メンバー募集
例の掲示板で参加メンバーを募集するのは僕の仕事とされました。
《駒山駒子のマネージャーのコクーンといいまぁす》
本名は谷だけど、こんなところでだけでもハンドルネームを名乗ってやる。
《廃工場潜入動画生配信企画に参加してくれるひと募集中です。カメラマン、オカルト知識な豊富な方、それから荷物持ち……は僕がやりますので、外で指示をしてくれる連絡要員の方を募集します
今のところ廃工場侵入経験者、戦闘員、霊能力のメンバーが集まってます》
そう、強力な霊能力者がメンバーとして加わってくれることが決定していました。
黄泉野スル──でも、僕、あのおじさん苦手なんだよなぁ……。他人の心を言い当てちゃうっていうか、覗き見ちゃうから。
さて、メンバー集めですが──
《ホホホ! アタクシはオカルトにはすっげー詳しいから連れて行ったほうがよろしくってよ! 力を貸してあげる》
そう名乗りをあげたのは『安息の黒乳首』というハンドルネームのお嬢様でした。
《私もご一緒させていただいてよろしいですか? ちょうどカメラマンをやっておりますし》
この話のきっかけを作った、第一話の冒頭に出てきた『高木』さんが手を挙げてくれました。
《では…わたくしが、連絡要員を務めましょう》
そう言ってくれたのは『貴婦人の孫の手』というハンドルネームの……正体のよくわからないひとでした。
あっという間にメンバー揃えちゃうなんて、さすがは僕! ……いやまぁ、わかってます。駒子さんの人気があってこそだって。
それからすぐ、またあの2階のカフェで、メンバーの顔合わせを行いました。
二席を合わせたテーブルに、8人のメンバーが揃いました。
「初めまして、安息の黒……黒乳首……です」
ネットではお嬢様だった黒乳首さんは30歳代半ばぐらいの男性でした。黒いヘビメタっぽい格好をしている以外にはネットでの悪ノリはどこにもなく、礼儀正しそうでシャイなひとですが、そのうち『ホホホ!』と高笑いを聞かせてくれるのでしょうか。
「貴婦人の孫の手と申します」
そう言ってぺこりとお辞儀をしたのは40歳ぐらいのきちんとした身なりの男性。IT企業に勤めてそうな感じです。
「高木です。高木親通と申します。本名です」
高木さん、本名だった! 仲間ができたことの喜びに僕は思わず握手を求めました。
「カメラマンをやって21年になります。今はフリーですが、以前はスクープ雑誌で有名な出版社に勤めておりました」
寒がりなのか、白いダウンジャケットの前をぴっちりと閉めた、少しだけ太めのおじさんてす。
「黄泉野スルでございます」
法衣姿に口ひげを蓄えた51歳の霊能者──黄泉野さんが、腕組みをしたまま頭を下げる。偉そうだ。
「皆さん、私のこと……あぁ、ご存知ないようですね? これでも動画サイトでは有名な霊能力者のつもりなんですが……」
みんなの心を読んで、誰もに知られてないことに落ち込んだみたいでした。
「メルです。体育大学の学生です」
「……もみじです。あの廃工場の前から飛べるという異世界が招きたがってるのはたぶん……あたしです」
「そうだろうね」
黄泉野さんが彼女の中まで覗くように見ながら、うなずきました。
「なるほどね〜……。置き去りにした友達がキミのことを呼んでるんだね〜」
「マジすか?」
黒乳首さんが興味をそそられたようです。
「一体どんなことが……いや、それは後で聞きましょうか」
貴婦人さんが空気を読みます。
「そして私がこのチームのリーダーを務めさせていただきます、駒山駒子と申します」
立ち上がってお辞儀をする駒子さんに全員が拍手をしました。自己紹介なんてしなくてもみんな知ってますよね。
「僕が駒子さんのマネージャーで、コクーンといいます」
そう言って立ち上がった僕の頭を駒子さんがぺしっと叩きました。
「てめーは『谷』でいーんだよ。私が呼びにくいだろうが!」
もみじちゃんは廃工場には入ったけれど、その入口から異空間に飛んだ経験はありません。唯一の経験者である高木さんが詳しく語ってくれました。
詳しくとはいっても、その扉の前に立ったらいきなりどこかの真新しい病院の廊下のような場所に飛ばされて、誰もいないそこを歩いているうちにいつの間にか外に出ていたという、短いお話でした。
高木さんが話し終えると、それを待っていたように、黄泉野さんが言います。
「おりょりょ……? ありゃありゃ……? あなた、憑いてますよ?」
「えっ?」
そう言われてひどく驚く高木さん。大袈裟なくらいにビビってる。
「ははぁ〜……。その異空間に行った時に、取り憑かれちゃったんですねぇ? 大丈夫、私が除霊して差し上げましょう」