Phase XVIII 【剣の舞】
共暦2000年1月。深夜0時を回って、日付は22日。
二十四節気の1つ、1年で1番寒いと言われる1月20日の『大寒』も過ぎたが、肌を裂くような寒さは一段と厳しくなっていた。
こんな日にバイクで追い駆けっこなんてするもんじゃない。
いつもの黒いフルフェイスは良い。黒のレザーパンツとショートブーツも足元からの冷えを防いでくれる。背中と袖に派手なプリントの入ったお気に入りのジージャンも、まぁ、良しとしよう。問題はその下。いくら話題の発熱繊維とは言え、Tシャツ1枚は大失敗だ。
ちょいと訳あって、指先まで包帯でグルグル巻きにした左腕だけは温かいんだが、もうかれこれ10分になるか?
東京・大阪・名古屋に次ぐ第4の都市として急成長を遂げる米国府縫翼区を囲むように走る、全長23kmの環状高速自動車道をそろそろ1周して、スタート地点に戻っちまいそうだ。
色とりどりのネオンサインと薄いオレンジの照明灯が流れるのに加え、都会の割に高層ビルが少なく、そのおかげで街の中心に立つシンボル、全高57m・自重550tを誇る『勝利の五神像』がどこにいても見守ってくれる。工場もほとんど無いんで、意外と星が奇麗だ。
『日本のロマンティック街道』なんて、ドイツ人が聞いたら怒りそうな的外れの別名も付けられてるが、今のこの状況はロマンティックとは程遠い。
出来ればガールフレンドとタンデムしたかったところだな。
「何をニヤニヤしてるの? またくだらない事を考えてた?」
「うるせ」
おっと。今のは決してガールフレンドじゃねぇぜ。
こいつの名はベッツィ。
「Uターンしたわ」
「逆走?!」
悪りぃ、この女の話は後だ。
「危ねッ!」
俺と分離帯の間ギリギリを擦り抜けて行きやがった。
「居合抜きのつもりか?!」
前を走ってた野郎の乗ってるバイクは、SUZUKIの名機【KATANA】
直列4気筒。総排気量1100cc。その名の通り、先鋭的なフォルムと、カウルに刻まれた『刀』のロゴが印象的で、1980年にドイツで開催されたモーターショーでは『ケルンの衝撃』と呼ばれ、販売開始と同時に国内外を問わず一世を風靡した。もちろん、ご存知だよな?
でも、俺のバイクはもっとすごいぜ。
コストパフォーマンスを無視した性能やデザインでマニアックな人気を誇るKYOHZUKA製のアメリカンバイク、SCIence of KYOHzuka、略して【SCI-KYOH】
KYOHZUKAの科学の粋を結集した最高傑作。
総排気量1600cc。親会社である京塚重工が独自に開発したX型8気筒エンジンを搭載したパワーとスピードは、他の現行機を寄せ付けない。フロントホイールに電気モーターを内蔵した、世界初のハイブリッド2WDバイク。
……なんだが、開発途中にプロジェクトが無期限延期となったんで、現在唯一そのX型エンジンを積んだプロトタイプって事になる。
何んで俺がそんなマシンを持ってるかって? それはな、
「ボーッとしてないで。追い駆けるんでしょ」
「分かってるよ」
まったく、口うるさい女だな。
この話も後にしてくれ。
「行くぜ、ベッツィ」
KATANAを追って、俺もUターンした。
一方通行なら対向車を気にせず追い駆けられると思ったんだが、当てが外れた。お巡りさんに見つかったら即逮捕だな。
この時間は車の数が少ないとは言え、家路を急ぐ自家用車、とっとと仕事を終わらせたい営業車、眠いのを我慢して走る長距離トラック……、どの車もキャノンボールみてぇなスピードだ。
そんな中で逆走しようもんなら、擦れ違いざまの相対速度は優に時速200kmオーバー。しかも真っ直ぐ走るならともかく、右へ左へ車線変更までしやがる。
正直、これ以上、男のケツは追い駆け回したくないね。
【KATANA】に合わせて、フルフェイスのメットとツナギをシルバーでコーディネートしたおしゃれライダー。それだけなら俺もこんな無茶な誘いに乗ったりしねぇ。
ところがどっこい、こいつは赤い刀身の刀を抜き身で背中に背負ってる。どう考えたってヤバい奴だ。こんな奴は野放しには出来ねぇ。
で、始まったのがこの追い駆けっこって訳だ。
「あの男に合わせて右往左往するより、路肩を真っ直ぐ走った方が早いわよ」
冷静じゃなかったな。確かにおっしゃる通り、そこまで付き合う必要は無かった。
こんな走り方してたら通報されても良さそうなもんだが、高速機動隊のパトカーが端から追って来ないのは、追い駆ける方が危険って事か。
ひょっとして、別働隊が待ち伏せしてるとでも思って、慌ててUターンしたのか?
