食事
あの日、あの廃工場で、カナちゃんを置いて来てしまった。
あたしの大事な大事な親友なのに。
どうしてあたしは逃げ出してしまったのだろう。
カナちゃんの手が、ヌルヌルしてたから?
カナちゃんの顔が、化け物みたいに変わったから?
あれがカナちゃんのほんとうの姿だって、なぜ思い出してあげられなかったの?
あたしはなくしていた記憶をあれで取り戻した。
あたしがなぜ、どんな扉でも開けられる力を持っているのか、思い出した。
それなのに、カナちゃんをあそこに置いて来てしまった。
あたしのかわいいカナちゃん──
芋虫みたいなカナちゃん──
人間に卵を産みつけて、あたしの子どもにしてくれる。
聞こえてくる──
あの廃工場の側を通るたびに、カナちゃんの悲しげな声が。
あたしに置き去りにされて、異空間に閉じこもってしまったあの子の、切なげな声が。
お腹を空かせてるだろうな。
あの子にごはんを送ってあげないと。
地球人はなんでも食い尽くして、消化して、排泄物に変えてしまうから──
あたしもそんな食事のしかたに慣れきってしまっていた。
食べ物ってのはね──
少し齧るだけのものなのよ?
命をとればそれだけで栄養になる。
あたしたちはうんこなんかしない。
そんな汚いものなんてする代わりに、卵を産みつける。
新しい子どもを増やしていくの。
なんてすばらしいあたしたち。
なんて汚らしい地球人ども。
プレゼントをしてあげようとあたしは決めた。
この星の汚らしい知的生命体どもをすべてあたしの子どもにしてあげる。
まんまと掲示板の書き込みに釣られてやって来た、頭の弱い子たち──
さぁ、カナちゃん──
そいつら、食べていいよ?




