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リボルバーハート  作者: がっかり亭
第二章:回転
12/59

2-3

「……頭がこんがらがって来た」

 途中から何を言っているかもうよくわかっていない。

「一度に話過ぎたみたいだね。少し休憩しようか」

 バケツ長官がカップを置く。

 すると、奥のほうからとことこと女性がやってくる。

 どうやら代わりのコーヒーを持ってきたようだ。

 成人女性ではあまりみかけない三つ編みだが、よく似合っていて、よすぎるスタイルに制服のサイズが合っていないのか、ちょっと目のやり場に困るタイプの人だった。

 長官の秘書のようだが、ほのぼのしたオーラは、自分が通っていた幼稚園の保母さんを思い出す……。

「ひゃわ~!」

 その女性が何もない所でつんのめった。

 足全体を覆うラバー製の室内靴は、たまにそういうことがあるよな……なんて、放物線を描きながら飛んでいくコーヒーカップを見て考えていた。

 コーヒーカップは中身をぶちまけながら、バケツ長官の頭に向かっていった。

 そして、カップが着弾。

 追って慣性の法則でついてきた熱々の液体が降りかかる。

「いだっちぃ!?」

 痛いと熱いが短い間隔で襲ったせいか、わけのわからない悲鳴を上げてバケツ長官が飛び上がった。

 熱いんだ……アレ……

 バケツの上からでも……

「きららくん! コーヒーを注いでくれるのはありがたいが、頭ダイレクトの8日連続は新記録すぎるよ!?」

「すいませぇん!? すすすすす、すぐ拭きます!」

 動揺しつつ、ポケットからハンドタオルを取り出す女性――きららさん。

 ハンカチではなくタオルなのは、かけなれているということかもしれない。

 いや、工夫の方向はどうかと思うけど。

 8日連続て……

 しかも新記録ってことは断続的に引き起こしてるってことだよな……

「アンタ、いま色々考えてると思うけど、慣れたほうが楽だから。セルも最初はツッコミがいがあるなんて思ってたけど、疲れるだけだったし」

 そういうセルは牛乳をまた飲んでいる。机の上に空き瓶が4本もあるあたり、5本目なのか。

 人の事、言えないんじゃないのか。

「……コホン」

 バケツ長官が咳払いをした。

 どこが口かはわからないけど。

「少なくとも、今はむしろAS能力者のほうが問題なんだよ。人を超えた力を得て、悪用してしまう者が多いんだ」

「それでAASか」

「そう。僕らAASだ。AS能力者をAS能力者によって制す、そういう組織だよ」

「AS能力者によって……? じゃあ、セルの他にもたくさんいるのか?」

「今のところ、ランドセルガールの他は2人だけだね。後は僕らのようなバックアップのスタッフだ。AS能力は、希少なんだよ」

「ふぅん……」

 セルといい、ハガネといい、立て続けにAS能力というものを目の当たりにしたので、たくさんいるのかと思っていた。

「きららさんはAS能力者なのか?」

「とととととととととととととととととととととんでもない!!」

 きららさんは首をぶんぶん振って否定していた。

 いくら何でも「と」が多すぎると思う。

「私なんかなんの能力もありませんよ……そのせいでいっぱいクビになってきましたし……あら? 考えてみれば、なんでここで雇ってもらえているんでしょう?」

「きららくんらしさを買っているんだ」

「そんな~、私なんか凡人ですよぅ。もちみちゃんくらい個性的ならともかく……」

 もちみ?

「そうだ、もちみくんも紹介しなくては」

 きょりきょろと――どこが目かもわからないが――辺りを見渡すバケツ長官。

「あれ? さっきまでいたのに」

 制服を着ている職員らしき人が他に2人ほど見えるが、その人たちではないのか。

 ちなみにその二人は、メガネをかけた男性で、こちらを一瞥もせず、一心不乱にキーボードを叩いている。相当に忙しそうだ……。

「おーい、もちみくーん」

「どーせ、隠れてるんでしょ? アイツ、もの凄い人見知りだし」

「参ったな……能力を使われてたら見つけるのは相当に大変だぞ」

 隠れるのに適したAS能力ということか。

「どうせ、机の下にでも潜り込んで……」

 セルが机をあちこち覗いて回るが外れのようだ。

「ダメだ。どこ行ったのよほんと」

 いないらしい。

 いや、能力がそれだけ凄いということなんだろう。

 と、そこに、きららさんがおぼんを携えてやってきた。

「コーヒーのお替りを持ってきました~」

 なんとなく。

 なんとなくだが展開が読めた。

 俺のAS能力は予知でもなんでもないが、それでも確信できる何かがあった。

 果たして、きららさんは躓いてコーヒーカップを盛大に放り出してしまい、そのコーヒーは、壁の配電盤に向かって飛んでいった。

「あら」

 配電盤に降りかかるコーヒー。

「うわっちゃあああ!?」

 配電盤のドアから飛び出してきたのは、ぽっちゃりした女性だった。

 服はぴったりとしたスポーツウェアのようなタイツだが、体型が強調されている。

 癖っ毛の黒い髪がもさもさと腰まで伸びており、無精さを思わせる。

 あまりに突然かつ意味不明なため、声も出なかった。

 というか――

「どうやってそんなところに入ってたんだ……?」

 配電盤は縦1メートル、横40センチほどだろう。

 その上、中には機材が詰まっている。

 太めの成人女性が出て来る隙間などないはずだ。

「ちち……もう! 何するんスか!!」

 灰色のスポーツウェアをコーヒー色に染め、その女性が叫ぶ。

「すいませぇん、もちみさん……着替え持ってきますから……」

「いいっスよ。また転ぶかもだし……自分で行くっス」

 去って行く彼女をぼーっと見ていると、くまのある目で睨まれた。

「何見てるんスか。そんなにボクのだらしない体型が珍しいっスか」

「い、いや、どうやってあんなところに入れてたのかって思って……」

「ああ、もちろんAS能力っスよ」

 もちみは、自分のほっぺたをにゅーと引っ張ると、それがどこまでも伸びていく。

「え? え?」

「ボクの能力は、体を自由自在に変形させられるんスよ」

「だからってあのスペースじゃ無理だろう?」

 どう考えても配電盤は薄く伸ばしたところで入れるスペースはない。

 それこそ今着てる服くらいなら何とかなるだろうが……。

「配電盤からは電源ケーブルをつなぐ配線があるんスよ? そこに入って状況を伺ってたんスよ……まぁそこに熱々コーヒーが流れてきたんスけど」

「ごめんねぇ~」

「許すっス」

「ありがとねぇ~」

「はいはい、オチの無いトークはいいでしょ」

 パンパンと手を叩いてセルが流れを止める。

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