「やっぱり路肩は空けたままにして」
て事は、
「そこのバイク、止まりなさい!」
お定まりの台詞と共に路肩を逆走して白バイコンビが登場。功を焦った新人隊員なのか、無茶をする奴らだ。
ヤバいから近付くな、なんて言っても帰ってくれそうにないな。
「気を付けて。仕掛けてくるわ」
野郎が背中の刀に手を掛けた。
途端、赤い刀身が対向車の間を蛇みてぇにウネウネ伸びて、20m後ろ、2台の白バイの前輪を続け様に切り裂き、元の長さに戻った。
当然、白バイコンビは仲良くクラッシュ。大炎上だ。
「斉天大聖孫悟空の武器より便利そうね」
如意棒の事か? 確かに、伸縮自在に加えて、鞭のしなやかさと鋼の鋭利さを合わせ持ってる。
白バイコンビも何が起こったか理解する暇は無かっただろうな。
「ナイト、運転代わる?」
高速を逆走してる時にバイクの運転を代わるなんて、クレイジーな女だと思ったか?
さっきも言ったが、ガールフレンドとタンデムしてるわけじゃない。紹介が遅くなったが、この女はベッツィ。名前はもう言ったっけ?
こいつの正体は、SCI-KYOHに搭載された超高性能AI・Elizabeth。
マシン各部をオートクルーズモードで制御する、要は自動運転も可能だ。
バトルとチェイスの同時進行はキツそうだから代わってくれるって事なんだろうが、
「I have control」
勝手にマニュアルモードをオフにしやがった。そのつもりだったから問題は無いんだが、一応言っとくか。
「返事くらいさせろよ」
ちなみにナイトってのは俺のニックネームだ。
今さらながら自己紹介すると、俺の名は葛城深也。深也を深夜とモジって、おふくろがミッドナイトと呼び出した。そのうち簡略化されてナイトになったんだが、さすがに19にもなるとそんな中坊みてぇな呼び方する奴も少なくなった。こいつと後は……、
「来るわ」
度々悪いね。続きはまた今度。
「シートロックも使うわよ」
下半身をハーネスで固定すると落馬の心配が無くなる。これで両腕が使えて、ケンタウロスの気分だね。
「さあ来い、刀野郎!」
野郎が刀の柄を握ると、再び赤い刀身が蛇のように鎌首をもたげて襲い掛かってきた。
だが、俺もベッツィも焦ったりしないぜ。左腕を挙げて待ち構える。
この左腕があれば、どんな攻撃も無意味だ。
赤い蛇は俺の左腕を斬り落としたと思っただろうが、金属同士がぶつかるような甲高い音が響くだけ。俺の左腕には傷1つ付いてない。
ミラーシールドのフルフェイスの中で、野郎はこう呟いてるはずだ。
「あれが破壊不能の左腕か」
ってな。
ケガをしてる訳じゃない。包帯はこの特殊な能力でメタルシルバーに輝く左腕を隠す為。
野郎はもう一撃、さらに一撃と繰り返し左腕を狙ってくる。でも、何度やっても同んなじだぜ。
「油断しないで」
「解ってるって」
調子に乗ってるのが見透かされたな。いつ別の場所を狙ってくるか、油断は禁物なんだが、それにしても、
「何ムキになってんだ?」
何回も斬り付けられたせいでジージャンの左袖はボロボロ。包帯が丸出しになっちまってる。お気に入りだったのに、あの野郎、
「ブン殴ってやる! 近付け、ベッツィ!」
「了解」
近付く間も攻撃は激しさを増すばかりだ。
「死角に入ってタイミングを計るわ」
ベッツィがバックミラーに映らない右後方に付けるが、野郎は死角を感覚で覚えてるのか、左腕への攻撃は止まらない。
「タイミングなんてどうでもいい! 行け、ベッツィ!」
攻撃を受けつつ、一気に加速して真横に付ける。
「ホントにしつけぇッ!」
赤い刀身を叩き割ってやろうと左腕を振り回したが、空振り。
急減速した野郎は後ろからSCI-KYOHの後輪と前輪をほとんど同時に斬り裂いた。
「そうくるでしょうね」
ベッツィは慌てない。
