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リボルバーハート  作者: がっかり亭
第七章:曇天
31/59

7-2

 強引に連れてこられたのは、小さな劇場だった。

 セルたちの所属する天晴芸能の持ち物件らしいが、新規に建てたわけではなく、元がライブハウスなのを改築したのだろう。

 椅子も3列しかなく、20人も入れば満員になるくらいのごく小さなハコだった。

 それだけのキャパなのに客はまばらで、タダ券を握らされた俺を除いて、6人といったところか。

 やがて、お笑いライブが始まった。

 トップバッターの若手漫才師がネタを披露したが、受けは今一つ。

 たった7人の客が、明らかに重い。

 次に例のコンビ、干し柿渋柿が登場、ショートコントを披露した。

 ベタな銀行強盗のネタだったが、ガリガリの男が強盗に来て返り討ちに遭うという、わかりやすいネタだった。

 まぁまぁ面白いとは思ったが、拍手もまばらで、ハマれていないのが、素人目にもわかる。

 ただ一人だけ拍手をしまくってり、手製のうちわを振る女性が居た。

 それは種田に対してだけで、相方の垣田には露骨に興味がないようだった。

 種田の熱狂的ファンらしく、うちわには彼の写真が貼ってあるが、明らかにスベったところまで拍手しており、ネタはどうでもいい様子だった。

 その次にまた見知らぬ若手芸人の筋肉漫談があったが、やはり客は重い。

 というか、あんまり面白くない……。

 セルが何を思ってここに連れて来たのか、理解に苦しむ。

 やがて、そのセルが登場した。

 当然というかなんというか、合法ロリ漫談だった。

「いやー、同級生の男子と歩いてると、必ず職質受けるんですよ。そこでね、ちゃんと説明するわけです。いや、ボケませんよ? 一度ボケて「知らない人です」って言ったら、ほんとに逮捕されたことがあって……あーっ、いや、引かないで引かないで! 盛りました話、盛りました! っていうかナナ……じゃないや、セル、男子と歩いたこともないし!」

 焦りすぎて、また本名を言ってしまっている。

 この漫談は、面白くないこともないのだが、いまいち爆発力に欠けていた。

 だが、汗をかいて必死に笑いを取ろうとしている姿は、胸をかきたてられずにはいられない。

 その必死さが、余計に客を引かせてしまっているのも事実で、ウケに繋がらない。

 芸が終わってはけ際、少し唇を噛み締めているようにも見えたのは気のせいだろうか。

 トリはワニガメの二人だった。

 ベテランらしい堅実な笑いで、こんな重い客でも笑わせていた。

 他の芸人に興味を見せなかった種田ファンの女性すら笑っている。

 二億匹さんは、ボケの二三匹さんの世界観ある珍行動に、会場の椅子を揺らすほどの大声を張り上げてのツッコミを放つ。

 そのテンポの良さが心地いい。

 奇妙なボケと大声のツッコミの繰り返しが、会場のボルテージを上げていく。

 そして、大オチでフリをすべて回収して、拍手笑いを引き起こしていた。

 何で……何でこんなに面白い人たちが売れていないのだろう。

 俺はお笑いに詳しくはない。

 TVに出ている芸人さんたちは、みんなワニガメ二億匹より面白いんだろうか。

 最後に出演者全員が登壇して二言三言とひとボケくらい入れて、ライブは終わった。

 例の種田ファンの人だけが出待ちをしているあたりで、俺もセルを待った。

 種田が出てきて、そのファンに付きまとわれる中、俺はセルと合流して、また引きずられるように飲み屋に連行された。

 行きつけの店なのだろう。

 見た目小学生のセルに対しても店員が驚く様子はない。流れるようにカウンターに座る。

 奥の方の客がビールをかけつけ一杯しているセルに目を丸くしていたが。

 一方の俺は、何を話したものかと思いあぐねていると、先に口を開いたのはセルだった。

「スベってたでしょ?」

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