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リボルバーハート  作者: がっかり亭
第一章:装填
3/59

1-3

 それは、小学生のころからずっと頑張ってきた人たちからすれば、到底受け入れられることではなかったからだ。

 まだ、普通にサッカーの才能があったというのなら、納得できただろう。

 しかし、俺の場合は純粋に特異体質によるものだ。

 言ってしまえば、女子の大会に男子が出るようなもの。

 俺の存在は、理不尽の塊だった。

 孤立してしまっても、一人でボールを奪い、ゴールを決められる俺を、コーチは優遇した。

 そのことでさらに孤立は深まり、耐え切れなくなって部活を辞めた。

 コーチはさんざんに引き留めてきたが、とても続ける気力はなかった。

 それからどう過ごしたかも覚えていない中学を卒業し、俺は高校に入った。

 なるべく俺を知らないところがいいと、遠くの高校を受けたが、すぐにばれてしまった。

 心臓が6つあるなんて体質の人間、ほかにいるわけがない。

 健康診断で教員に知れ渡り、俺のことを知っていたらしいサッカー部の顧問を経由して陸上部顧問の耳に入った。

 顧問の先生は熱心に俺を勧誘してきた。

 その熱意に折れ、陸上部に入ることになった。

「個人競技だけならどうだ?」

 という誘い文句は、魅力的でもあったからだ。

 実際、その時の俺は、まだこの心臓の活かし方を探していた。

 こんな体質ほかにはいない。

 きっと、正しい使い道があるんだと、そう信じていた。

 馬鹿なことに、だ。

 やがて、俺は陸上部で、華々しいデビューを飾った。

 ロクに練習もしないうちから、なんとマラソンの日本記録を出してしまったのだ。

 これは衝撃をもって全国どころか世界のニュースにもなった。

 そして、また俺は孤立した。

 部活の中だけでなく、競技界の全てから。

 個人競技とはいえ、同じ部の部員たちはいるし、対戦する相手もいる。

 俺は、そんな競技者たちの努力をムダにしたのだ。

 競技の趣旨に全くそぐわない存在だったのだ。

 努力もせず、最高の結果を出せてしまう人間は、存在するだけで迷惑なのだ。

 そんなのがいるとすれば誰ももう頑張らなくなる。

 俺がその競技にいることが、その競技を衰退させてしまう。

 もちろん、練習嫌いのスーパースターはいくらでもいる。

 才能だけでのし上がったスポーツ選手は星の数ほどいる。

 だが、心臓が6個あるわけじゃない。

 生まれつきエラ呼吸ができる人間が、潜水競技に出たらどうだろうか?

 素晴らしい才能だと認め、他のみんなは潜水競技を続けるだろうか?

 実際はそうならないだろう。

 おそらく競技としてはそこで終わる。

 俺は、そういう存在だった。

 結局、センセーショナルなデビューだっただけに、全世界を巻き込んだ論争になった。

 もし、自分がトレーニングをして五輪に出れば、金メダルは確実だろう。

 だからこそ問題だった。

 連日、国内外のマスコミからも意見を求められ、俺はもう耐え切れなくなっていた。

 部員からは疎まれ、その空気が伝わってクラスでも完全に孤立していた俺は、完全に人間不信に陥り、ほどなくして学校を中退した。

 父の姓を捨て、出花という母方の姓に変えた。

 おかげで「出鼻からアウト」のようなひどい名前になったが、そんなことよりも、もう自分を誰にも知られたくなかった。

 それからは、フリーターとして食いつないで来た。

 現代では、高校を中退した人間が就職するというのもなかなか難しい。

 俺のように人間不信でコミュニケーションに難があればなおさらだ。

 バイトも長く続かず、逃げるように各地を転々とし、縁もゆかりもない青鮫市あおざめしに落ち着いた。

 そうして、現在、28歳となった俺は、ハンバーガーのチェーン店でレジ打ちをしている。

 レジの前には長蛇の列。

 正面には激怒したおばちゃん。

 どうやら先ほど渡した商品にストローが入っていなかったらしく、怒り狂っている。

 ストロー一本くらいで何で……とは思うが、こちらに非があるのも確かだ。

 しどろもどろに対応しているうちに、列はどんどん伸びていく。

 俺のせいで、人が流れた隣のレジまで列が長くなってしまった。

 ああ、いつもは厨房だからレジ打ちはしないのに。

 ちょっとレジ担当の一人が抜けないといけない用事が出来て、一時変わっただけだったのに。

 やがて、レジ担当が戻ってくると、俺を押し出すようにレジに戻った。

 そのレジ担当の女子高生が放った一言が、耳に焼き付いて離れない。


「出花さん、何なら出来るんですか」


 10も下の年の子に、返す言葉もない。

 厨房に戻った俺は、ハンバーガーを焼くプレスの機械の前で自然につぶやいていた。


「俺に、使い道なんかあるのか……?」


 心臓が締め付けられた。

 人の、6倍。

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