見えなかった。本当かどうかわからん……。
まぁ、動画サイトにたくさんある彼の除霊モノを観てもらえばわかることだろう、黄泉野くんが本物だということは。
「しかし、そこへ行った高木さんが低級霊に取り憑かれていたということは──」
「そうです、駒子さん」
黄泉野くんが私の考えを読みやがった。勝手に読むからコイツはちょいとムカつく。
「その異空間は霊的なものに違いありません」
「あたしが……何か、開いてしまったんでしょうか……?」
もみじが自分を責めるようにそう聞いた。
「さぁ〜……? それは、行ってみないとわからないですねぇ〜」
あくまで優しく、もみじの気持ちを気遣うようにそう言うが、黄泉野くんの笑顔がなんか怖い。あるいはキモい。
「決行はいつにしますか?」
司令塔を務めることになる貴婦人の孫の手氏が私に聞いた。
「そうですね。みんなの都合が合う時でなければ……」
しかし女子学生二人はともかく、皆が意外と暇なようだった。誰もが「いつでもいい」と言う。
「それなら……今夜行っちゃう?」
善は急げだ。やるならもったいつけずに早くやっちゃったほうがいいと思い、私はそう言った。
「はいっ!」
メルが立ち上がり、楽しそうに3回うなずいた。
「あたしはそれでいいですよ。いえ、それがいいです! 楽しみで眠れそうにもありませんからっ!」
「あたしも……早速今夜がいいです」
もみじも力なくだが、うなずいた。
「カナちゃんのこと……心配で心配で……。助けられるものなら一刻も早く助けてあげたい」
他の皆も賛成してくれた。
谷くんもなんだか嬉しそうにソワソワしてる、もみじちゃんをチラチラと横目で見ながら。あれだけ嫌がってたのに──
「皆さん、私がいれば大丈夫です」
笑顔の黄泉野くんが両腕を袖に入れ、ニコニコと笑う。
「大船に乗ったつもりでいてくださいね」
まぁ、確かにいいメンバーが揃った気がする。
もみじは必要不可欠だ。この娘がいればその異空間とやらに入ってもすぐには追い出されず、留まれる可能性が高い。
貴婦人の孫の手氏はいかにも仕事が出来そうで頼りになりそうだし、メルは女の子ながらいかにも強そうだ。高木さんはプロのカメラマンだし、安息の黒乳首は……まぁ、今のところ頼んなさそうだけど、豊富なオカルト知識とやらを信じてみることにしよう。
そして本物の霊能力者の黄泉野くん、直感力だけは頼りになる谷くん、そしてこの私、超人気動画配信者でありかつ美貌の天然系ネットアイドル駒山駒子。どーよ、この最強っぽいメンバー?
「それにしても……」
貴婦人の孫の手氏が発言した。
「司令塔は私がやるより、駒子さんがやったほうがいいのでは? わざわざ危険かもしれないところへご自身乗り込んで行くよりは、安全な場所で指示をしてくださったほうが……」
「私を誰だと思ってるんですか?」
フン、と鼻を鳴らしてその話を吹き飛ばす。
「私は突撃系ネットアイドル、駒山駒子! 私がやらねば誰がやる? 私は撮影する動画の『カオ』なんだからっ!」