幼稚で愛らしい行為
「僕はお前が“大嫌い”だ」
僕の言葉に傷つくわけでも、驚くわけでもなく、ただ一つの事実を静かに受け止めて、穏やかに笑うキミが恐ろしかった。
酷い言葉を投げかけた自覚はそれなりにあり、言葉を吐き出す前も、吐き出した後も、後悔という感情が僕の心を切りつけた。切り口からはジワジワと何かが広がり、ジクジクと膿みながら痛みを主張する。僕がこうして後悔をした分だけ、目の前にいるキミが傷つけばいいと考えていたのに、その様子は全くと言っていいほどなかった。
睨みつける僕を気にしていないのか、一歩また一歩と足を前に動かすキミに合わせて、僕も一歩また一歩と足を後ろに動かした。
「逃げないでよ――――――意味なんてないんだから」
キミの言う通り、いつか僕の背中は壁にぶつかるのから意味なんてない。
僕がキミに酷い言葉を吐き出しても――――――意味なんてないんだ!
「どうしてお前が泣くんだよ」
まるで愚図る子供に、辟易としたような声だった。けれども、表情は変わらず穏やかで、僕はそれを視界に入れたくなくて下を向く。
自分の足しかなかった世界で、キミの足が現れた。ああ、もうそんなに近くにいるのだなと他人事のように考える。
キミは僕に手を伸ばし、緩やかに背中に手を回した。温かな温度に、キミが生きている、息をしていることが嫌でもわかった。肩口に押し付けられた頭。頬にあたる髪の毛がすこしくすぐったい。
「――――――俺のことが大嫌いな、お前が大好きだよ」
その言葉にとうとう僕は観念して、同じようにキミの背中に手を回す。キミの顔なんて見えないけれど、僕にはわからない表情をしているんだろう。
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