疑心暗鬼
「た……、確かにそうだ」
黒乳首が慌てる。
「この強い人がゾンビ化したら……手に負えないぞ」
「それどころかもう既にゾンビかもしれないですよ」
谷くんがなんか言い出した。
「な……、何を根拠に?」
「直感です。僕の直感はよく当たるんです」
黒乳首と谷くんが揃って同じところに視線をやった。簡易ベッドの上のメルちゃんはすやすやと気持ちよさそうな顔をして眠っている。
「い……、今なら殺せるよな?」
「金槌あります」
二人がそんなことを言い出したところで、私は後ろから叱りつけた。
「何を言い出してんだ、あんたたち! その子は私たちをゾンビから守ってくれたでしょうが!」
「そ……、それは……まだゾンビ化してないからだ。意識はまだ僕らの仲間のままなんだ」
「ゾンビ化されたらヤバい! その前に金槌で……パカッと──」
「谷くん……」
私は冷静を装いながら、彼に言い聞かせた。
「あんたの直感能力は平常心じゃないと働かないんでしょう? 今、高木さんから『諸刃の剣』とか聞いてビビったんじゃない? そんな状態のあんたの直感は信じられないわよ。
それに私はこのチームのリーダーよ。全員を元の世界に送り届けるのが使命なの。一人として欠かさないわ」
「でも……」
「ゾンビ化したら?」
「その場合だけは仕方がないわね。……ゾンビってことはもう死んでるんでしょう? お経を唱えてあげるぐらいしかできない」
「いや、でも……」
「もう既にゾンビだったら?」
「確証があるの!?」
厳しく言ってやった。
「確証がないのにそんなことするのは許さないわ! ……はっ!?」
ふと見ると、もみじが谷くんから金槌を奪って、メルのほうへフラフラと歩いている。
「何するつもりっ!? もみじ!」
「へへへへ……」
もみじが手に持った金槌を振り上げた。
「ゾンビ、殺しとかなきゃ……」
なんとか間に合った。私は後ろからもみじに飛びつき、金槌を取り上げた。
危なかった。まさか大人しくて優しいもみじがそんな行動に出るとは思わなかった。あれだけメルに優しくしてもらってたのに──
メルは身の危険にも気がつかずにすやすやと、天使のような顔をして眠っている。
「みんな! しっかりして!」
リーダーとしての使命感が、私に正気を保たせた。
「みんなで生きてここを出るの! 一人も脱落者は許さないわ! この駒山駒子がね!」




