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掲示板の書き込み

 それはある匿名掲示板の書き込みから始まった。



 高木というハンドルネームの人物が、異空間に迷い込んだ体験を、ほんの短い文章で書き込んだのだ。

 それを見たそこの掲示板の住人たちから多くのレスポンスがあった。


《俺も同じ体験をした!》

《すぐに帰って来られたけど、あれ、なんだったんだろう?》


 誰もの話が一致していた。


 某県にある廃工場は心霊スポットとして知られている。

 最近、その近くの道を通ると、工場の中から悲鳴が聞こえてくるというのだ。

 男のものとも女のもともつかぬその絶叫に、大抵の者は身の危険を感じて足早に通り過ぎる。しかし中には物好きがいて、悲鳴をスマートフォンの動画に収めようとする。

 しかしその悲鳴の収められた動画は一件もインターネット上に存在していない。その声を録音した者は皆、死んでいるのではないかと噂されるが、そのあたりで行方不明者が続出しているという事実もない。


 廃工場の中に入ってみようとする勇者──っていうか不届き者もいたようだ。

 しかし廃工場は立入禁止となっており、鍵もかけられていて、入ることは出来ない。

 しかし何人かがそこから飛ばされたという話が、その掲示板で交わされていた。


《廃工場の前に立ったらさ、飛ばされたんだ》

《どこか真新しい病院のような建物の中に》

《あれは異空間だよな》

《俺、あそこで知り合いに電話しようとしたけど──》

《俺も俺も! でも相手の言葉が意味不明だった》

《そうそう! あれは異空間だよ、きさらぎ駅みたいな──》



「これは興味をそそられるな」

 私はPCモニターに掲示板の書き込みを眺めながら、谷くんに言った。

「どうだ? 今回はこの異空間とやらへ潜入してみないか?」


「危険ですよぅ……、社長」

 谷くんが及び腰だ。

「動画の撮影で死んだりしたら収益も何もありませんよぅ」


 私は谷くんの腹にパンチを入れた。


「我々は動画配信を糧とするプロだぞ? そして私は突入系ネットアイドル『駒山駒子こまやまこまこ』だ! 私らがやらねば誰がやる?」


 谷くんはお腹を押さえて咳き込みながら、仕方なさそうにうなずいた。いつもながら彼のお腹はぶよぶよだ。拳が腐りそうになる。


「しかし……、異空間に行ってもすぐに追い出されるんじゃ面白みがないな。どうにかそこに留まって取材することはできないものか……」


 私が独り言を呟いていると、掲示板が何やら騒がしくなっている。

 ログを辿ると、興味深いやり取りが交わされていた。


《それにしてもなんであれ、すぐに外に出されちゃうんだろう?》

《招き入れるくせに、すぐに放り出されちゃうもんな》

《目的の誰かを待ってるんじゃね?》

《目的って?》

《誰か特定の人物が来るのを待ってるんだよ。そいつ以外の人間はすぐに放り出されるんだ》

《なるほど》


 そのタイミングで、その書き込みがされたのだった。


《それ、たぶん、あたしです》


《ん?》

《どういうこと?》

《心当たりあんの?》


《あたし……あの廃工場に入ったことがあるんです》


《えー!?》

《どうやって?》


《ピッキングの技能があるんです。それで……友達と二人で入ったんですけど……中で怖いことがあって》


《おお!》

《どんな?》


《それはちょっと言えないんですけど……。きっとあたしを呼んでるんだと思います……そうとしか思えない》


 ここですかさず私は書き込みをした。


《その話、聞きたいな! 私、動画配信を糧としてるネットアイドルの駒山駒子といいます! 知ってるかな?》


 外野が私の書き込みを見て騒ぎだした。


《ええー!? 駒子さん!?》

《あの27歳加工系美女の!?》

《本物!?》


 フン、さすがは私の知名度よ。人気者は面倒が多い。ただし『加工系』というのはガセだがな。

 外野の声は無視して、私はターゲットの彼女 (?)にレスアンカーをつけ、お願いをした。


《よかったら私のSNSチャンネルにメッセージを送ってよ。待ってるから。じゃっ!》




 メッセージはすぐに来た。


 めちゃめちゃたくさんのメッセージが、私の元へ届いた。……チッ、私のファンどもめ。面倒をかけさせやがって。本物の彼女はどれだよ? ここは谷くんの出番だな。


「これだ。これが本物のターゲットからのメッセージです」


 無数に届いたメッセージの中から、すぐに谷くんがひとつを選び、指さした。


《掲示板に書き込みをしていた者です。お話……聞いていただけるんですか?》


 確かに、他のメッセージはいちいちくだらん自己紹介だのネカマ臭い言い回しだのをしている中で、それが一番本物っぽかった。

 何より私は谷くんの直感能力には信頼を置いている。他には特に役に立たん小デブの23歳マネージャーだが、その直感力だけには信頼を置いていた。


 彼女のアカウントは『peco peco momiji』──


 やり取りを交わし、土曜日にカフェで会う約束を取りつけた。








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― 新着の感想 ―
彼のお腹はぶよぶよだ > 4つ並べたら消えるかもな。「ふぁいあ~」
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