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「お兄さん、かっこいいね。何してる人?」
話題を変えると、透子は安堵の色を浮かべて、
「スポーツトレーナーの仕事をしてるの。今、野球の実業団で働いてるって言ってた」
「なるほど」
那智は納得して、
「道理で惚れ惚れするような体つきしてるわけだ」
正対しているときもそうだが、後姿を見るとおそろしく均整の取れた体だということが分かる。
相当鍛え上げられた背筋でなければ、あそこまで美しい姿勢は保てない。
「佐倉君」
透子は不意に真顔で言った。
「うちは大家族で、兄弟や親戚がいっぱいいるの。同じ家にいろんな人が住んでるの。本当にいろんな人が」
那智は相槌を打つのも忘れて、透子の逼迫した瞳を見つめていた。
「だから、もしかしたらあなたに嫌なことを言ってくる人がいるかもしれない。嫌な思いをさせることになるかもしれない。そうならないように精一杯頑張るけど、でも」
「いいよ。大丈夫だよ」
宥めるように言い、那智は微笑した。
「不幸があったところに、いきなりよそ者が入り込んできたら、嫌がるのは当然だと思う。でも、俺そういうの気にしないから。そんなに神経細くないつもりだし」
すがるような透子の表情が、かすかに和らいだように思えた。
絶海の秘境、女神が流した真珠の涙、手つかずの自然が残された最後の楽園――。
豊玉島を飾る通り名は燦爛と輝き、島を夢見る者たちの心に宝石のような彩りを添えてくれる。
しかし、隣で打ち沈む彼女の瞳に果てしなく広がる、この絶望は何だろう。
帰りたくない、帰りたくないと声なき声が叫んでいる、それほどまでに故郷を忌避する理由は何だろう。