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素晴らしいこの世界の片隅で。

サインポール

作者: ニチニチ

ぐるぐるが回っている。

幼い自分は、それを不思議そうに見ている。

それは、手品のように感じて、いつまでも見ていられた。


 

 

 

 




あと何回、この心地よい時間を過ごせるのだろうか。


 

 

 


 



数年前に、おばちゃんは心臓の病で倒れた。

それは、生死をさまようぐらいで。


大がかりな手術も終わり、なんとか日常に戻ってきた。

でも、その時から、少しずつ体が動きにくくなっていたみたいだった。


 

 

 



ごめんなさいね。

最近、また体が動きにくくなってしまって。


 

 

 



この頃から、僕は、自分の髪をセルフカットをするようになっていった。


 

 



子供の頃、友達がいなかった僕の。

親にも話せなかったことを、話すことができた唯一の人。

それから年を重ね、いつの間にか、僕がおばちゃんの相談を受けるようになった。



おばちゃんの店には、頻繁にお客さんが来る。

でも、そのお客さんたちは、みんなが髪を切りに来るわけではない。

みんな、釣った魚や、採れた野菜などを持ってくる。


 



少しぎこちなくなってしまった、ハサミの音がする。

その音を聴く度に、少し胸が苦しくなる。

 

 

 




あのね、おばちゃん。

直接伝えることはできないけど。


 

 

 



実はね。

だいぶ前から、セルフカットをするようになったんだ。

最近ではね、切りたての髪をセルフカットするようになってしまったんだ。

でもね、それでも変わらずに、僕はこの店にずっと通いたいと思っているんだ。




自分の中に流れる時間。

それは、やわらかく、やさしく、ゆったりしている。

規則正しいぐるぐると、少しぎこちないハサミの音。


僕は、そんな包み込んでくれる時間に、ゆっくりと身を任せている。


 



仕事中に、たまに店の前を通ることがある。

その時、ぐるぐるが回っていると、ほっとする。

それを見ると、何だかやさしい気持ちになれる気がする。


 

 

 

 



赤信号。

車の窓から、見ていた。

今日もぐるぐるが回っていた。





 

 

 






ぐるぐるが回っている。

大人になってしまった自分は、それを不思議そうに見ている。

これって、何て言う名前なんだろう。





最近、少し余裕がなくて、ささくれてしまった自分の心。

それが、ゆっくりと丸くなっていくのを感じる。





青信号。

僕は、小さくひとりごとをつぶやく。

そして、ひとり頷くと、少しずつスピードをあげていった。

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