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「素晴らしいことじゃないか。胸を張れる夢だし、それを叶えてるじゃないか」
「肩書が芸人になっただけ。いつでも爆笑を取れるようにならなきゃ、夢を叶えたとは言えないよ。今の自分じゃ、誰も救えない。……そういう意味じゃ、代償行為なのかな。AS能力でなら人を救えるから」
「違う、違うよ……」
ほろりと、涙がこぼれていた。
「な、なに? アンタ何で泣いてんの?」
自分でもおかしいとは思う。
ビールにだって、一口つけただけだし、泣き上戸でもないのに。
「セルはすげえよ……」
「はぁ?」
「俺は、この力に振り回されてきた。この能力で上手く行けば行くほど、人生は滅茶苦茶になった。なんて不幸だって思ったよ」
簡単にスポーツで成果を出せてしまう才能。
そのせいで孤立した。
能力の使い道が全てだと思っていた。
「だけど、そうじゃないんだ。セルの怪力は、別にお笑いとは関係ない。能力にこだわる必要はないんだ。自分が何をしたいかが重要で……それなのに俺は、力の使い道が見つかったからってはしゃいで命を捨てるようなマネをして……ダメだな……全然言いたいことがまとまらない……」
「いいんじゃない? 素人のトークなんてそんなもんよ」
セルが茶化して言うが、そこに馬鹿にしているような含みはない。
「あんたの能力は、本当にすごいと思うよ。でもだからって、自分を投げ出すのは違う。あんたが死んだら、わたしは笑えないよ……」
「……そうだな」
俺は簡単に自分を投げ出そうとしたのに、そんな俺を、セルは投げ出さなかった。
ひっぱたかれた頬も痛むが、恨みは全くない。
むしろ、尊敬しかなかった。
「悪かった。お詫びといっちゃなんだが、今日はおごるよ」
「マジ! やった~! 今日のライブもお客さん少なかったから、お財布厳しいのよね。店員さーん! ビールジョッキで! あと黒板にある今日のオススメ、右から順に全部お願い!」
「おいおい……」
「ふふん、ツッコミは大きな声で言わなきゃ通らないのよ」
「俺はツッコミじゃ……まぁいいか」
結局、その日は居酒屋の食材を食べつくす勢いで、セルは食べに食べた。
あんなに小さい体のどこに入って行くのだろう。
そして、先日同様、ぐでんぐでんに酔いつぶれた。
胃腸は丈夫だが、肝臓は普通なんだろう。
仕方ないので今日も背負ってアパートに連れ帰る。
「ふひぃ~」
背中ごしに漏れて来る息は、酒と、それからにんにく臭い。
にんにくやにんにくの芽が大好きらしい。
起きているのか寝てるのかもわからない白河夜船ぶりで、むにゃむにゃ喋りかけて来る。
「あんらねぇ~、考えすぎるんじゃないらよ~……」
「はいはい」
「つらいときは、あらしのライブに来らさいよ……」
「ああ、そうだな」
「あらしはウケないかもしれらいけろ……ワニガメさんもいるし」
「お前じゃないのかよ!!」
「うひひっ、そうよそれよ、そのツッコミよ……」
満足したのか、そのままスヤスヤ寝始めた。
「おうぇっ」
訂正。
豪快に背中に吐きやがった。
ニンニクと酒にまみれた酷い匂いに包まれ、でろでろの背中のまま、帰路についた――