このSCI-KYOHが履いてるタイヤは二重構造になってて、その空間には京塚グループの1つ、京塚医学薬学研究所、所長の京塚龍臣の名前を取った通称【京龍ラボ】が、実験過程の副産物として精製した【JEM(=JELLYとGUMを組み合わせた造語)】と名付けられた物質が装填されてる。通常はゼリー状だが、空気に触れると瞬時に固まる性質で、バーストするのを防いでくれる。
更に、ホイールにあるエアインテークから空気を取り入れ、減少した空気圧を自動的に調整する機能もあるんで、何事も無かったように走り続ける事が出来る。
……んだが、ベッツィはやられたフリをして減速。野郎の横にピタリと付けた。
「覚悟しやがれ!」
メットを叩き割ろうと左の裏拳を繰り出したが、素早く戻った赤い蛇が野郎の周りに蜷局を巻いた。
「そんなもんで防げるかよ!」
硬さだけなら俺の勝ちだ。
顔は拝めなかったが、粉々に砕け散った刀の破片はメットのシールドを割り、目線が合った。
何んだよ、ビビるどころか焦ってもねぇ。ムキになってるのは俺の方だったか?
野郎は刀の柄から右手を放し、スロットルを開けると、ETCのバーを飛び越えて、高速の入り口を出た。
「もちろん追うんでしょ?」
答えるまでもない。ベッツィも後に続いて、バーを飛び越えた。
後ろでタイヤの擦れる嫌な音が何重にも重なってる。
「他人の事は言えねえけど、無茶苦茶な野郎だ」
ケガ人がいないのを祈っても無駄だろうな。
「この入口には2分後にパトカーが1台。さらに4分後に2台到着。白バイが炎上した地点には既に救急車を含めた消防隊が向かってる。自分達で通報したみたいね。大目玉でしょうけど、一先ず、死亡者は出てないわ」
ベッツィがSCI-KYOHに搭載されたレーダーで得た位置情報と、警察や消防の無線を傍受した情報を整理する。
あれだけの暴走と戦闘に巻き込んで誰も死んでねぇのは不幸中の幸い。特に白バイコンビが即死を免れたのは奇跡的だな。
「これ以上追い詰めるとヤベぇかな?」
「そうでもないみたいよ。法定速度で安全運転してるわ」
「はぁ? あそこまでやっといて、どう言うつもりなんだ?」
「有利に戦える場所を探してるんじゃないかしら?」
ベッツィの予想はズバリ的中。
野郎は昼間の人ゴミが嘘のように静まり返ったオフィス街でKATANAを降りて、俺達を待ち構えてた。
徹夜組のサラリーマンなのか、ビルには灯りがチラホラ点いてるが、人通りは全く。たまに街路樹がザワつくくらいだ。
俺が砕いた刀は右手に持ってる。刀身は30cmってとこか。
メットを脱いだ顔は、少しパーマの掛かった長めの黒髪。その目を見た奴は石になっちまうって言うメドゥサのように、鋭く妖しい眼光を放って、こっちを睨んでやがる。
「武器と同んなじで蛇みてぇな目をした奴だな」
「他人の事を言える目つきじゃないでしょ?」
「うるせ」
「それにあの武器、まだ秘密があるはず。でなきゃ、とっくに逃げてる。無駄口を叩いてると痛い目に遭うわよ」
「だな」
なんて無駄口を叩いてる間も、ベッツィはSCI-KYOHに搭載されたカメラや各種センサーで得た情報から、野郎の能力を分析してる。だったら頭脳労働は任せて、俺は肉体労働に専念するか。ギャラは同んなじ、だがな。
SCI-KYOHから降りてメットを脱ぐ。向こうも顔を出してるんだ。これは、
「礼儀だろ」
「変な所だけ律儀ね」
変な所、は余計だ。
「さぁ、第2ラウンド開始といくか」
ボロボロにされて邪魔になった左袖を引き千切ると、野郎が薄っすらと笑った。
「その左腕、破壊不能なんだって? ハッタリが過ぎるね。僕が斬り落としてあげるよ」
さっき散々斬ろうとしてたのを忘れたのか? それともあれは本気じゃなかったとでも?
