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いや、6つの心臓は、別に普段の生活には支障はない。
激しい運動をしたり興奮したりすると一度に鳴り出して体内でツーリング集団のアイドリング状態みたいになってしまうが、それも慣れだ。
一気に血流が増えて、血栓による脳梗塞などのリスクは人よりあるので、血液をサラサラにする納豆ばかり食べているが、これも好きだし別にいい。ベジタリアン気味の食生活ではあるが、肉だってたまには食べる。
それでも、俺の人生は地獄だった。
問題が顕在化したのは、中学になり、部活を始めた時だ。
それより前にも、幼い頃から通っていた古武術道場の師範に――
「かわいそうだが、お前は生まれてくる時代を間違えた。才能が有りすぎて、自分も周りも不幸になる」
と言われたことがあったが、その意味は理解できていなかった。
才能があるのが悪いことというのはどういうことだろう?
やっかみかな、でもこの道場、師範しかいないし何でだろう……なんて思っていた。
だが、師範の言う通りだと気づいたのは、部活を初めてほどなくしてからだった。
俺は、その時サッカー部に入っていた。
周りは小学生の頃から始めた子ばかりだったから、最初はボール一つ前に蹴れなくて、ひどく出遅れたものだ。
しかし、ドリブルが出来るようになると状況は一変した。
誰も俺についてこれないのだ。
俺の心臓は、人の6倍ある。
その並外れた血流に慣れた肺も、6倍とは言わないが、非常に効率のいい肺になっているそうだ。
つまり、俺の心肺機能は、常人のそれを遥かに超える。
ハツカネズミの心拍数は1分間に600から700回だという。
ゾウは約20回で、だからゾウとネズミでは流れる時間の速さが違う、なんていう話を聞いたことがある人も多いだろう。
それはあくまで比喩だと思うが、俺の場合はあながち比喩でもなかった。
激しい運動をしていても酸欠にまずならないので、トップスピードを常に維持できる。
また、心臓の負荷が6分の1なので、6回全力を出すことができる。
そう、意識的にどの心臓に全力を出させるか、俺は選択できるのだ。
流石に6つ全部を使い切ると、倒れる恐れがあるので5回までしか使わないが……。
いずれにせよ、5回もトップスピードを出すことができるので、ドリブルをしていても誰も追いつけないし、逆にチェイスをすれば必ず追いつける。
俺は、あっという間にエースになった。
だが、孤立した。