貴婦人の孫の手の見たもの
みんながその扉に触れた途端、画面が歪んだ。
「……ん?」
明らかにおかしい。暗い夜なのに、画面が明るくなった。明るいのにノイズだらけで何も見えない。
「駒子さん! 駒子さん! 聞こえますか? そちらどうなってます?」
呼びかけると、駒子さんの声が返ってきた。
「みひらる、そもふり、てみひら、むひひひひひひ……」
画面にはノイズしか映っていない。
まぁ……、想定はしていた。みんな異空間へ飛んだのだろう。無事に──かどうかはわからないが。私はなんとか連絡が取れるようになるまで待つしかない。
持参していた水筒からホットコーヒーを紙コップに入れ、啜る。気温はマイナス2℃。小型の石油ストーブを足元に置いているので寒さに耐えていられる。
急造のチームなので、責任感は薄い。
怖くなったとか面倒くさくなったとか、特別な理由はなくても私はここを離れることは出来る。車には入れなくとも、タクシーでも呼んで逃げることは可能だ。
しかし私はやり遂げるつもりだ。七人の人間の命がかかっている。何か危険があれば警察に通報する心づもりは出来ている。
警察を呼んでどうなるのかはわからないが──
「駒子さん! 駒子さん!」
呼びかけるが、応答はない。
私に出来ることは、ただ連絡が繋がるようになるのを待つことだけだ。そう思っていると──
テントの中に寒風が吹き込んできた。