一気に距離を詰めて振り下ろされた刀を左腕で受け止める。
「斬れるもんなら斬ってみろ」
挑発には挑発で返す。これも礼儀だろ?
しばらく睨み合った後、仕掛けてきたのは野郎からだった。
挑発とは裏腹、力任せに左腕を3回斬り付けてきた後は意地を張る様子は見せない。刃渡りは30cmほどだが、こっちは丸腰。リーチの差は歴然。左腕で防いでたら殺られはしねぇが、どうにもこうにも埒が明かねぇ。時間ばかりが過ぎていく。
……と思ったが、野郎の息遣いが荒くなって、スピードが落ちてきた。暗殺者にしては持久力が無ぇ。
ま、あの能力がありゃ、こんなダラダラした戦いはした事無ぇかもな。
「鉄分不足じゃねえか? 息が上がってんぞ」
ハエが止まりそうな……、は言い過ぎだが、目に見えて遅くなった攻撃を左手で掴み取る。普通の奴なら、指5本全部落とされて、チョンマゲロボットの手みたいになっちまうナリ、だな。
「確かに、鉄分は足りてないようだね」
蛇みたいな目は変わらず、挑発に応える元気も残ってる。
「僕なら……」
「あ?」
「仮に僕があんただとしたら、正体不明の武器に軽々しく触ったりしないけどね」
「ああ?!」
そんな事言われたら、刀に目が行くよな。
「何言ってやが……!」
「下がって、ナイト!」
野郎から目線を外した途端、ぶっ壊したはずの刀がアッと言う間に復元して、顔面に向かって伸びてきた。
「るッ……痛ッてぇッ!」
俺が左耳に付けてるイヤーカフは、ベッツィとの通信器になってる。おかげで頭が串団子になるのは免れたが、右頬が斬られた。
チッ、男前が台無しじゃねぇか。
すぐに次が来ると思って距離を取ったが、何故か野郎の方も下がった。と言うか、逃げた?
更に息が荒くなって、膝を擦りながら、隠れるように街路樹の陰へ這いつくばっていった。
「流血は彼の方が深刻ね」
「流血? 血なんか流してたか?」
俺の声は骨伝導で通信器に伝わる。傍から見たらデカい独り言だな。
「つうか、隠れて何んか食ってねぇか?」
目を凝らすと、あの野郎、
「何やってんだ?!」
土を食ってやがる!
