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喫茶店の朝

新作です!(24/12/19)














  ――プロローグ ~ツムギの朝と喫茶店~ ――













 

「ツムギ……どうか、あなたは人間のままでいるの」


「お母さんは、どうなるの?」



 いつもの夢。私はまだ幼くて、クマのぬいぐるみを片手に持ち、父にもう片方の手を握られている。目の前にいるのは母であり、悲痛な面持ちでこちらを見ている。目にはうっすら涙が映る。


 幼い姿の私は、そんな母を見て思う。どうしてそんな顔をしているの?どうして、私のそばに居てくれないの?どうして?


 心には悲しみだけが広がって、今にも泣き出しそうになってしまう。そんな私を見て母は、自身も辛いだろうに微笑み、私に言葉をかける。



「大丈夫よ。またっ、会えるからっ……」


「っ!!お母さんっ!」



 クマのぬいぐるみを手放し、めいっぱい手を伸ばす。しかし、母はどんどん遠のいていく……。側にいるはずの父も、ただ静かに涙を流すばかりだ。


……待って、まだ。


 まだっ――




 ジリリリリッ!!!


 


 ……いつも見る夢の途中で、目覚まし時計が鳴る。その音で目覚めてしまう私は、夢の続きを見られなくなってしまう。掛け布団をめくってベッドから立ち上がり、ローテーブルの上で鳴り続ける目覚まし時計のハンマーを止める。大きく伸びをして、遮光カーテンをパッと開く。視界がボヤけているようで、そこで初めて私は、自身が涙を流していることに気づく。


 射し込む日光に目を細めつつ、窓辺にひっそりと佇んでいる桜を見る。綺麗なピンク色に染まった枝木に春の陽気を感じる。うっすら聴こえてくる小鳥のさえずりも印象的だ。厳しい冬を乗り越えた彼らの生命の輝きは、いつも私に力をくれる。涙はすでに、止んでいた。



「……よし」



 部屋着からいつものデニムパンツとクリーム色の長袖ワイシャツに着替える。それからいつも通りの身支度をして、()()()()()()のネックレスを付けて、荷物を持ち、アパートを出る。



「いってきます」



 玄関扉をキッチリ閉め、勤務先へと向かう。勤務先……といっても、私自身が経営している喫茶店なのだが。


 アパートから徒歩5分の距離にある喫茶店にこうして毎日歩いているが、今日は特に天気が良い。私の住んでいる色田市も春日和だ。冬明けの淡い空模様と桜色に包まれていて、心地良い。


時刻は午前7時。喫茶店は色田駅に向かう途中にある。そのせいか、朝の道は車や人で賑わう。それを繕って進み、喫茶店の鍵を開けて店内に入る。


 店内は薄暗く、まだ目覚めていない。証明スイッチを入れて、閉じていたジャバラカーテンをザッと上げる。射し込む日光と照明によって、ようやく私の喫茶店が目を覚ました。


カウンターテーブルの脇からキッチンへ行き、店の奥にあるロッカーを開けてエプロンを取り出す。黒いエプロンの端にはこの喫茶店の名前がラテン語で刺繍されており、これを見ると毎朝やる気が出てくる。


 エプロンをつけ髪を結ぶ。ふわりと揺れるポニーテールをロッカールームの鏡で確認し、開店準備をする。と言っても、そこまで多くのことはしない。清掃は閉店前におこなっているし、お客さんに提供するための食材や食器の準備も特にすることはない。


唯一やることといえば、店の前に出している看板表示を『closed』から『open』にすることぐらいで、朝は基本的にこれぐらいしかすることは無い。一度喫茶店を出て、外の看板表示を変える。ふと見上げれば、喫茶店の名前。


『喫茶店 アウローラ』


 命名した本人でありながら、少し笑ってしまう。誰のための夜明けなのか。私自身?それも間違っちゃいない。しかし、ひとつだけ言えることがあるとするならば――



 

この喫茶店は、()()()()()()()である――。



 

 東雲色に映るインカローズのネックレスを触る。私のためのものであり、誰かのためのもの。果たして今日は、どんな人が来てくれるだろう?そしてどんな話を聞かせてくれるだろう?まだ見ぬ誰かに、ついワクワクしてしまう。


 店の扉を開けて中に入り、カウンターテーブルに備え付けている椅子に座る。今日も、いつもと変わらず戻ってこない1日が、始まる――。

拝読いただきありがとうございます!そんなあなたにひとつだけ、お願いがあります!


これから続いていく連載の中で……初出の11話までは読んでいただきたいのです!よろしく、お願いします……!

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