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「だ……だからと言って、犯罪に使うのは駄目だろう!」
動揺が声に出て、自分でもこんなことが通じるなんて思えなかった。
「では逆に聞くが、力の無い人間は犯罪をしないのか?」
「それは詭弁だ」
いくら俺が動揺してたって、流石にそれは通らない。
力の無い人間だって罪を犯す。
だからって力のある人間が犯罪していいわけじゃない。
「だいたい、その筋肉があるなら、ボディービルで活躍すればいいだろ」
「なに?」
ハガネの表情が一気に険しくなる。
まるで破裂寸前の風船のように、張り詰める。
「よく知りもせず軽々しく口にするんじゃねえ! オレはな、もとはボディービルの選手だった。だが、オレの筋肉を恨んだ奴らが、ドリンクに薬物を混ぜたんだ!」
「なっ」
「おかげでドーピングしたと追放よ! オレが、ドーピングなどするかッ!! 鍛えに鍛えて出来たのがこの体だ!!」
巨体が地団太を踏むと、地面がきしみ、周囲の木々が一斉に揺れ出す。
「この世が公正でないならば、オレも好きにやらせてもらうだけだ!!」
「くそっ……!!」
身勝手な理屈とともに、体を硬化したハガネが突進してくる。
この勢い、止めれるのか。
リボルバーウェイブはあと4発……いや3発しか撃てない。
「リボルバーウェイブを使えるのは一日に5発までだ。最後の一発を使えば、すべての心臓の機能が一時的に停止してしまう。そうなれば、後はわかるね?」
ASSに入った初日に、バケツ長官がそう言っていた。
ムダ弾は打てない。
「おぉら!!」
もはや巨岩の落石のようなショルダータックルをぎりぎりでかわす。
だが相手は人間。すぐに体勢を立て直して突進し直してくる。
こんなもの、闘牛だ。
そして俺は闘牛士なんかじゃない。いつまでもかわし続けられるわけがない。
一人じゃまともに攻撃に転じることも――
いや待てよ。
セルはどこだ?
「セルっ! 加勢してくれ!」
「それどころじゃない!! 自分でなんとかしなさい!!」
恥も外聞もなく叫んだが、切迫した声が返ってきた。
次の瞬間、窓ガラスが割れ、黒い影と遅れてセルが飛び出してきた。
その窓ガラスの破片が空中でサラサラと粉になって消えていく。
着地したセルの前に、こうもり傘でふわりと舞い降りて来た黒い影。
ゴスロリのミニスカートのドレスに、ヴェネツィアのカーニバルのように目元を覆う仮面。
ぞっとするような冷たい目線のその美女は、どこか映画の吸血鬼のようですらあった。
「出たな……ソルティ!!」




