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護送車は、青鮫市郊外の山間を抜け、関東近郊にある収容施設へと向かっていた。
しかし、その途中のトンネルで、襲撃を受けた。
先導しているパトカーが急に消え――後にトンネル付近の谷底に落下しているのが発見され、乗っていた警官は重傷だった――護送車はトンネルから出ることなく、ハガネが消えた。
護送車は急ブレーキの後を残して壁に突っ込んでおり、乗り込んでいたスタッフは全員意識不明の重傷。
ハガネにはGPSが埋め込まれており、その反応はトンネル近くの廃墟で続いていた。
というのが伝えられた今回のミッションの梗概だ。
俺とセルはAASの一般隊員の運転する車両で近くまで運ばれた。
基地では数人の隊員しか見かけていないが、意外に多くの隊員がいるそうだ。
ただ、隊員に戦闘能力はなく、車で留守番になる。
また一般隊員だけでなく、自衛隊も呼ばれているらしく、遠巻きに車両が見えた。
否応なしに緊張感が高まる。
ブラッドスーツは予め装着しているが、防御力に期待は出来ない。
ススキが茫漠とする郊外では、文字通り野放図な草木で消えかけた道がいくつもの廃墟に続いていた。
バブル期に車で訪れることを前提に国道沿いに作られた建物群が、バブル崩壊とともに、大半が更地にされることすらなく、打ち捨てられていったままになっている、国内でも珍しい地域だ。
「へぇ、廃墟だらけって聞いてたけど、けっこうオシャレな形してるじゃない。まるでお城――」
言って途中で気が付いたらしい。
セルの顔が真っ赤になった。
「えっと! 反応はまだ中なんでしょ? さっさと行きなさい!」
「え? セルは?」
「なんか、二人で入るのヤだ」
「はぁ?」
「いいから! 行って!」
尻を蹴られた。
実際に入るのはラブホの廃墟じゃなく、その近くの雑居ビル跡なんだが。
まぁ、どっちにしろ俺が先に入ろうと思ってたし、問題ない。
中に入ると、埃のたまった玄関に、大きな足跡が残っていた。
ハガネのものだろう。
しかし、ハガネを逃がしたソルティとか言うのがいたはずだ。
なんで足跡が1つだけなんだ?
「伏兵がいるかもしれないな」
「どっちにしても先手必勝でしょ」
少し離れた後ろで、セルがシャドーボクシングしながら言う。
まだ入ってもいないが、逆にそのくらいの位置にいてくれた方が奇襲を防げるかもしれない。
電気が来ていない廃墟は薄暗かった。
窓が全部割れて昼下がりの自然光が入ってきているのでマシだが、夜は絶対に入りたくない。
脇の扉から飛び出して来はしないかと気になる。
しかし、人の気配はない。
足跡も、そのまま二階に続いている。
見通しも悪く、とにかく上がってみるしかない。
意を決し二階に向かう。
距離を取ったまま、セルもついてくる。
そして、二階に上がった瞬間、廊下の向こうにそれはいた。
「おおおおおおおおおおおおお!!」
突っ込んでくる巨大な塊。
それがハガネだと気づいた瞬間に、六つの心臓が跳ねる。
「敵だ!」
まだ下の階であろうセルに伝えられたのはそれだけだった。
咄嗟に心臓の一つを稼働、ブラッドスーツを起動する。
「ああああああっ!!」
突っ込んでくる筋肉の塊に、カウンターで拳を叩きこむ。
心臓の鼓動は波となり、ハガネのブロックした腕を伝導する。
「ぬうううう!!」
しかし、ハガネはかまわず突っ込んでくる。
腕にダメージはあるはずだが、それが胴体まで伝導しない。
階段の方まで体当たりで吹っ飛ばされ、ハガネごと空中を舞う。




