判明
確かに今、僕の直感能力は混乱しているといえました。
メルちゃんの強さを、僕は間近で見ています。
あの鉄拳がもし自分に向かってきたらと考えると──
ドキドキしてしまいます。
その胸の鼓動が直感を乱し、メルちゃんをゾンビだと思わせている。落ち着かなければ、とようやく僕は正気に戻りました。
「じょ……、冗談よ、冗談! ホーッホホホ!」
黒乳首さんも、メルちゃんを殺そうとしかけたことを冗談にしてごまかそうとしています。あ、ようやくネット人格通りのお嬢様高笑いが出ました。
「ご……、ごめんなさい……」
もみじちゃんは駒子さんに後ろから羽交い締めにされ、泣きながらぺこぺこ謝ってます。
「怖くなったら……つい……」
まぁ、わかるよ、もみじちゃん──
疑心は暗鬼を産む。僕だって危うく殺人を犯しかけた。
冷静になってみると、メルちゃんが既にゾンビだというさっきの直感が不確かなものだったとわかる。
優しい彼女があんなことをしたのは意外でしたが、僕は人間そんなものだよと思い、心の中で許しました。
「コイツの直感て、どれぐらい当たるんスか?」
黒乳首さんが駒子さんに僕のことを聞きます。
「冷静な時なら……」
駒子さんが正直に言いました。
「今のところだけど──100%よ」
「ヤバいじゃないスか!」
黒乳首さんが動転して、またメルちゃんのほうへ視線を向けました。
「じゃ、やっぱあの女、殺しとかないと……!」
「でも、冷静でない時はその直感能力──凄まじく性能が落ちるのよ、ふつうの人と変わりないほどに。だから、メルのことを恐れて動転してたさっきの谷くんの直感は当てにならないわ」
「それに──」
横から黄泉野さんが言いました。
「ゾンビに噛まれたからといってゾンビになるとは限らないんでしょう? なんで私たちメンバーの中にゾンビがいるとか思っちゃうんですか? そんなことされたら私、不安で不安で不安すぎになっちゃいますよぉ〜……!」
いや……。それに関しては、間違いない。たぶんだけど……
冷静な時の僕の直感が告げていたのです。もう、既に、僕らメンバーの中にゾンビがいると。
でも、考えたら、その候補は黄泉野さんしかいないんですよね……。噛まれた人って、黄泉野さんしかいないから。どう考えても──
ハッとしました。
「高木さん、どうしてそんなストーブから離れたところに立ってるの?」
寒いのに、ストーブを避けるように壁際に突っ立っている高木さんに、駒子さんが声をかけました。
高木さんは何も言わずに、ただ簡易ベッドに眠るメルちゃんのことを遠くから凝視しています。
フラフラと……歩き出しました。
高木さんが動くと、ストーブの熱風に乗って、何かが臭いました。まるで冷凍モツみたいな、そんな臭いが──
……そうだ。
この人は以前にも、ここに来たことがあると言っていた。
その時にもし、ゾンビに噛まれていたら──?
僕たちをここへ招いたのは、この人のようなものだ。
僕の直感が知らせました。
ゾンビは──高木さんだ!
メルちゃんの傍へ辿り着いた高木さんが、その口をおおきく開けました。
白い綺麗な歯が、ギラリと光りました。
金槌は──もみじちゃんが持っている。
「高木さんを止めて!」
僕は叫びました。




