もみじ
ガラケーみたいに真っ二つに折れた格好のまま、黒乳首さんは歩いて前進して来ました。
両手で自分の頭部をがしっと持つと、それを上げさせ、焦点のずれた目をおおきく開いて僕らを見ます。開いた口で噛みつきにやって来ました。
「駒子さん、危ないっ!」
駒子さんの松明は消えてしまいました。
僕の松明にはまだ最後の火が残っている。それを黒乳首さんの顔面めがけ、僕は突き出しました。
「えいっ!」
顔面にそれが命中すると、黒乳首さんが「ウゴ!」という声をあげて後ろへ倒れました。その上に乗りかかり、顔面に押し当てている間に火は消えてしまいましたが、黒乳首さんも動かなくなってくれました。
「悪いな、黒乳首……。キミはもう死んでいたんだ」
死に顔を見下ろしながら、駒子さんが両手を合わせます。
「せめて合掌してやる」
かぐつちさんも一緒に合掌してくれました。
ガラケーを開くように上半身を起こさせ、黒い防寒着を捲ってみると、腹部におおきな穴が空いていて、内臓が掻き出されたようになくなっていました。
「かわいそうに……」
黄泉野さんも目を閉じ、右手を立てて、その冥福を祈りました。
「安らかに眠ってください。天国へ行ったらキムタクの出てくるゲームでもしていてくださいよ」
火の消えた松明を捨て、僕らは歩き続けました。歩いていなければ凍えてしまいそうな寒さでした。太陽は空にあり、とてもよく晴れているのに、ここは南極大陸なのかと思うほどです。
こんなところにもし、裸でいる人間がいたとしたら、それは間違いなくゾンビです。
ゾンビでしかありえません。
会話をする気力も体力も失いながら、僕らが歩いて行くと、遠い目の前に誰かが立っているのが見えてきました。
全裸でした。
愛しいひとの全裸を見ても、僕は目をそらすことも、感動してそれを見つめることも、できませんでした。
「……あら」
僕らに気づくと、その女の子は言いました。
「あの子らに食われずにこんなところまで逃げてこられたのね」
クスクスと笑います。
「あの子たち、創造主のあたしにも見境なく噛みついてくるから、逃げるしかなかったのよ」
それは間違いなく、あのもみじちゃんの姿でした。一糸まとわぬ全裸なのに、まったく寒そうではなく、その身体にはゾンビに食われた痕も、どこにもありませんでした。
この作品はフィクションであり、実在の人物とはけっして関係ありません




