カナちゃん
もみじちゃんの顔を見るとドキドキして、顔が真っ赤になってしまって、僕の直感が働かなかったんだ。それで彼女の企みに気づかず、みんなを危険から守ることができなかった。
「僕のせいです……」
駒子さんに立たせてもらいながら、謝るしかありませんでした。
「僕がしっかりしていれば……」
「三人であの子を取り押さえるわよ」
駒子さんが小声で言います。
「できる? 谷くん」
もみじちゃんのほうを見ました。
かわいく笑っていました。
激しい悪寒が背中を走りました。
「無理ですっ……! あんなものに……。に、逃げたほうがいい、駒子さん!」
「何言ってるの……! 相手は手ぶらどころか全裸の女の子よ? こっちは三人いる! 縛りあげて色々と吐かす!」
黄泉野さんが急に挙動不審になりました。
神様にでも出会ったように、尊いものを見るようにもみじちゃんを見つめ、ソワソワとしはじめると、その場に膝をついてしまいました。
「何してるのっ? 黄泉野くん! 立って!」
「駒子さん……。無理ですよ。あれに勝てというのは……被食者にライオンに勝てというようなものだ」
さすが黄泉野さんです。諦めが早い……。
僕にも黄泉野さんの言うことがよくわかりました。異能をもたない駒子さんみたいにポジティブにはなれない。なれるわけがない。
この子は一方的に僕らを食う側のものだ──
「カナちゃん、おいでぇ」
もみじちゃんが女神のように微笑みました。
「ごはんがあるよ」
もみじちゃんの背後の森から、黒いコウモリのようなものが、無数にざわざわという不気味な葉擦れのような音を立てて、飛び上がりました。
それはひとつにまとまると、巨大な芋虫のような姿になり、丸い口を開けました。
口の中に並んだ注射針のような歯を見つめながら、僕は直感しました。
僕らは元の世界に戻れるだろう。




