〜現実〜
リハビリを頑張った甲斐もあり、遂に心音は声以外全て元通りとなり、退院の時を迎えた。
「心音。ようやく退院だね。おめでとう」
藤田はこの日も病院を訪れていた。そして心音の退院を祝福していた。
「藤田さん、今までありがとうございます。全て藤田さんのおかげです」
心音は藤田に頭を下げた。
「それじゃー行こうか」
藤田は心音の手を優しく握り、そして一緒に病院を出た。
そして表に回してあった車に心音を乗せた。
車はそのまま走り出した。
「さて心音。家も無くなったし、当面の間どうしようか?」
「……とりあえず……一人になりたい……」
「わかった……じゃーホテル何日間か取っておくね……」
「……ありがとう……」
藤田はホテルの予約を始めた。
車は信号が赤の為、止まっていた。
するとどこからともなく歌が聞こえてきた。
それはその信号機の近くにあったオーロラビジョンから流れていたニュースからだった。
そのニュースにはこう書いてあった。
【奇跡の歌姫 火事で声を失い歌手としては再起不能か!?】
そしてその歌を心音はよく知っていた。
その歌こそ心音のデビューシングルであり、昨年歴史的記録を作った⦅この世界で生きる意味⦆だったからだ。
そして同時に街中の声も、心音の耳に飛び込んで来ていた。
『俺好きだったんだけどなー……もう聞けないのかなぁ……』
『この若さでねえ……残酷ねえ……』
『私、ライブ心待ちにしてたんだけどなぁ……』
『私、よくこの歌カラオケで歌ってるんだけど……』
そんな街中の声に思わず心音は耳を塞いだ。
心音を心配しながらもどう声を掛けていいか言葉が見つからなかった藤田は、そっと心音を抱き締めた。
「世間の声なんかその内消えるから……君にはこれからの人生を生きて欲しい……」
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