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「まだ自分でも、上手く言葉には出来ないんですけど、もう命を粗末にするようなことはしません。笑えないと言われましたしね」
「うん、それは大事なことだよ」
バケツが腕を組んで何度も頷く姿はどこかシュールだが、その声は真摯だった。
ふと、セルを見るとニヤニヤしている。
「なに? あんた急に敬語になってない?」
「あ、ああ、そうかもな……長官にため口だったほうがおかしかったんだ。……本当に自覚がなかったんだろうな。自分がやっていることに……」
これまでは、自分の使い道にしか意識が向いていなかったんだ。
全然、周りが、いや自分が見えていなかった。
「先輩であるわたしに対してもそうするべきだと思うけど?」
「それはない」
「ひどない!?」
ひどくはない。
セルはほっといて、バケツ長官に向きなおる。
「やっぱり、みんなを守るために力を使うのはやめないつもりです。だから、ASSを続けたいと思っています」
「うん。君が参加してくれるのは嬉しいよ」
「……でもこれも、力の使い道にまだ溺れているのかもしれません。自分の力を使う快感に、他人を使って言い訳しているだけかも……」
「力に溺れることはもちろん問題だけど、誰かのために力を使うことに、罪悪感にとらわれる必要ないよ。警察官や消防士や、軍人や医者や……誰の不幸に対して動くのが仕事の人たちはたくさんいる。だけど、みんな誰かの不幸を願っているわけじゃない。その不幸をどうにかしたいと思うことは、間違いじゃない」
「そう……なんですかね」
理屈はわかる。
だけど、一度熱されて舞い上がって、それが過ぎて、冷静になった今は、過去の自分の愚かさが殊更に感じられる。
この誰かのために力を使いたいという気持ちが
「ではもし、君に誰かを救う力がなかったとして、それでも君は見て見ぬふりをするかな?」
「え?」
見てみぬ振りをするかどうか……?
どうだろう。するだろうか。
助けたいとは思うんじゃないだろうか。
でも、助けられる力はないんだよな……?
「おそらく君は、見捨てはしないと思うよ。だとすればそれは能力とは関係ない君の根っこの部分だ」
「あ……」
力が無くても、見捨てないなら。
そんな俺に力が与えられただけだ。
その根っこを、忘れられないでいられたのなら。
「うん、やっぱり、いい顔だ」
「でしょう? 自分でもそう思います」
今度は素直に受け取ることができた。
だから、自然に笑みがこぼれていた。
「なんでやねん!!」
ただ、軽い冗談にセルが全力でツッコんできたのは、素人目にも笑いを間違っていると思う。ボケとツッコミの大きさが釣り合ってないというか……。
心配なのはむしろセルの方じゃないだろうか。
そんなことを考えられるくらいに、心が晴れている。
これまでは目も心も曇っていたのだと思う。
セルはお笑い芸人としてはまだまだなのかもしれないが、少なくとも、俺を救ってくれているよ。
本人はそれじゃあ満足はしないだろうが。
「なに? 人をジロジロ見て。バケツよりインパクトのある顔に見える?」
……うん。
上手い事言おうとして、やっぱり言えていない。
「なっ、何よその生ぬるい笑み!!」
いいじゃないか、笑いは笑いだろ。
流石にそれは言えなかった。
もう頬を張られる必要はなかったから――




