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リボルバーハート  作者: がっかり亭
第三章:変転
16/59

3-3

「ど、どうしたの姉さん」

 セルが心配そうにゴリ山の肩をさする。

「最近はねえ、ブスいじりがウケないのよ……特にテレビね。全然呼ばれなくなっちゃった……ひくっひくっ」

 泣いてる……

「最近は……コンプライアンス……厳しいですから……」

 種田がか細い声でフォローを入れた。

「コンプライアンス! とんでもない話よ! ワタシがこの顔で結婚できる? 下駄みたいな顔よ? それでも笑いにできるから救われてたんじゃない。ブスはテレビに出ちゃだめですか~じゃあ私はどうやって食べて行けばいいんですか~……ぐすっぐすっ」

 後輩たちが、泣き上戸のゴリ山を慰めている。

「ワタシの居場所はどこですか~」

 どくん、と心臓が跳ねた。

 自分の居場所。

 それを、彼女も探しているのだ。

「それを言ったら私だってそうですよ……」

 今度は、セルがさめざめと語り始めた。

 よくよく見ればかなり顔が赤く、明らかに酔っている。

 体格的に一人用の量でも多くなるから、酔いやすいのかもしれない。

 食べる量が尋常ではなかったので酒量には気が向いていなかった。

「私も、ロリコンばっか寄ってきて……ネタは全然ウケてないのに、水着写真集だしてくれとか投書が来るんですよ?」

「ゴリ山の写真でも送っとけよ。いや、こりゃベタか」

「センパイ! ホントに悩んでるんですから……単独ライブでチケット売れるのにウケないんですよ……みんな、パンチラとかポロリを期待してるんです……下に、スパッツ履いてるっちゅうねん。でも最近はスパッツで興奮する変態が増えてきて、ネットにスレまで立つ始末……【スパッツ】【6枚目】とかが立つんですよ? なのに……ネタの反応はない……芸人に憧れてこの世界に入って……それなのに……」

 嘆きが止まらない。

 それに異常に具体的だ……。

「アタシかて同じです……学校ではデブだデブだっていじめられて、お笑いの世界ならそれも笑いに出来るかと思たら、アタシくらいのはデブに入らなくて、ウケへんし……」

 垣田もさめざめと呟く。

 確かにぽっちゃりではあるが、太りすぎとまでは言えないと思うが……

「僕なんか……垣田のコアなファンから殺害予告受けてますよ……搾り取られてるからガリガリに違いないって……」

「種田なんか搾るわけないやろ! 最初から搾りカスみたいなくせに」

「……そう断言されてもショックですけど……キャラがないって言われるぼくの……唯一のキャラ立ちがそんなのだなんて……」

 し、しかし暗いな……

 これが本当に芸人さんの飲み会なのか。

 俺は気まずさから目を逸らして枝豆をつまんでいると、セルが腕を首に回してきた。

「何よ~その目は! 私だってねえ、ロリコン以外にモテたいし!」

 セル、絡み酒なのか……

「ほらこれ見てよ、このアイドルのSNS!」

 スマホを水戸黄門の印籠ばりに突きだして来る。

 そこに映っていたのは、みっしぇるという名のゴスロリ衣装を着たアイドルだった。

 ウイッグなのか銀髪をロールさせ、ゴスロリもヘソ出しで網タイツのきわどいものだ。

「こ、これがどうしたんだよ」

「よく見て。欲しいものリストを公開してるでしょ?」

 欲しいものリスト……確か通販サイトのリンクで、ファンとかが買ってプレゼントできる仕組みだったか。

「それが……?」

「ホント、ダメね! よく見てよ、「私のアートに理解してくれる人に応援してもらえればいい。下心で近づかれても迷惑」とか呟いてるでしょ。そのくせ貢がせるだけ貢がせてるのよ。なによチェキ5000円って」

「そ、そう……」

「どーせ、みんなこういうのにダマされるんだ。世の中、嘘ばっかり。だーれもわかってくれないんだ……」

 無茶苦茶なことを言ってる……

 だが、言わんとするところは、わからなくもない。

 孤独感というか、社会から認められない感覚……

 場にいた者たちが次々に愚痴を呟きながらくだをまく。

 そんな地獄のように沈痛な空気を変えたのは、カミツキガメ二億匹だった。

「ちゃう」

 急な関西弁だった。

 垣田は関西弁をずっと使っていたけど、二億匹氏は共通語だったはずだ。

 これが素なんだろうか。

 いずれにせよ彼もまた、相当酔っている。

「お前ら、ぐだぐだぐだぐだと何言うてんねん。芸人なんやから、おもろないのが悪いねん」

 一同の愚痴がぴたりと止まる。

「ええか、ゴリ山、お前は、「いそうな人」をやるコントやろ。言うたらモノマネや。女芸人は漫才でもコントでも、結局そこに行く人が多いやろ。女の人は共感力が高いからな。自然とそうなんねん。でも、そこは激戦区やねん。ベテランも、才能ある新人も、女芸人みんな集まるんやから、ブスネタ一本に頼ってる時点でダメやねん。ほかが色んなあるあるネタやる中に、ブスあるあるしか出来んのやから。もっと修行せえ」

「うぐっ……」

 痛い所を突かれたという顔のゴリ山。

「お前もや垣田。デブでいじられたかったらもっと太らんかい! そのままのほうが魅力的やけどな!」

「センパイ……」

「お前でなんどヌいたかわからへんし!」

「最低やないですか!」

「お前はええねん、そのままで。イジるなら種田のガリガリや! 何でそっちで立てていかんねん! 殺害予告受けたんならそれをネタにせんかい! 警察に相談したら、餓死した死体と間違えられたとか! 色々できるやろ!!」

「は……はあ……でも、そうかも……しれませんね……」

 干し柿渋柿の二人は、神妙な顔で頷いていた。

「そんでお前や、藍堂。どう見ても小学生にしか見えんお前が、ロリ漫談やるのは間違いやない。ロリコンしか来ないのも仕方ない。せやけど、そんな奴らを笑わせんかい! エロ目的だけで来た奴らを笑わすのは大変や。せやけど、上の世代はストリップ小屋で営業してたんやで。淡路屋めぐろ師匠とか北部さむし師匠とかもそうや。腕がある人は、ストリッパーにしか興味なくて芸人なんか邪険にしてくる性欲モンスターたちから、ちゃんと笑い取っとんねん!」

「う」

 これも急所をついていた。

 セルは二の句が継げず、俯いた。

「ちゅうかな、お前らこのくらいのこと、今までも誰かが言ってくれたんやないか? 先輩とかディレクターとか構成作家とか、わからんけど。でも似たようなことは言われとるやろ。それが出来てないからこうしてくだまくしかないねん。一ぺん真剣に笑いに向き合ってみたらどうや」

 それは正論だった。

 だから、誰も異議を唱えず、俯いたままだった。

 本当に後輩から慕われているのが伝わってくるし、素人目にも的確な大事なアドバイスをしているのがわかる。

 そう思った次の瞬間――

「ま、俺もそれが出来てへんから売れてないんやけどな!!」

 台無しだった。

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