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リボルバーハート  作者: がっかり亭
第一章:装填
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1-4

 青鮫市はその名の通り漁師町だ。

 と言っても、それは昔の話。

 漁自体は続いているが、むしろ観光地として知られるところだ。

 首都圏からは近く、ビーチにゴルフ場にと、バブル期は人気の場所だったらしいが、今では客足はまばらだ。

 人口こそ、そこそこ多いものの、商店街も元気を失い、シャッター街へと変貌している。

 街としてもこれではまずいと、アニメとのコラボなど企画をさまざま打ち出しているが、今一つ効果は見えない。

 最新の企画は「アートフェスティバル」だそうで、その準備として街中にペイントが始まり、妙にメルヘンチックになっている。

 空き店舗をバンクシーよろしくペイントしていくわけだが、果たしてどれほど効果があるかは未知数だ。

 たまにTVの取材なんかも見かけるからゼロではないんだろう。

 しかし、港町の潮風に、そのアートがいつまで耐えられるんだろうか……

 いや、どうでもいいか。

 潮風が沁みているというなら、建物よりも自分の方だ。

 結局、あの後は店長からもこっぴどく怒られるし、年下のバイト仲間たちからも冷めた目で見られ、定時になったら逃げるように飛び出してきた。

 何でこんなに上手くいかないんだろう。

 夕方の大通りにはカップルたちが溢れている。

 学生の二人連れも多い。

 初々しく、幸せそうに笑う姿が、別に見ようとしなくても目に入ってくる。

 なぜだか無性に寂しくなった。

 高校中退以来、ずっと独りで生きてきて、このごろはこういう寂寥感に襲われることが増えた。

 昔は、大人になれば孤独に強くなるんだろうと思っていたが逆だった。

 今の方がはるかにつらい。

 失敗だらけで無意味に使い切ってしまった青春が、名残惜しいんだろうか。

 そうだと思う気もするし、違う気もする。

 胸がチリチリする。

 何かが燻り続けているような、不快感。

 一度だってまともに火が付いたことのない人生だったのに、燃えかすになっている。

 そのくせ、少しだけ燻り続けていつまでも消えてくれない。

「……ん?」

 ふと、視界の端でチカチカ光る赤い光が見えた。

 どうもパトカーが停まっていて、何か現場検証をしているようだった。

 帰路と同じ方向なので、通りすがりに覗いてみたが、どうも自動販売機が壊れているみたいだ。

 自販機荒らしだろうか。

 昔、自販機のジュースを補充するバイトをしたこともあって、胸の中に不快感が沸き起こる。

 熊にパンチでもされたかのように、真ん中あたりから穴が開いている。

 どんな器具を使えばそんなことが出来るんだろうか。

 いや、トラックから鉄骨が抜け落ちて刺さったとかそういうことかもしれない。

 うん、きっとそうだろう。

 だったら納得できる。

 最近は、おかしな犯罪が多いらしいから、先入観で思い込んだだけだ。

 どのニュース見ても「不可解犯罪」って言ってるもんな。

 白昼堂々、美術館から重要美術品が盗まれ、代わりに子どもの描いたような落書きが置かれていただとか、大物政治家が国会中継の途中でいなくなっただとか……

 酷いものになると、事務所の金庫が丸ごと塩の塊にすり替えられてた、なんてものまである。

 確かに、不可能犯罪というよりは不可解犯罪かもしれない。

 もし、その不可解犯罪だとすれば、東京だけじゃなく、こんな地方都市でも起きるってことになるが……まぁそれはないだろう。

 リスクとリターンを考えれば、大都市でやるのが自然だからだ。

 わざわざこんな地方都市まで足を延ばすとすれば、相当にやばい犯罪者に違いない。

 予想がつかないという意味で。

 どっちにしても、俺には関係ないことだ。

 まっすぐ家に帰ろうかとも思ったが、飲み屋に寄ってもいいかもしれない。

 ワインは血栓を溶かすというので、酒は飲む。

 普段は酔っぱらうほど飲みはしないが、今日くらいはそうなってもいい。

 そう考えて、繁華街の方へ入って行くと――

 「そいつ」はいた。

 夜が近づいて光り出したネオンと、まるでそぐわない、真っ赤なランドセル。

 黒いショートカットに、私立の小学校でありそうな青い制服とコントラストになっていて、あまりにちぐはぐな光景に一瞬、目を奪われた。

 だが、じろじろ見て通報でもされたらたまらない。

 本来であれば、小学生がこんなとこうろついてはダメだと伝えるべきだと思うが、挙動不審になって防犯ブザーでも鳴らされるのがオチだ。

 こういうときはプロに任せよう。

 近くに交番が……いや、すぐそこで警官が現場検証してるじゃないか。

 だとすれば、そんなところで犯罪をするやつもいないだろうし、大丈夫か?

 でもなぁ……見過ごすというのもなぁ……。

 などと考え込んでいると――

「ねぇ、アンタ」

 ふと俺の方に声が飛んできた。

 ひどく舌足らずな声だった。

 最初、自分が呼ばれていると、気づかなかった。

「アンタってば」

 いくら鈍くても二度も呼ばれれば誰でもわかる。

 この目の前の幼女が、俺を呼んでいる。

「な、何か?」

 思わず声が上ずった。恥ずかしい。

「セルについてきて」

「セル?」

藍堂らんどうセル。わたしのこと。いいから来て」

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