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夜の竹芝桟橋は思った以上に人でごった返していた。
生温かい人いきれと出発時刻を報せる電光掲示板、時折鳴り響く案内放送。
巡航ルートの島々を紹介するパンフレットや乗船券を手に、人々は大きな荷物を持って目まぐるしくゲートをくぐり抜けてゆく。
帝国汽船『あこや丸』は本土と豊玉島を結ぶ、ほぼ唯一の交通手段である。
東京沖合から約三百キロ、伊豆諸島の南方に位置する面積二十平方キロメートルほどの小さな島、別名を真珠島といった。
船が竹芝桟橋を離岸したのが午後十時、島へ到着するのは翌朝の六時になる。
島への往路と復路は一日一便のみであった。
突然の出立に慌てて荷物をまとめ、JR浜松町駅までやってきた那智は、何が何やら分からぬまま乗船券を手渡されてあこや丸に乗り込んだ。
料金を支払おうとしたが、真は交通費と滞在にかかる費用の一切を持つと言い、押し切られる形になった。
通された船室はまるでホテルのように豪華で、ベッドやトイレやシャワーにテレビまで用意されていた。
船内マップを調べてみると、この船に特等室は二室しかなく、料金は三等客室の六倍もするらしい。
もう一部屋は真と透子の兄妹で使うのだから、事実上の貸し切りだった。
今さら嘘でしたと後に引くこともできず、流されるままやってきてしまったが、さて、どうしたものか。
ベッドの上に荷物をおろし、その隣に腰かけてぼんやりしていると、上品なノックの音がした。
開けると、紺色の制服に身を包んだ若い男がビジネスライクな笑顔で立っていた。
「お休みのところ大変恐れ入ります。佐倉那智様でいらっしゃいますでしょうか」
はあ、と那智が頷くと、彼は値踏みするような目つきで、
「失礼ですが、上陸許可証はお持ちですか?」