「あの刀の赤い刀身は彼の血液で生成されてる。長くしたり、再生したりすれば、それだけ多量の血液が必要になる。そう言う能力」
ベッツィの分析が終わったようだ。
「土を食べたくなるのは、極度の鉄分不足による症状よ」
自らの血を捧げての勝利。
「まさに諸刃の剣ってやつか」
「刀は片刃よ」
「知ってるよ」
細かい女だな。にしても、
「土食って貧血が治るなんて、聞いた事無ぇぞ」
「聞いた事が無いのは治らないからよ。彼は肉体的にも精神的にも、もう戦える状態じゃない。あと3分もすれば、この辺りにもパトカーが通るから、この場は早く離れた方が良いわね」
いいや、良くない。
「野郎はまだ何んか企んでやがる。あの目はヤバい」
野郎は再生した刀を杖代わりに地面へ突き立てて、ようやく立ってる感じなんだが、どうにも納得がいかない。
「まだ策があると警戒したのは買いかぶりだったわ。諦めの悪い男は何も策が無くても、ああ言う目をするのね」
「野放しに出来ねぇだろ。人を殺してるし、死にかけた奴も大勢いるんだぞ」
「もう追って来ないわ。これ以上無駄に能力を使って、自分の首を絞めるとは思えない」
それでも、
「ダメだ」
「何をこだわってるの?」
「まだだ……」
「何が?」
「……まだ1発も殴ってねぇ」
本音を言わせんな。
「そんな事だろうと思ったわ」
解ってたのかよ。意地が悪りぃな。
「それなら聞くけど、まともに動けない相手を殴り飛ばすなんて、あなたに出来るの?」
「俺は冷酷非情な男なんだよ」
痛いとこ突いてきやがる。
「クソッ!」
左拳でアスファルトをブッ壊したくらいじゃ、ストレス解消にもならねぇ。
「やられ損かよ」
殴れねぇもんはしょうがねぇ。諦めてベッツィの言う事を聞こうとした時、
「危ない、ナイト!」
SCI-KYOHのセンサーが地下で蠢く何かを捉え、急加速で俺の前に走ってきたと同時に、野郎の刀がアスファルトを突き破って現れた。
「ベッツィ!」
盾となったSCI-KYOHを斬り付け、荒れ狂うが、
「大丈夫。この程度では私も壊れない。ただ、塗装が削られたのは腹が立つわね」
闇より暗い黒と、濁った赤の斑模様に毒々しく変色した蛇は、効果無しと見たのか、巣に隠れるように元の穴へ戻っていった。
「鉄分補給は完了したよ」
息も絶え絶えのくせに、
「余裕ぶっこいた笑い方しやがって」
「当然でしょうね。土壌に含まれる鉄分を吸収して、ほぼ無尽蔵に形成されるあの刀から逃げる事は事実上不可能よ」
誰が逃げるって?
「パトカーが来る前に決める。ナビゲートしろ、ベッツィ!」
「了解」
刀に支えられて立つのがやっとに見える(実際そうなんだろう)が、刀を掴んでりゃ攻撃は出来る。しかも切っ先は1つじゃない。
「左、正面、後ろ、右」
次々とアスファルトを突き破って現れる毒蛇は、まさにメドゥサの髪の毛。
ベッツィの攻撃予測がありゃ、一気にいけると思ったんだが、甘かった。
右に左に避けてたら、俺の方も息が上がってきた。明日からジョギングでも始めるか?
「いいかげん諦めやがれ!」
足を止めたら串刺し。避けるのも面倒臭せぇ。なら答えは1つ。
湧いてくる蛇の群れを片っ端からブッ壊す。
「俺の左腕は破壊不能だッ!」
10匹、20匹と斑の毒蛇をブッ壊しながら、野郎の目の前まで突き進み、左腕を思いっ切り振りかぶる。
切っ先だけでなく、刀丸ごとブッ壊しゃ、さすがに再生できねぇはずだ。
野郎の手元に目掛けて、渾身の一撃を放つ。
が、当たらない。
野郎は刀の鍔に足を掛け、切っ先じゃなく、逆に鍔元を伸ばして、俺の頭上に逃げやがった。
「ホームランか、三振か。一発狙いの助っ人外人だね」
野郎の台詞の直後、
「ナイト、上!」
ビルの3階辺りから、今までより10倍はデカい毒蛇が現れた。
鉄骨を吸収しやがったか? でもな、
「俺は曲者バッターだぜ」
空を切った左腕を振り子のように思いっ切り振り戻して、左肘で刀を叩き折る。
「振り逃げでサヨナラ大逆転だ!」
足場を無くして落下する野郎に、体勢を立て直す力は残ってねぇ。勢い余って自分の能力で左脚を切断しちまいやがった。
飼い犬に手、じゃなく、飼い蛇に脚を噛まれたってか?
こんな状態じゃバイクにも乗れねぇだろうが、一応言っとくか。
「ブン殴るのは勘弁してやる。もう追っ駆けてくんじゃねぇぞ」
次回 Phase I 【Runaway】